「高付加価値・高価格」の「全固体電池」に需要あるの?【液晶テレビと同じ負けパターン】
こんばんは、@kojisaitojpです。どうも「謎にハイスペックで高いものを販売したがる」のが日本の悪しき伝統になっているようです。
使うか不明な謎のハイスペックで高いという日本メーカーの失敗例をなぞってる気がする。パワーウォールのコスパに勝てないよ。
【国民総脱炭素時代到来】屋根置き太陽光設置のご家庭必見 革新的家庭用蓄電池 https://t.co/lqg430Pwmp @YouTubeより— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 16, 2021
伊藤忠商事が「Smart Star 3」という新しい蓄電池を発売したという話で、とてもハイスペックであることが動画では強調されています。具体的には、
- 蓄電容量は13.16kWhで、系統連系および自立運転出力は5.5kVA
- 全負荷対応で、停電時には200V家電の利用も可能
- 計測機能を利用し、自宅の太陽光で発電した電力のみを充電に活用するといった運用も可能
- 自宅の太陽光発電で発電した電力を自家消費した場合、その量に応じて「グリッドシェアポイント」を付与
蓄電池に詳しい方であれば「テスラのパワーウォールにも大半の機能あるよな」と思いますよね。蓄電容量にしろ、全負荷型対応にしろ、AIとスマホアプリで充電状況を管理とかはパワーウォールでもできます。
数少ないオリジナリティが「発電した電力を伊藤忠が買い上げてポイント還元」という部分で、動画の中でも世界初の新しい環境価値だと絶賛されているのですが、この蓄電池の価格は「4103000円」です。
片やテスラのパワーウォールの価格は「1089000円」です。
パワーウォールだとEVに充電するためにはウォールコネクターの設置が必要(「Smart Star 3」は搭載)だとか、パワーウォールにはない「V2H」の機能が搭載されているなどプラスの部分はありますが「その程度の付加価値で差額が300万?」と思ってしまいます。
日本の製品を絶賛したくなる気持ちが分からなくはないのですが、残念ながら日本の製品にはこのような「無駄な付加価値・無駄に高価格」のものを発売したがる傾向があります。
今日は同じことが「全固体電池」を巡る議論や過去に家電などでも日本メーカーがやってきた「失敗パターン」について触れてみます。
目次
「高付加価値・高価格」になる全固体電池も失敗する?
EVの世界だとこの「高付加価値・高価格」の方向で失敗しそうなものに「全固体電池」があるのは以前もお話ししました。
「全固体電池」という名のフェイクニュース【電気自動車への実用化は遠い】
「全固体電池」が電気自動車を変えるトヨタの切り札のように言われることが多いですが、まだまだ実用化・量産化には程遠いのが現実です。しかも技術的には可能になっても「急速充電はどうする?」という問題も残されていて、充電器の整備なしには普及しない技術でもありますが、あたかもすぐ実用化されるかのようなフェイクニュースが多いです。
全固体電池の開発に最も力を入れているのがトヨタなのもあり、「全固体電池搭載のEVで一発逆転」のようなことを言っている人がTwitterなどのSNS上だけではなく、自動車ジャーナリストや経済評論家などにも時々見られます。
しかし素朴なツッコミなのですが、「仮に全固体電池搭載のEVが発売されたとして普通の人が買える価格なの?」という疑問が生じます。
「10分で500キロ充電可能」とか「航続距離1000キロ」と言われたとしても車両価格が2000万とか言われたら買える人はほとんどいません。200万ならいるでしょうけど。
そもそも10分で500キロ充電できる、先日紹介したヒュンダイ「IONIQ5」を超える充電器をいつどこに設置するつもりなのでしょうとツッコミも入りますが、今日の本題ではないので触れません。
IONIQ5に続いてIONIQ6を発表したヒュンダイの先進性とは?【EVのスペックも充電も】
まもなく「IONIQ5」の発売を開始する韓国のヒュンダイが2022年に今度はセダンタイプの「IONIQ6」を発売する予定との情報が出てきました。基本的なEVとしての性能はIONIQ5に近いですが、自動運転レベル3に対応、「V2X」にも対応し、EVからEVへの充電が可能となる「V2V」も搭載されるなど進化が見られます。
個人的には従来のリチウムイオン電池でも「18分で80%充電可能」な「IONIQ5」より8分充電が速くなるよと言われても「それで車両価格が何倍にもなったら購買意欲起きないよ」と思ってしまいます。
「その8分がものすごく貴重な時間なんだ!」と興奮されるのでしたら止めませんが。
「高級車」「スーパーカー」のみ「全固体電池」が世界のトレンド?
