電気自動車(BEV)が露呈させる販売網の再構築とは?【ディーラーもオワコン】
こんにちは、@kojisaitojpです。昨日は「レイヤーマスター」という専門用語を使って、EVの覇権争いで、「バッテリーの覇権を失った日本勢は厳しい」という話をしましたが、実は厳しいのは技術面だけではありません。
ディーラーが旨味が少ないEVを売りたくないというのなら、メーカー側もEVの販売や修理受付は昨今の携帯キャリアのようにオンライン専売に移行していけば内燃車とEVで棲み分けができて良いのではないか。
今はEVを買う層は比較的ITリテラシーも高い人間が多いだろうし。— プレスコット (@MarantzAudioFan) February 21, 2021
実は旧来の車メーカーの場合は「ディーラーが電気自動車を売りたがらない」という致命的な問題を最近指摘する人が多いです。日本以外でも日本のどこのメーカよりも電動化に舵を切っているフォルクスワーゲンでさえ「ディーラーが電気自動車を勧めてくれない」「ディーラーが電気自動車のことを全然知らない」などと売る側のやる気のなさをメディアによる覆面調査の結果から指摘されており、結構痛い問題になっています。
ちなみにご存知でしょうがテスラはそもそもディーラーが存在せず、オンライン販売一本ですからこのような心配とは全く無縁です。
テスラのビジネスモデルが車業界を根本から変える?【営業不要・ディーラー不要・広告も不要】
今日は「テスラ社」の車の紹介ではなく「ビジネスモデル」について考えてみます。「営業」「ディーラー」「広告」という車メーカーが最も費用を投入する分野を一切カットしてネット販売のみに特化するという「コロナ禍」に最も適したビジネスモデル、車のみならず太陽光や蓄電池などエネルギー分野にも進出した個性的なモデルを紹介します。
今日はこのような「商品の売り方」という点に注目して旧来の自動車メーカー(正確には車を販売するディーラーなど)が電気自動車にやる気にならない事情について考えてみます。
目次
電気自動車とテスラが破壊した自動車業界の「ディーラー」を軸とした販売網
実際に電気自動車(EV)が欲しくてディーラーに行くとこのようなことがよく起きるようです。
BEVのアイミーブにまったく興味がない三菱Dに見切りをつけて、ほかの三菱Dに行ってみますね。
この車は売りたくないって平気で言う営業さんには、もう会いたくないので。
じゃあね✋— たかたか (@TAKA500C) February 21, 2021
何が問題かわかりますか? i-MiEVを販売している当の三菱ディーラーの営業からしてi-MiEVを積極的に売ろうとしないということです。
基本的にディーラーという存在は、自動車メーカーの直営ではなく別個の系列企業である場合がほとんどで、自動車メーカーから買い取った(仕入れ)車を販売することと、納車後の故障や車検などのアフターサービスが主な仕事です。
電気自動車(BEV)にはエンジンが存在しないのもあり(実際ガソリン車の故障の大半はエンジン絡みです)、故障が少なく、オイル交換などの日常の整備もほぼ不要、車検などの際にも整備するところがほとんどないからユーザーには手がかからなくてありがたいのが特徴です。
これは反対側のディーラーから見ると「整備や修理の機会が少ないから、売ったらそれで終わりで儲からない」というディーラー泣かせの存在です。
以前のテスラについての記事で、テスラは最初こそ車両の購入というイニシャルコストこそ高いものの、税金も優遇(今なら補助金もあり)、オイル交換やタイミングベルトの交換などのガソリン車なら必須の整備がない、ブレーキパッドなども回生ブレーキの効果によりほとんど減らないなど、主な消耗品がタイヤとワイパーくらいという維持コストがほとんどかからない点が魅力です。
ユーザーにありがたいものが、ディーラーや街中の整備工場からすると「儲からない」というデメリットにつながる、だから売りたくないというユーザーのメリットを無視した無茶苦茶な営業になるのです。
またコピペ返信なんだろうけどアイミーブを中古車店に問い合わせて「オイル交換2年間無料です」とか書いてあるとこいつらからは絶対買わないと思ってしまうよ(笑)
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 22, 2021
そもそも電気自動車のどこに「オイル交換」が発生するのでしょうか(笑)。
「コピペにいちいち怒るなよ」と思われるかもしれませんが、「今問い合わせがきている商品が電気自動車だから当てはまらない記述は削除しておこう」くらいの意識すらなくなんとなく返信用のフォーマットをコピペしただけなのでしょうが、それは「電気自動車に本気ではない」ことの証明にもなってしまいます。
