スズキ会長の「軽自動車もEV化が必須」発言から感じる危機感とは?【世界のルールに逆らえない】
こんばんは、@kojisaitojpです。年齢が90歳を超えているとは思えない、賢明な判断と今度の展望だと思いました。
年齢を全く感じない思考回路と「EVについていけないから自分は引退」という潔さ。
スズキの鈴木修会長「電動化を徹底、軽自動車残す」: 日本経済新聞 https://t.co/NZbM367xXZ— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 9, 2021
スズキの鈴木修会長が引退(肩書きは相談役)するにあたってのインタビュー記事なのですが、「今後の軽自動車はEV化しなければ生き残れない」とはっきりと断言しています。
私はよく「老害」とか「加齢臭」という言葉を使っていますが、これは別に実年齢のことではなく「いつまで経っても古い価値観や成功体験に拘束されて新しいことをやろうとしない人」を揶揄する表現として使っています。
私の基準だと年齢は関係ないので鈴木会長のような人物は「老害」でも「加齢臭」でもありません。むしろ20代30代とかで「EVは充電ガー」「二酸化炭素の排出量ガー」と揚げ足を取るようにEVを誹謗中傷する若者こそが「加齢臭」です。
今日はスズキが「軽自動車の生き残り」のためにEV化を表明した意図として考えられる「世界のルール」
目次
「EV化が世界のルール」への対応を表明するスズキやホンダ
今回の鈴木修会長の「軽自動車もEV化しないと」という危機感は、世界中がEV中心にシフトしている流れを敏感に感じ取ったものであると言えます。
実際に私のブログでは何回も述べてきましたが、次世代の自動車の標準がEV(それもPHEVではなくBEV)になることは濃厚で、それはヨーロッパや中国、アメリカだとカリフォルニア州などで既に決まっている「2030年〜2035年にかけて内燃機関車(エンジン搭載車)の販売を禁止する(ノルウェーではもっと早く2025年)」という法律が続々と制定されていることからもはや覆すことが不可能な流れです。
忘れてはいけないのは「どういう車を販売していいのか決めるのは法律を制定する各国政府」であって決して車メーカーではないという点です。
これがヨーロッパだとEUという単位で行動しますのでEUに加盟しているドイツやフランス、オランダなどの主要国がいち早く内燃機関車の販売禁止を表明していますし、加盟していなくてもEUと関係が密接なイギリスやノルウェーなども既に「内燃機関車は廃止してEVに切り替える」という方向で動いており、実際に法律も制定されています。
この「世界で設定されたルールに抵抗しても車を売れなくなるだけ」ということについては以前も述べていますのでぜひご参照ください。
電気自動車(BEV)という「ルール変更」に適応する韓国勢と抵抗する日本勢【ウインタースポーツを見習え】
韓国の起亜自動車が「PHEVの賞味期限は2022年」と断言し、一気に11車種の電気自動車の開発・販売に踏み切ることを発表しました。2025年のノルウェーを皮切りにPHEVさえ販売できなくなる国が続出する中でハイブリッドに固執する日本勢が生き残る方法はあるのでしょうか?実はウインタースポーツの世界にヒントがあります。
ウインタースポーツを例に「ルールを設定されたらそのルールの中で勝つ方法を考えるしかない」ことについて述べましたが、これはスポーツに限ったことではなくビジネスの世界でも一緒です。
特に自動車のように「どんな自動車を売るのが合法で、どんな自動車を売るのが違法なのか?」が法律で決まってしまう産業は世界各国の政府の方針に逆らったらその国の市場から退場させられるだけですのでルールに合わせることが義務になります。
しかも私がこの記事を書いた当時以上にアメリカが先日も記事にしましたがバイデン大統領の「自動車の未来は電気だ」という演説があり、全米で40年以上連続でトップの売り上げを誇るピックアップトラックの「F-150」がEV化して登場し、最初の1週間だけで20000万台の予約を集めたように、世界のEV化の流れは間違いなく加速しています。
そんな流れの中でホンダが日本メーカーでは最初に(ここが日産じゃなかったのは謎)「全車EV化する」との方針を表明しました。
