「全固体電池」という名のフェイクニュース【電気自動車への実用化は遠い】
こんばんは、@kojisaitojpです。フェイクニュースとまでは言えないかもしれませんが、並べて見ると紛らわしいニュースが出ています。
こういうニュースには「日本は火力発電が中心なのでぇ〜」っていうアンチ電気自動車はわいてこないんだな(笑)。
トヨタ、村田製、TDK…大注目の全固体電池。早くもシェア争奪戦(ニュースイッチ)#Yahooニュースhttps://t.co/wXhj63knqT— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) December 13, 2020
このニュースと並行してトヨタが電気自動車を発売するというニュースが出るものだから話をややこしくしています。
トヨタ、SUVタイプの電気自動車を近日公開へ。EV向け新プラットフォーム「e-TGNA」採用 – Engadget 日本版
トヨタの欧州部門が、SUVタイプの電気自動車を準備中であることを明らかにしました。今後数か月の間に…
この2つのニュースを同時に並べられると「全固体電池(後で述べますが要は航続距離も伸びて、急速充電も速い)の電気自動車をトヨタが出すのかな?」と思ってしまいますよね。
先に結論を言っておくとこの2つのニュースには何の関連もありません。トヨタが出す予定なのは従来のリチウムイオンバッテリーを使用した電気自動車になる予定です。
こういう「印象操作」に振り回されないようにしたいものですが、アンチ電気自動車の方々ほどこの2つを結びつけているように見えました。
さて今日は最近一部の方々にとって希望の星のようになっている「全個体電池」について考えてみます。
目次
「全固体電池」の開発は進んでいますが…
まずは「全固体電池」の定義を確認してみます。
全固体電池(ぜんこたいでんち)とは陽極と陰極間のイオンの伝導を固体の電解質が担う電池で、一次電池と二次電池の双方にある。
従来の電池は一次電池と二次電池を問わず、電解質が液体であったため、電解質の蒸発、分解、液漏れといった問題が付きまとって来た。電解質を固体にすることは開発者達にとって積年の課題で幾多の技術者、研究者が挑んできたものの、実用化に至ったものは一部に限られた。課題となるのは電解質のイオン伝導性で実用のためにはハードルが高かった。近年、電気自動車の普及とともに各国で開発が活発化しており、実用化のため自動車メーカーや電機メーカーが研究に投資している
(Wikipedia「全個体電池」より)
と定義を見ても分かりにくいですが、陽極と陰極のイオンの電導を液体がやると「リチウムイオン電池」、固体がやると「全固体電池」になるようです。
固体になることにより効率が良くなるのか、電池の質が上がり「電池の持ちがよくなる」「急速充電が速くなる」というのが特徴です。
詳しい方はこの辺にいちゃもんをつけてくるのでしょうが、まぁ学者ではないので定義はどうでもいいです。今のリチウムイオン電池より持ちが良くなり、充電時間が短くなるという結果を知っていれば十分です。
ただし記事にもあるように「高容量化や安全性の向上はもちろん、今後は材料調達を含めた量産プロセスの構築が実用化のカギとなりそうだ」と記事の本文にもあるように、実際はまだ量産できるような状態ではありません。あくまで実験室レベルでめどがついてきたというだけです。
冷静に考えれば2021年に「全固体電池を搭載した電気自動車をトヨタが発売する」というのは不可能に近いです。せいぜいプロトタイプとなる車ができるだけの可能性が高いです。
そもそも「トヨタの欧州部門が、SUVタイプの電気自動車を準備中」というのは元からやっていることで、全固体電池の話とは全く別で関係のない話です。
将来へ向けての研究は絶対に必要ではありますが、現時点で「全個体電池」を実用化するのは無理な話です。
案外メリットのない現時点の「全固体電池」
全個体電池のメリットとして以下の点が挙げられます。
- 満充電の状態で500キロ走行可能
- 急速充電が10分で可能になる
とあるのですが、多少でも電気自動車のことを知っていれば「???」となります。
冷静に考えてみれば航続距離が500キロというのは、既にテスラがモデルSなどで600キロ以上走行可能になっていますので、特に驚く数値ではありません。
要はリチウムイオン電池でも既にできる水準に達していることです。大容量バッテリーを搭載したテスラ車が高いというところから見て、まだまだバッテリーのコストが高いのは事実ですが(電気自動車で最もお金がかかる部分が「バッテリー」です)。
そして問題は「急速充電」であり、先日の記事でも紹介したように、最新のテスラのスーパーチャージャーでも250kWです(標準的なものだと150kw)。
250kWの現在最速の充電器でも1時間の充電量が250kWですので、10分だとその6分の1ですからテスラ・モデルSの容量100kWhのうち41.6kWしか充電できません(実際はバッテリーが劣化しないように充電中に速度が落ちるのでもう少し少ない)
