「テスラ・サイバートラック」の4680バッテリーが韓国メーカーに?【パナソニックもオワコン?】
こんばんは、@kojisaitojpです。テスラの「サイバートラック」という私がTwitter上で日々欲しい欲しいと叫んでいるEVに大きな変化があったようです。
SamsungとLGの4680セルの開発が完了、サンプルのテストを実施中。
すでにテスラに仕様を提供しており、スピード感でPanasonicに差をつけているようです👀
Tesla's 4680 battery has suppliers battling for the contract of a lifetime https://t.co/Mvvg212bSN
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) July 14, 2021
この「4680セル」というのはテスラが現在開発中のバッテリーで(詳細は後)、日本のパナソニックがかなり力を入れて開発していたものです。
それがパナソニックよりも先に韓国LGエナジーソリューションとサムソンSDIが共同で開発した4680セルバッテリーのサンプルがテスラに供給されたというニュースです。
先に結論を言ってしまうとこの「4680セル」のバッテリーでシェアを失うとパナソニックが一気に窮地に陥ります。
そこで今日はテスラが「サイバートラック」や「Semi」などの大型車に搭載予定の「4680セル」についての解説とパナソニックの現状について解説します。
目次
「4680セル」はパナソニックも注力するテスラの最新バッテリー
まず初心者向けに解説しておくと、この「4680セル」と呼ばれるバッテリーは、直径46ミリ、長さ80ミリ(従来のバッテリーは直径21ミリ、長さ70ミリの「2170セル」)である点から「4680セル」と呼ばれますが、このサイズに変更するだけで、従来のバッテリーの5倍のエネルギー、6倍の出力、そして航続距離にして16%の向上が見込まれるそうです。
この4680セルバッテリーを現在テスラが開発を進める「サイバートラック」や「Semi」などの大型車、先日も「宙に浮く」ことを話題にした二代目のロードスターなどハイパフォーマンが要求されるEVに用いる予定で、2022年にも実用化したいとイーロンマスクが表明しています。
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電極素材も改良されており、正極はバッテリーの充放電に耐えるコバルトの使用をやめ、コーティング剤や添加物を工夫することでコバルトよりも価格の安いニッケルを使用します。またその一方で負極は、現在使用しているグラファイトよりもリチウムが多く蓄えられるシリコンが使用されます。
これにより全体の発熱量が下がり、中心部の冷却がスムーズに行えるようになり、従来のバッテリーと比較し、エネルギー、出力がそれぞれ5倍、6倍となり、航続距離は16%向上するとのことです。
この「4680セル」のバッテリーをテスラの元からのサプライヤーであるパナソニックとLGエナジーソリューションが開発していましたが、LGとサムソンが共同で4680セルバッテリーのサンプルをテスラに提供したというのが冒頭のニュースです。
Tesla workers sign the first structural pack with 4680 cells $TSLA https://t.co/rcnQlwE4MV pic.twitter.com/ckFbLUT1ax
— Whole Mars Catalog (@WholeMarsBlog) July 10, 2021
それにより完成した試作品が上記のツイートの画像です。ただの新しいバッテリーというだけではなく「Structural Battery」とテスラが呼ぶ、シャシーに直接バッテリーを埋め込む(従来のセル→モジュール→バッテリーパックを廃止)ことでバッテリーの搭載量を増やし、より航続距離を伸ばそうという新しい試みです。
この「Structural Battery」については以前「シャシーと一体となって生産されるのでバッテリー交換式にはできない」という文脈で説明したことがあります。
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テスラが最もハイパフォーマンスなバッテリーとして位置付ける「4680セル」を以前から開発しているパナソニックが韓国勢に遅れを取っているという危機的な状況であることが明らかになってしまいました。
反対に一昨日紹介した「モデルY・スタンダードレンジ」や私も先日カーシェアで試乗した「モデル3・スタンダードレンジプラス(上海製)」のように廉価版の車種には低コストのLFPバッテリーを採用するなど、車種に応じてパフォーマンス重視のバッテリーとコスト重視のバッテリーを使い分けるのがテスラの戦略です。