ちなみに先日イタリアで「固体電池(全固体、完全な固体なのかは不明)」搭載のスーパーカーが発表されましたが価格は3億円です。
【稲妻のように速いクルマ】新型電動ハイパーカー「フルミネア」 固体電池搭載 約3億円
イタリアのエストレマ社が新型の電動ハイパーカーを公開。4基の電気モーターと固体電池を搭載しています。
スーパーカー・ハイパーカーであれば「いくら払ってでも買う」という富裕層はいるでしょうが、現時点でこの価格になってしまう全固定電池が一般のユーザーも利用可能な価格でもたらされるとは思えません。
同様にNIOやフォルクスワーゲンも「固体電池(完全な固体かは不明)」を搭載したEVを発売することを発表していますが、NIOは元々高級車がメインですし、フォルクスワーゲンもプレミアムセグメントだけに搭載すると発表しています。
NIO「ET7」がもたらす衝撃と破壊力とは?【電気自動車でテスラ超え?】
中国の新興EVメーカー「NIO」がET7という驚異のスペックの電気自動車の発売を発表しました。バッテリー容量の大きなものだと1000キロを超える航続距離、充電が不要になる「バッテリースワップ」というわずか5分でバッテリー交換をするシステムなど、日本のメーカーどころかテスラすら凌駕する電気自動車を紹介します。
フォルクスワーゲン(VW)の驚異の電動化プランを検証【日本もトヨタもオワコン?】
フォルクスワーゲングループが「Power Day」において、大規模なバッテリー生産工場の設立とそこで生産される「Unified Cell」と呼ばれる新しいバッテリー技術、充電スポットの設置、V2Xを含めた再生可能エネルギーを有効に活用するための蓄電池として電気自動車(BEV)の活用など日本メーカーとは別次元の計画です。
フォルクスワーゲンと言いましたが、プレミアムセグメントということは同じグループのポルシェやアウディにも搭載される可能性があります。
まぁフォルクスワーゲンやNIOが出しても「これは本物の全固体電池じゃない」とネット上で叫びまくる人々が現れるのは予想できる展開ですが、コスト面で高級車にしか搭載できないことが濃厚である以上世界に普及させてシェアを取るというのは不可能です。
「ハイスペックで高価格」より「そこそこのスペックで低価格」を選ぶのが一般ユーザー
同じことは過去に家電業界でも起きていました。
そうです、日本メーカーが木っ端微塵に敗北した「液晶テレビ」と同じ展開が見えてきました。
現在の若者世代に「テレビでは昔はソニーとかパナソニックとかが世界でトップを走ってたんだぞ」と言っても「???」という反応が返ってくることでしょう。
実際に2007年の時点ではソニーが液晶テレビでは世界トップのシェアだったのですが。
これが2015年現在です。せいぜいソニーが世界でも健闘していると言えますが、そのソニーも「ブラビア」の基幹部品であるディスプレーを韓国・サムスン電子やシャープ(忘れてはいけないのはシャープは既に台湾のホンハイ傘下)から調達しています。
また以前は上位だった東芝も2018年2月には「REGZA(レグザ)」ブランドのテレビなど映像事業を手掛ける東芝映像ソリューションの発行済み株式の95%を中国ハイセンスグループに129億円で譲渡していますので日本メーカーとは言えなくなってます。
こうなってしまった原因は日本の家電メーカーは高付加価値化戦略を修正せず、より高精細のディスプレー生産を可能とする液晶やプラズマの最新工場を立ち上げたり、有機ELテレビ、SED(表面伝導型電子放出素子ディスプレー)テレビなどの実用化に乗り出したことが挙げられます。
結果として「高性能だけど高い」日本メーカーの液晶テレビよりも中国や韓国メーカーの作る「スペックはそこそこだけど安い液晶テレビ」にシェアを奪われて敗北しました。
「液晶テレビみたいになるぞ」と言っても「車とテレビを一緒にするな」「車は人の命がかかってるんだ!」って興奮するんでしょ、どうせ(笑)。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 18, 2021
EVの世界でも同じことが起きると言うとおそらくこのようにムキになって反論する人が大量に現れるのは想像できます。
ですが「うちの業界だけは特別だ!」と居直って実際に特別だった例はありません。自動車は特別だと思っていても電気自動車(BEV)が「コモディティ化」して価格が下がってくる展開になることは既に見えていますし、実際に中国メーカーは既にその方向に動いているのはこれまで指摘してきた通りです。
「インスタ映え」する中国メーカーのEVマーケティング?【若い女性もターゲット】
中国で売れているEVの主な購買層が若い女性であることは日本では知られていません。ファッションや化粧品を彷彿とさせるおしゃれな広告を用いて「宏光MINIEV」や「Ora R1 BlackCat(黒猫)」などが大ヒットにつながっている秘密と旧態依然のおじさん層にしかアプローチできない日本メーカーとの違いを考えます。
アフリカでも電気自動車(BEV)に市場を奪われる日本勢?【「ORA BLACKCAT」の脅威】
電気自動車化に向けて舵を切っているのは先進国だけではない、実は再生可能エネルギーの発電に適した自然があるアフリカも同様だということは前に話しましたが、ついにアフリカで「BlackCat」と呼ばれる中国の格安EVが販売され始めました。電気自動車で普及しないゆえに輸出する中古車もロクにない日本勢はいよいよピンチです。
「収入の少ない若者層でも買える廉価なEV」「発展途上国に輸出しても買ってもらえる価格のEV」を出そうとしている中国メーカーに対して「そんな低スペックじゃ使いものにならない」とバカにする構図は10数年前に中国製・韓国製の安い液晶テレビが日本にも登場した時と同じ臭いを感じてしまうのは私だけでしょうか?
人気記事電気自動車専門のカーシェア・サブスク・EV販売店立ち上げのためのクラウドファンディングを始めます!