もしテスラ・モデルSの100kwを10分で充電するためには、単純計算でも500kW以上のまだこの世に存在しない超急速充電器が必要になります。
そんな充電器まだ世界のどこにもありません。電池の方が完成したとしても、500kW以上の超急速充電器が実用化されない限りは宝の持ち腐れです。
10分というガソリンスタンドでの給油と大差のない時間を出せばインパクトがあるから出したとも取れるような「飛ばし」記事です。
アンチ電気自動車の方々が必ず主張する「バッテリーの持ちがぁ〜」という問題は確かに全個体電池によって多少は改善されるでしょうが、「全固体電池で容量がアップしたバッテリーをどうやって充電するの?」という急速充電の問題を指摘する人がほとんどいないのが謎です。
先日の記事でも言いましたが、日本の急速充電規格で主流の「チャデモ」は50kWです。テスラスーパーチャージャーの5分の1、先ほど出した10分という理想の充電時間を実現する500kwの10分の1の速度しかありません。
街乗りに特化した仕様でもある「ホンダ e」や「プジョーe-208」の持ち味を殺してしまうレベルのショボい充電器しか置かれていない日本全国に10倍の速度の充電器を普及させるのにどれだけの費用と時間がかかるのか考慮されていないのも謎です。
バッテリーの進化のみならず、急速充電へ目を向けることも電気自動車の普及には必須のことです。
現行のリチウムイオンバッテリーに対する誤解
そもそも「リチウムイオンバッテリーは劣化するから交換が必要」というのもほとんど嘘です。
これはスマホの感覚で言っているだけです。
スマホの場合、例えば寝る前にコンセントに繋いで充電すると朝起きた際には100%になっていますが、リチウムイオンバッテリーは「空になるまで使って満充電」を繰り返すと劣化していきます。
ですので急速充電中も充電量が一定の水準を超えると徐々に充電スピードが低下しますし、設定で70%〜80%で充電を終えるようにしておくのが一番バッテリーを劣化させない使用法です。
電気自動車の場合「バッテリーの全容量は充電しない」という意味で、スマホの充電と一緒に考えてはいけません。
ちなみに走行距離がある程度行った初期のリーフ(2010年〜2015年)を中古車市場で見ていると、12セグのうち10〜11セグ残っているものがほとんどです。
これであればバッテリー交換は不要です。「バッテリー交換が必要になるから、電気自動車はカネがかかる」というのも実はアンチ電気自動車の方々が流す「デマ」です。
初期のリーフは以前の記事でも触れましたが、そもそもバッテリー容量が小さいので航続距離が短い(24kWhのバッテリーを床下に搭載し、JC08モードでの航続距離は200kmなので実質150キロも走ればいい方)です。
だから「バッテリーが劣化したらほとんど走れないよ」と脅されるとビビってしまいますよね。。。
スマホの感覚でバッテリーを捉えていると騙されてしまいます。
「フェイクニュース」が多い電気自動車
大企業の利益に絡む話なのもあり、電気自動車を巡る報道については「フェイクニュース」とまでは言えなくても、わざわざ誤解を招く方向に誘導するような記事が多いのは事実です。
電動化=EV化にあらず、メディアに異例の注文-自工会の豊田会長(Bloomberg) – Yahoo!ニュース
(ブルームバーグ): 日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は17日、菅義偉政権が掲げた新たな温室効果ガスの排出目標について言及し、自動車の電動化とバッテリーの電力のみでモーター駆動する
これもその典型で、「電動化=EV化」ではない、ハイブリッドとプラグインハイブリッドが不可欠だと主張しているようですが、同じ話をヨーロッパや中国でするとヒンシュクを買います。2025年〜2035年に「内燃機関(エンジン)」を搭載した車の販売を禁止する方向に進んでいる国でこんな発言をすれば「じゃあもうトヨタ買わない(買えない)」と言われて終わってしまいます。
日本のメディア相手に日本語で言えば世界には広まらないだろうという計算で言っているのかもしれませんが、今や即日英語などに翻訳されて報道されてしまいます。
日本というまだまだ内燃機関(エンジン)に対する信仰が強い国で言えばウケがいい、本格的に電気自動車化すると切り捨てることになる数多くの(トヨタの場合3万社以上とも言われる)部品メーカーや下請け企業からは喝采を浴びるかもしれませんが、やればやるほど世界の主流となる流れから外れていきます。
今回の発言を見ても、バッテリーの話に見られるような歪んだ報道を見ていると、やはり日本の自動車がガラパゴス化していく危険な兆候を感じます。
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