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テスラのミッドサイズSUVの「モデルY」にスタンダードレンジという廉価版モデルが投入されました。先に発売され、同じ車体がベースになるモデル3同様にLFPバッテリーを使用することでコストを下げたようです。それ以外にも常に最新の車種に最新の技術を導入してくるテスラらしい「オクトバルブ」や「メガプレス」についても紹介します。
こちらのLFPバッテリーは中国CATL社製のものが用いられていますので、コスト重視のバッテリーにもパナソニックの出番はありません。
中国勢のみならず韓国勢にも追われるパナソニック
以前から「EVのバッテリーの主導権は中国メーカーが握っている」ようなことを私のブログでも紹介してきましたが、パナソニックは中国勢・韓国勢に遅れ始めているのが現実です。
「BYD」など中国のバッテリーメーカーが電気自動車で仕掛ける戦略とは?【敵は強大です】
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下記のグラフのように2015年段階では世界シェアでトップだったのが現在(2020年)は3位、もしテスラとの関係が解消・縮小方向に行けば更に世界シェアが低下することは必至な状況です。
元々はパナソニックの独壇場だった車載用バッテリーの分野に中国勢・韓国勢がこの10年で猛追してきたというのが最近の流れです。
それでもパナソニックは世界最大のEVメーカーであるテスラとの関係があったので世界のトップレベルに君臨して来れたのですが、現在テスラが最優先で開発を進める「4680セル」を韓国勢に取られるようなことがあればたちまちピンチに陥ります。
というのもパナソニックは他に大口の顧客がいないからです。
以前トヨタとパナソニックが共同で設立した「プライムプラネットエナジーソリューション」については解説したことがありますが、年間のバッテリー生産量が0.38GWhとテスラのギガファクトリーやフォルクスワーゲン、GM、フォードなどが展開するバッテリー生産工場と比較すると1/100くらいの生産量です。
バッテリー事業に国家が投資するのは適切なの?<他にやることあるだろ?>
トヨタとパナソニックのバッテリー開発に日本政府が税金を投入して支援することが表明されました。これ自体は遅れている日本のバッテリー開発を進めるという意味ではプラスなのですが、国家が介入することのデメリットもあります。今日はそんな中途半端さ、チグハグさを感じる日本メーカーのいくつかの試みについて触れてみます。
それどころか先日取り上げた日産とエンビジョンAESCがイギリスに設立したバッテリー工場が当初は年間9GWh(2030年には25GWhへ拡張予定)と比較しても1/10くらいの規模です。
「ルノー・日産・三菱連合」のバッテリー工場とEV化計画の本気度は?【ようやくお目覚め?】
日産がイギリスのサンダーランドに元子会社のエンビジョンAESCと共同でEV向けのバッテリー工場をオープンさせました。ボリス・ジョンソン首相もお祝いに駆けつけるなど、日産がいかにEV化において期待されているかがわかります。アライアンスのルノーも「ルノー5」をEVで復活など本気のEV化計画を発表し、ようやくお目覚めです。
トヨタやマツダ、ホンダなどのEVにバッテリーを供給していることは知られていますが、まだEVを本格的に生産していませんのでバッテリーの供給量はわずかです。
これに対し韓国勢ではLGエナジーソリューションズがGMとSKイノベーションはフォードと共同でバッテリー工場を立ち上げるなどアメリカの自動車メーカーとの関係を深めています。
中国勢も例えばCATLであればBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、プジョー、そしてトヨタ、日産、ホンダなどにも提供しており、世界中の自動車大手に「全方位」で供給しています(だからこそ世界シェア1位になれる)。
BYDはバッテリーメーカーでありながら自社でEVを生産しており、何度か紹介しましたが「Bladeバッテリ」という独自のLFPバッテリーや乗用車のみならずEVバスを世界中に輸出していることでも有名です。
「Blade Battery(LFPバッテリー)」を持つBYDが最も怖い中国メーカー?【EVバスはとっくに日本上陸】
BYDが電気自動車(BEV)の輸出をジンバブエ・ケニアとアフリカ諸国に、年内にはオーストラリア・ニュージーランドへの輸出も予定しています。最大の魅力が「LFPバッテリー」と「Bladeバッテリー」という技術です。レアメタル不使用でコストを削減した安価なバッテリーが発展途上国を含む世界に受け入れられる可能性は高いです。
