「全固体電池で一発逆転」を叫ぶ人は要注意?【困ったら陰謀論のアンチEV?】
こんばんは、@kojisaitojpです。ついに様々な問題を抱える東京オリンピックが始まりましたが、オフィシャルスポンサーの一社がこのような発言を過去にしていたことを覚えている人は少ないようです。
ほらやっぱり「東京オリンピック、パラリンピックが開かれる2020年、全固体電池を搭載したモビリティをお見せできるように、鋭意開発」って言ってるじゃねぇか(笑)。
トヨタ、「全固体電池」搭載車を2020年、オリ・パラ向けに…名古屋オートモーティブワールド2019 https://t.co/2mah1covda— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) July 24, 2021
「全固体電池を搭載した完全自動運転のEV」を披露して、実際にオリンピックで使用することを表明していたのがオフィシャルスポンサーの一つであるトヨタですが、結局披露されたのは既に発売しているFCV(水素燃料電池車)の「Mirai」だけです。
「全固体電池の公約はどうなった?」とツッコミたいところですが、これについてのトヨタからの発表はまだ全くありません。
そこで今日は現行のリチウムイオン電池のEV叩き使われる定番の「全固体電池で一発逆転ということが実際に可能なのか?」について述べた上で、EV化が日本メーカーに逆風なのが認知されてから流行の「陰謀論を語ることの寒さ」について指摘したいと思います。
目次
「全固体電池搭載のEV」は2020東京オリンピックで出せる状態ではなかった?
さて冒頭でも引用した「東京オリンピックで全固体電池」というのは結局トヨタから何の発表もありませんが、依然として「全固体電池搭載のEVができれば世界でトップに立てるから今EVをやる必要ない」のような言い方をする人は結構多いです。
「全固体電池に関する特許はトヨタが押さえてるんだから勝つに決まってる」のような言い方もよくされます。
しかし実際のところは全固体電池はどの程度まで研究が進んでいるのでしょうか?
次世代電池の最有力候補「全固体電池」の現在地 | IT・電機・半導体・部品
――全固体電池になればEVは航続距離が飛躍的に延びる、充電時間が短縮されるなどと言われています。さらに全固体電池を搭載したEVを2022年にも市場投入すると発表したメーカーもあります。一方、全固体電池が現行…
「エネルギー密度は基本的に正極と負極で決まるので、電解質が固体になったからといって、基本的にそんなに変わるわけではない」
「リチウムイオンが速く動き、大きな電流を取れる、すなわちパワーを上げることができるのではないか、充電時間が短くできるのではないか、と考えられた。もっとも、これまで研究してきたものの、実際にはあまりメリットがなかった」
現実はこのような状況で、研究室レベルでも全固体電池のメリットを見つけられない状態です。
どんなに頑張っても実用化まで5年以上はかかるとも述べられており、おそらく最初はスマホなどの小型のバッテリーで使われるでしょうから自動車で使用されるのは更にその後です。
となるとEVに搭載されるのは2030年くらいなのが妥当な予想になりますが、なぜかネット上などでは「全固体がもうすぐできる」かのように誇張されるところが謎です。
「全固体電池=ハイスペック」なのは本当か?
「じゃあ2025年まで待てばいい」と言う人もいますが、この頃には現行のリチウムイオン電池でも1000キロくらいの航続距離は出せるようになりそうです。
以前も紹介しましたが現時点でフォルクスワーゲンとNIOが2022年から2025年にかけて「固体電池(Solid State)」の電池を搭載したEVをハイパフォーマンスな車種に投入することが明らかになっていますが、「全固体電池(All Solid State)」はまだ遠い先の話のようです。
フォルクスワーゲン(VW)の驚異の電動化プランを検証【日本もトヨタもオワコン?】
フォルクスワーゲングループが「Power Day」において、大規模なバッテリー生産工場の設立とそこで生産される「Unified Cell」と呼ばれる新しいバッテリー技術、充電スポットの設置、V2Xを含めた再生可能エネルギーを有効に活用するための蓄電池として電気自動車(BEV)の活用など日本メーカーとは別次元の計画です。
NIO「ET7」がもたらす衝撃と破壊力とは?【電気自動車でテスラ超え?】
中国の新興EVメーカー「NIO」がET7という驚異のスペックの電気自動車の発売を発表しました。バッテリー容量の大きなものだと1000キロを超える航続距離、充電が不要になる「バッテリースワップ」というわずか5分でバッテリー交換をするシステムなど、日本のメーカーどころかテスラすら凌駕する電気自動車を紹介します。
「航続距離1000キロ以上可能」「充電も5分で満充電」などと現在のリチウムイオン電池よりはるかに性能が良いことを強調する人は多いですが、「航続距離1000キロ」は現行のリチウムイオン電池でも可能なのは先日紹介したメルセデス、上記の記事にもあるフォルクスワーゲン、これも先日紹介したボルボなどの次世代EVを見ていれば明らかです。
「5分で満充電」というのも以前触れたようにヒュンダイ(ヒョンデ)の「IONIQ5」が18分で充電可能なレベルまで来ています。
IONIQ5に続いてIONIQ6を発表したヒュンダイの先進性とは?【EVのスペックも充電も】
まもなく「IONIQ5」の発売を開始する韓国のヒュンダイが2022年に今度はセダンタイプの「IONIQ6」を発売する予定との情報が出てきました。基本的なEVとしての性能はIONIQ5に近いですが、自動運転レベル3に対応、「V2X」にも対応し、EVからEVへの充電が可能となる「V2V」も搭載されるなど進化が見られます。
しかも例えば100kWhのバッテリーを5分で充電するために必要な充電出力を考えると最低でも1200kWと、先日テスラのEVトレーラー「Semi」について触れた際に出たメガチャージャー並のパワーが必要です。
「できない理由」ではなく「EVトラックを可能にする方法」を考えるメルセデスとテスラの計画とは?