ヨーロッパ、北米、中国と世界の主要国がEVにシフトしている中では当然の判断です。
となるとこれらの市場、特に日本勢の場合は北米市場と中国市場で内燃機関を搭載した車(もちろんハイブリッド車も含みます)を販売できなくなるのは死活問題ですので、例えば先日のホンダ(北米と中国の売上が約半分以上)の「全車EV化」の表明につながるわけです。
ホンダの「2040年まで全車EV化」については以前解説していますのでこちらをご参照ください。
ホンダの「2040年までに全車EV化」がグローバルで生き残る手段?【日本郵便のEV化計画も紹介】
世界のEV化の流れに遅れていると思われていたホンダが日本勢で初めて「2040年までに全車電気自動車化」の計画を発表と衝撃が起きました。その計画もエリアごとに具体的なプランが練られており、日本市場の雇用も維持できる地に足がついた計画です。そのホンダの2輪EVを既に使用している日本郵便の脱炭素の計画と一緒に紹介します。
ですのでスズキの鈴木修会長が「軽自動車が生き残るためにEV化が必須」と自らが退いた後にスズキの軽自動車がEV化することを示唆したわけで、90歳を過ぎたご高齢でありながら世界の流れが的確に見えていると私も驚きました。
スズキの最大の市場インドもEVと再エネへシフト
このようにスズキが「軽自動車のEV化」を表明したことに対して、「インド(スズキの売上の大半を占める)でEVなんか広まるわけねぇだろ」などと新興国をバカにしたような批判が飛んできますが、これこそが日本人の勘違いです。
実はインドも猛烈なスピードでこれまでの化石燃料主体の社会を再生可能エネルギー主体に転換しようとしています。
India’s Tata Power Renewable Energy Plans $470 Million IPO For Yieldco
One of India’s leading renewable energy companies — Tata Power Renewable Energy — has announced plans for a public listing of its infrastructure investment trust or yieldco. The news of possible public listing of the yieldco comes just days after multiple media outlets reported that talks to onboard Malaysian petroleum giant Petronas had fallen through. […]
以前からアフリカを例に時々お話ししているように、発展途上国や新興国ほど国家の支出に占める「燃料代(大半は化石燃料)」の割合が大きく、これが国家財政を圧迫している国がほとんどです。
ガソリン車やハイブリッド車しかなかった時代ならいざ知らず、EVという化石燃料に頼らなくても済む移動手段が生まれれば「これで高額な燃料代から解放される」とEVに飛びつくのは必然です。
しかも発展途上国や新興国の方が都市開発も進んでいない関係から、太陽光発電などを行う土地はいくらでもあります。
「送電網もないくせに」的に発展途上国をやたらとバカにする人が日本人には多いですが、送電網がない地域でも太陽光パネルと蓄電池があればすぐにでも電気が手に入るのが再生可能エネルギーの特徴です。
引用したニュースではインドでトップクラスの財閥であるタタ(ジャガーのオーナーでもあります)が再生可能エネルギーに莫大な投資を行うことを表明したものですが、以前私のブログでも取り上げたようにテスラもインドの14億人の市場を狙って上陸しようとしています。
インドは現地生産が原則(関税がとても高い)になりますので、インドのどこかに(南部のベンガルールという説が有力)ギガファクトリーを建設して生産することでしょう。
テスラのインド進出については以前記事にしてますので、こちらをご参照ください。
「テスラのインド市場参入」が持つ大きな意味とは?【インドネシアにも?】