「BYD」の電動バスが世界中でシェア拡大中?【バスも日本オワコン?】
乗用車のみならずバスの分野でも電気自動車化は進んでおり、実は中国の「BYD」の電動バスが世界中でシェア拡大しており、日本のバス会社にも導入されています。路線バスだと運行する区間も決まっており、バスを電動化することは乗用車よりも簡単ですし、整備や燃料代がかからなくなることから今後どんどん普及する可能性が高いです。
先日発表されたトヨタの「BZ4X」でもサプライヤーに名を連ねていることは私も以前の記事で紹介しました。
トヨタ「BZ4X」の発表から感じる疑問とは?【スペックは?充電インフラは?】
トヨタが上海モーターショーで新しいEVである「BZ4X」の発表をしましたが、コンセプトカーに留まり具体的な電気自動車としてのスペックなども非公表、発売時期も2022年半ば以降と肩透かしを食らうようなワールドプレミアでした。昨日のフォルクスワーゲンのような充電インフラの設置計画もなく「本気なの?」と思う内容です。
テスラもバッテリーを自社で生産する方向に切り替えている最中ですし、そのための協業の相手もギガファクトリー上海では中国のCATLと韓国のLGエナジーソリューション、アメリカではパナニックとLGエナジーソリューションズとパートナーを増やしています。
以前であれば世界トップのシェアを誇ったパナソニックがここから勢力を盛り返せるのか、それとも更に衰退していくかのカギをテスラが握っていると言っても過言ではない状況です。
4680セルが採用されずテスラに切られたらパナソニックもオワコンへ?
しかし当のパナソニックに「危機感あるの?」と思わせるような出来事も起きています。
パナソニック、急騰のテスラ全株を売却—元手の24億円が4000億円に[新聞ウォッチ] | レスポンス(Response.jp)
2021年3月期決算の上場企業の株主総会がピークを迎えて、それぞれの企業は有価証券報告書を金融庁に提出するが、こうした中、パナソニックは21年3月末までに保有していた米電気自動車(EV)大手のテスラの全株式を約4000億円で売却していたことを公表した。
この1年で10倍以上に膨れ上がったテスラの株式をパナソニックが売却した、それによって取得時の24億円が4000億円に化けたという話は「上手いこと儲けたな」とか「莫大なキャッシュを手にしたことで更なる投資が期待できる」と日本国内のメディアでは肯定的に評価する声もありますが、それだけでしょうか?
テスラの立場からすると「株主じゃなくなったパナソニックなんていつ提携解消してもいいや」と思うかもしれません。
業務提携している会社がある程度の大株主として君臨していると発言力もありますので雑に扱うことはできません。これまでテスラが様々な車種にパナソニック製のバッテリーを用いてきたのは品質だけの問題ではなく、「資本関係」だったことも影響しているかもしれません。
反対に言えば「資本関係がなくなったんだから、提供する製品に問題があればいつでも切れる」となります。
例えばブログを読んでいらっしゃる皆さんの会社で「会社に持ち帰って検討します」と取引先に言ってしまったことありませんか?
「え?自分には決める権限がないし、どこがまずいの?」と思うのが日本の文脈かもしれません。
ですがこのような態度は欧米ではウケません。「じゃあ何で権限のある社員が来ないんだ?」「権限のない社員と打ち合わせしても話が進まないから時間の無駄」と「即決できない=スピード感のない会社」と思われてしまうだけです。
実際にイーロンマスクもパナソニックに対しては度々不満を漏らしていたようです。
日本企業の速度ではついていけない | パナもテスラも知る男が証言
パナソニック副社長を経験し、新興ベンチャーだったテスラとの協業を後押ししたのが山田喜彦氏だ。201…
今回の4680バッテリーの件に関しても同様で、実際に韓国メーカーがどの程度の完成度のものをサンプルとして提供したのかは分かりませんが、パナソニックより早く提供していることは事実です。
「完璧なものを作っているから時間がかかるんだ」と言い訳したくなる気持ちがわからないではないですが、ライバル企業が先にサンプルを提供し、満足とまでは行かなくても「これならどうにか商品化できる」と判断されればその時点で勝負ありです。
「品質では絶対に負けない」と言っていても提供が遅れてしまえば「もういいよ」と言われてしまいます。
車載用バッテリーで最大の顧客であるテスラを失ってしまえばパナソニックが一気に窮地に陥ることでしょう。
かつては世界トップのシェアを誇ったパナソニックも「オワコン」となる日が近いのかもしれません。そうならないためには今すぐにでも4680セルを用意してテスラに提供することが求められています。
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