メルセデスが電動トラックの計画として長距離用にはBEVとFCVの2種類の生産計画を出してきました。バッテリーと充電時間的に難しいと言われる長距離のEVトラックにはFCVも用意してきましたが、片やテスラは「Semi」に新型バッテリー4680セルとメガチャージャーを用意してEVで勝負します。両社の試みをそれぞれ紹介します。
記事の中でも言いましたが、テスラが「Semi」用に開発するメガチャージャー並の電力供給を可能になるには電力供給が足りず「Megapack」のような巨大なバッテリーへの蓄電が必要になりますが、日本メーカーで現時点でテスラの「Megapack」並の蓄電池すら開発されていません。
現行の日本の急速充電規格「チャデモ」では100kWを超える出力に対応するための水冷ケーブルの開発さえ行われていない残念な状況ですが、その10倍の出力に耐える充電器をトヨタが開発しているのでしょうか?
だとしたら何度も批判している「200kWの充電器を6台でシェア(1台当たり30kW?)」という低スペックな充電器をeMobilityPowerがこれから全国に設置する計画と整合性が取れなくなります。
このように「全固体電池で一発逆転」のような主張を冷静に検討すると、現時点では電池の開発も追いつかない、ましてや充電インフラを考えるとどう考えても現実的ではない状況です。
「表に出ないだけで水面下でやってるに決まってる!」と理屈で否定すると怒り出して罵ってくるのがアンチEVの方々の痛いところですが(笑)。
全固体で困ったら「EV化はEUの陰謀」でいいのか?
「全固体電池」などの話で理屈で話をしていると分が悪いのを自覚しているのか最近では世界のEV化の流れに対して「こんなものはハイブリッド車で勝てないヨーロッパのトヨタ潰しの陰謀だ」的な陰謀論者も増えてきました。
確かに自国に有利になるルールを設定して世界を自分達が優位になるようにコントロールするのが歴史を見てもヨーロッパのこれまでのパターンであることは私も以前解説したように、実際にこういう側面はあると思います。
電気自動車(BEV)という「ルール変更」に適応する韓国勢と抵抗する日本勢【ウインタースポーツを見習え】
韓国の起亜自動車が「PHEVの賞味期限は2022年」と断言し、一気に11車種の電気自動車の開発・販売に踏み切ることを発表しました。2025年のノルウェーを皮切りにPHEVさえ販売できなくなる国が続出する中でハイブリッドに固執する日本勢が生き残る方法はあるのでしょうか?実はウインタースポーツの世界にヒントがあります。
しかし以前も引用したようにヨーロッパでのシェアがたったの「6%」しかないトヨタを潰すためにわざわざヨーロッパの自動車メーカーも悲鳴をあげるような大変革を行うでしょうか?
EUのガソリン車禁止で日本は詰んでしまうのか?【ハイブリッドもPHEVも禁止】
EUの行政機関である欧州委員会が気候変動への対策としてかなり厳しい二酸化炭素排出規制を出してきました。2035年以降はガソリン車のみならずハイブリッド車やPHEVまでも禁止と実質「EV(とFCEV)」のみしか販売できなくなるルールが世界中で設定されようとしている中で日本メーカーはどうすべきなのかについて考えます。
北米市場や中国市場のようにトップを争うシェアの国でやられたら確かに「トヨタ潰し」に見えなくもないですが、たったの6%のシェアの市場で、ヤフコメや5ちゃんねるなどで「元々ヨーロッパで日本車なんか売れないんだから、そんな連中の規制なんて無視無視」などと叫んでいる「売れてない市場」でトヨタ潰しの政策が本当に発動されるでしょうか?
論理的に考えるとおかしな話になりますが、ヤフコメや5ちゃんねる、TwitterなどでEVやヨーロッパの悪口を言っている人々は疑問を感じないようです。
「全方位戦略」を唱えながらEVだけは拒絶するトヨタはオワコン?【陰謀論に全振り】
アメリカ大統領選挙の無効を主張する勢力にトヨタが政治献金をしていた事実が発覚しました。企業活動として政治献金をすること自体は問題がないのですが、EVの普及を阻止したいからといって議会を襲撃する民主主義を破壊する勢力を支援するのは「SDGs」の観点から問題となります。日本のマスコミが黙殺するであろう重要な問題を論じます。
以前も「アメリカ大統領選挙の無効を主張する共和党勢力」への政治献金をトランプ派と思しき勢力による議会襲撃後も続けていたことが暴露されたことを問題にしましたが、EVの世界にもこのような「陰謀論」が台頭してきているのは恐ろしいところです。
ひどい勢力になると「気候変動なんか起きてない」「脱炭素はヨーロッパの陰謀だ」と気候変動や脱炭素の動きそのものまで否定してくるのですが、字数もかなり書いたのでこちらに言及するのは次回以降の記事にします。
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