テスラが中国と並ぶ約14億の人口を誇るインド市場への参入を表明しました。実はインドに進出するということはギガファクトリーが建設されるということを意味しますので、Googleやマイクロソフトなども拠点を置くハイテク大国インドにテスラが本格的に参入することになります。電気自動車に消極的なのは日本だけという状況が続きます。
1980年代、日本メーカーが北米市場しか見ていない時代に今回退任する鈴木修会長だけがインド市場に目をつけ、実質一社独占でインドで自動車を生産し続けたスズキからすれば死活問題です。
(ちなみに現在でもスズキのインドでのシェアは50%を超えています)
スズキとしてはドル箱のインド市場を失うことは即経営危機に直轄する一大事ですので、今後徐々にEVに切り替えていくという方針は至って妥当なものです。
スズキの代表車種の一つ「アルト」や「スイフト」がEVに変身する日が近いかもしれません。
正直言ってしまえば「EVもやるけど水素燃料電池車(FCV)もやるし水素エンジンの開発もする」的にあらゆる方面に手を出す「全方位戦略」はトヨタくらいの規模と利益のある会社でもない限り不可能なのが現実です。
そういう意味でも鈴木会長の発言は地に足がついた妥当なものであると言えます。
世界のEV化に抵抗しているとトヨタも危ない
今日はスズキの鈴木修会長の発言から「世界中がEVにシフトすることを理解している賢明な判断」だということを論じてきましたが、今や日本勢で最もEVに抵抗しているのはこの会社でしょう。
トヨタは水素に活路、ホンダは「決別」 脱炭素へ探るエンジン戦略
気候変動問題への処方箋として期待される脱炭素に向けた、国内自動車メーカー各社の戦略の違いが鮮明になってきた。4月に社長が交代したホンダは国内メーカーで初めて、全…
世界がEVにシフトすることが決定的な中で「水素燃料電池車(FCV)」はまだわかるにしても、これから「水素エンジンを開発して部品メーカーなどの雇用を守る」などと言っているのは私からすると「正気か?」というレベルです。
なんて感じのこのメーカーのことを批判するとすぐに「トヨタだって来年からEVを出す」だとか「全固体電池ができればテスラなんか軽く逆転する」的なコメントが殺到するのまでがデフォルトですが(笑)。
ですが私も以前取り上げたトヨタのEVである「BZ4X」に関しては「プラットフォームが2015年のもので既に時代遅れでは?」という指摘もされており、来年以降に発売したところでユーザーを満足させるクオリティのものを作れるのかすら疑問です。
先日北米でbZ4Xを発表したトヨタに対し、他社の車種数と比較して遅れているとの指摘。
加えてe-TNGAが2015年発売のTNGAがベースであり、アーキテクチャが古いことも問題視されています👀
Toyota Will Build More EVs If It Decides There Is Demand For Them https://t.co/QeQzC1cDmf
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) June 5, 2021
先日私のブログでも「EVなんていつでも作れると言ってるけどバッテリー調達できるの?」という疑問を呈しましたが、それだけではなくプラットフォームも時代遅れのEVになってしまう可能性が高そうです。
水素など他に労力を割いている間にEVでシェアを奪われ、自社で発売するEVのクオリティもパッとしないとなればいよいよ日本以外の市場で売れる自動車がなくなります。
まぁ危ないと言ってもトヨタは会社の構造的に、極端に言えば「自動車の販売台数がゼロ」だったとしても潰れない(潰れるのは下請けの部品メーカーや本体とは別組織のディーラーなど)のですけど。
でもそんなことになったら「自動車業界の雇用」は100万人単位で間違いなく消滅します。雇用を守るためにエンジン開発を続けるという判断が反対に雇用を失う結果になる可能性が高くなってきました。
本日取り上げたスズキの鈴木修会長よりはるかに若いのがトヨタの豊田社長ですが、私の基準だとこちらの方から「加齢臭」を感じてしまいます。
人気記事電気自動車専門のカーシェア・サブスク・EV販売店立ち上げのためのクラウドファンディングを始めます!