私の場合、人がこういうふとした折に見える「隙」のようなものに人の本質が現れると考えるので、このようなうっかりミスに不穏な空気を感じます。
私の感覚だと「こういう風にガソリン車と同じ感覚で商売やっているような業者から買う必要なし」の一言でこういう業者はジ・エンドです。
実はビジネスの世界における「バリューチェーン」という商品の企画・開発から販売に至るまでの最後の部分「販売・アフターサービス」の部分が機能不全を起こしています。せっかく開発した「電気自動車」という商品が一番末端の「ディーラー」にとってはデメリットになってしまうという残念な状況です。
私のブログでは何度も話題にしたように、テスラはこの部分に「ディーラーを置かず(整備はサービスセンターで対応)、オンライン販売」という従来の自動車ビジネスでは考えられなかったモデルを持ち込むことによってクリアしてきました。
2020年にテスラが販売台数を大幅に伸ばしたのは「モデル3」などのエントリーモデルが全世界で販売されたこともあるでしょうが、対面ではないオンライン販売という点もコロナ禍で人との接触を嫌がる人々のニーズにも合致していたとも言えます。
実際にディーラーが販売意欲を持たない電気自動車(IDシリーズ)についてはオンライン販売に切り替える方向で検討しているようです。
フォルクスワーゲン、電気自動車「ID.」販売をオンラインに一本化。ディーラー・顧客の負担削減 – Engadget 日本版
独フォルクスワーゲンが、電気自動車「ID.」シリーズの販売をすべてテスラのようなオンライン販売モデルに移行すると発表しました。自動車販売と言えば、自動車会社の直営もしくは独立のディーラーが車両を購入し顧客に販売するのが一般的ですが、この販売プロセスをオンラインに移行し、顧客はPCやスマートフォンを使い、VWから直接ID.シリーズを購入できるようになります。
「ディーラー」という販売網と「営業マン」という存在を前提としていた自動車メーカーの販売モデル自体が崩れる日は近いかもしれません。
「自動車は家電とかと違ってオンラインなんかで販売できない」と思い込んでいる人は日本ではまだ多いようですが、この手の根拠なく「何となく当然だと思っている慣習」のようなものはイーロンマスクが面白いように破壊してくれます。
パソコン戦争でも「販売」において敗北した日本メーカー
実はどのジャンルでも「失敗の研究」を徹底的にやってくるのがアメリカのメーカーで、パソコンの「Dell」などはその典型例です。
これがパソコンの日本でのシェアですが、DellやHPを筆頭にNECと富士通はレノボ(中国)の傘下、Dynabookはもうシャープ(つまりホンハイ)の子会社、シェアの大半をを外資系に握られています。
「元々技術力が高かった日本メーカーがどうしてこうなった?」というのは自動車の話題ではなく、パソコンの話です。
「Dell」のビジネスプランの特徴は「在庫を持たない」「BTO(Build to order)で無駄の機能がないPCが手に入る」「インターネット直販だから早い」などが挙げられますが、「在庫を持たない」「必要なものを必要な時に用意して組み立てる」ってどこかで聞いたことありますよね?
もちろんあのメーカーの専売特許です(笑)。
自動車メーカーの「ジャストインタイム生産方式」「カンバン方式」をアメリカのパソコンメーカーであるDELLが研究して、自社のサプライチェーンに応用したことによりパソコンで世界のシェアを取ったというのが正直なところです。
私はiMacとMacBookに切り替えてもう10年以上経つので忘れてきていますが、会社や学校などに置いてあったDELLのPCに印象は全くありません。大体は自分のMacBookを持ち込んでいたので触る機会も少なかったですが、特に優れていると感じたことはないです。
技術的にはそんなものだと思います。インターネット直販で、発注してすぐに届くという手軽さ、不必要なアプリケーションなどを無しにして自分が使いやすいようにカスタマイズできる、そして「ジャストインタイム」で効率的に生産したゆえに安いというのが強さの秘密です。
日本メーカーは「技術はうちの方が上だ」とあぐらをかいている間に「売り方が上手い」「安い」という違う方面でメリットがあるDELLなどの外資系メーカーにシェアをごっそり持っていかれたというのが、日本メーカーがパソコンの主導権を手放すことになった最大の原因です。
あれ?「日本のハイブリッド技術は世界一だ」「電気自動車よりハイブリッドの方が技術は上だ」と力説している人いますよね?
「安全性に関わる自動車をインターネット販売なんてけしからん! 自社のディーラー網でお客様と対面で販売するのが自動車だ」と思ってる人結構いますよね?
残念ながら日本の家電メーカーがDellやHPにやられたことを、今後は日本の自動車メーカーがテスラにやられているように思えます。
「典型的な失敗パターン」に陥っている日本の自動車メーカー
ディーラーを中心とした販売網というバリューチェーンの一角に綻びが見える中で、それを全く自覚してないかのような態度の人もいます。
自動車産業復活で「波及効果は2.5倍」 550万人に向け自工会豊田会長が送ったエールとは
日本自動車工業会(自工会)の豊田章男会長は、2020年1月8日に年頭メッセージをYouTube上で公開しました。自工会は箱根駅伝のTV中継でも「クルマを走らせる550万人」と題したテレビCMを放映するなど広報活動を積極的におこなっていますが、どのような情報発信をしているのでしょうか。
どうも自動車業界の人間はこの方が何か発言すると天皇か皇帝のお言葉であるかのように崇め奉り、「この人が言うことは全て正しい」かのように信じる傾向がありますが、私から見ればもうただの「抵抗勢力の権化」にしか見えません(笑)。
仮に失言に近いような変なことを発言しても「きっと何か深いお考えがあっておっしゃっているんだ」と都合の良いように解釈してもらえたりとある意味羨ましいですね。
「550万人の雇用を守る」と言ってしまう時点で現在の車メーカーを頂点とするピラミッド、世界中に散らばるディーラー網や系列・下請け・孫請けと続く部品メーカーなどの電気自動車が本格的に普及することによって不要となる業界の構造にメスを入れる気は無いんだなと伝わってきます。
ちなみにこの手の問題はフォルクスワーゲンでも発生しており、電気自動車化の先頭に立っているディースCEOは労働組合からの反発により何度も失職の危機を迎え、抵抗勢力を抑え付けながらEV化へ向けて奮闘しています。
電気自動車シフトに気迫示すフォルクスワーゲンCEO
独フォルクスワーゲン(VW)は、電気自動車(EV)時代に向け懸命に改革を進める。グループCEOディース氏の前には、複雑な社内統治やソフトを巡るテック大手との戦いが立ちはだかる。だが同氏はEVで利益を上げる未来を見据え、VWは前進していると主張する。
まぁ労働組合から反発を食らわないためには「自動車業界の雇用を守る」と耳障りの良いことを言う方が楽ですよね。本当にできるのかは置いておいて。
とはいえ「ハイブリッドこそが優秀な技術だ」とか「電気自動車(EV)が普及すると原発が10基必要になる」など様々な理由をつけて電気自動車化に抵抗しても、いずれ日本以外の国でハイブリッドを売れなくなる日がくれば否応なしに業界構造を崩す必要に迫られるはずです。
アメリカとか中国みたいな国が自国産業に不利なものをいつまでも容認すると思える頭の中が理解不能。
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 22, 2021
リーフ・アリアを始めとする世界で通じる電気自動車を売る力のある日産でさえ「e-power」とかいうエンジンを搭載している時点で海外で売れないことが決定の謎のガラパゴス規格を売り始めていますし、日本国内だけなら「ハイブリッドも電動車だよ」と騙せる(世界基準だとBEVとPHEVだけです)と思っているかのような日本メーカーの態度が目立ちます。
テスラやフォルクスワーゲン、先日全車電気自動車化を発表したGMやジャガーなどが正しいのか、日本メーカーのガラパゴス戦略が正しいのか数年もあれば決着はつくでしょう。
「テスラに買収されるトヨタ」とか「Appleの下請けになる日産」とかになってなければ良いのですが、私にはならないと断言はできません。
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