日本のEV化の阻害要因はハイブリッド車ではなくチャデモ?【プジョーe-2008を見て感じたこと】
こんばんは、@kojisaitojpです。一昔前の私なら大喜びするところですが、現在の私だと「う〜ん、プジョーか…」と悩んでしまう話がありました。
マズいな、プジョーも候補に入れざるを得なくなってきた(笑)
フレンチテック”をキーワードとした NEW 208とNEW 2008の新キャンペーン開始。新CMはそれぞれSIRUPおよびPerfumeとのコラボレーションで5月24日からオンエア https://t.co/JDyTykVStS— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 23, 2021
実は車のCMにPerfumeの曲が使われるのは初めてではなく、2016年にメルセデス・Aクラスでも使われたことがあります。
この時は台数限定でPerfumeカラーのモデルも発売され、ライブ会場の駐車場などで時折見かけることがあったのはファンであれば知っています。
この時は私は「ジャガーXJ」に乗って自己満足の世界を生きていましたので「あえてメルセデスのAクラス買う理由ないよな」とあっさり見送りましたが、今回は私自身がEVへの乗り換えを決めている中でのプジョ「e-2008」ですので話は別です。
ただし「即買いか?」と言われると二の足を踏んでしまうのが現実で、実はプジョー「e-2008」には致命的な欠陥があります。それもプジョーの責任ではない日本独自の「チャデモ」という充電規格のせいで。
EVのことがある程度わかる方にはこれだけで内容がおわかりでしょうが。
と話のきっかけはPerfumeでしたが、せっかくの機会なので「e-2008」について紹介し、同時に現在の日本の充電インフラが抱える致命的な問題についてもお話しします。
目次
「100%Electric」のプジョー「e-2008」を紹介
さて昨年2020年にガソリン車バージョンの「2008」の日本市場投入と同時にEVバージョンの「e-2008」も投入され、既に発売中です。
ちょうど本日からCM動画が公開されましたので掲載しておきます。
ガソリン車のモデルもあるのですがCMで「100%Electric」とテロップを出しているところが「フランス本社の意向?」という気もしますが(笑)。
以前の記事では「e-208」を「オススメのコンパクトハッチEV」の一つとして推奨したことはありますが、同じBセグメントでもコンパクトSUVに仕上がった「e-2008」には触れたことがありませんでした。
コンパクトカーで電気自動車はどこまで進化できるのか?【2023年までの話です】
今日はテスラなどの大型車ではなくあえて「コンパクトカー」の電気自動車に注目して紹介します。世界的にはAセグメント・Bセグメントと呼ばれる車体の小さな領域ではバッテリー容量に限界があるので電気自動車を作りにくいという問題がありますが「急速充電の充実」によってそれを乗り越えようとするヨーロッパ車を中心に紹介します。
基本的なEVとしてのスペックは「搭載バッテリー容量50kWh、航続距離(EPA)296キロ、最大充電出力100kW」がヨーロッパでのスペックです。日本仕様だと充電出力が50kWに制限されていて、これが後で問題となります。
とはいえサイズも「全長4305mmx全幅1770mmx全高1550mm」とBセグメントのコンパクトSUVらしく非常に使いやすいサイズです。この点では「使いやすさ」という意味でテスラなどよりアドバンテージがあります。
ハッチバックの「e-208」と共通の「e-CMP」プラットフォーム(PSAの電気自動車専用プラットフォーム)で製造されており、スペック的にはほぼ同等です。
50kWhのバッテリーですのでフランス本国と同様の100kWの充電出力があれば30分プラスアルファでほぼ充電が可能になるので一回の休憩で充電すれば500キロ近いロングドライブも可能になります。
この「フランス本国(正確にはEU)」というところがくせもので、充電に関して日本独自の規格である「チャデモ」が障害になります。
致命的な欠陥は「50kW」に制限された充電(チャデモ)
実は「e-208」も「e-2008」もBセグメントの小型車ゆえに搭載できるバッテリー容量には限界があるため、バッテリーを大きくするのではなく急速充電のスペックを上げることでストレスなく運転ができるような仕様になっています。
何度も紹介してるフォルクスワーゲン「ID.3」も同じような感じです。大型のバッテリーを積める車体ではないのでここは仕方ないところです。
ですが日本よりはるかに面積の大きいヨーロッパで長距離ドライブもできるように、街中でも高速道路でも網の目のように充電器を設置するのがヨーロッパやバイデン政権発足後のアメリカ(全米50万箇所に充電スポットを設置するのが公約)です。
ですので投入されるEVは最低でも100kW、車種によっては200kW300kWの急速充電に対応します。先日取り上げた日産「アリア」も130kWの急速充電が可能です。
ところがこのスペックが日本市場に投入される際には「50kW」に速度が制限されてしまいます。ヨーロッパから上陸したEVですとプジョーの「e-208」「e-2008」の他にもジャガー「i-Pace」なども同様です。
日本市場投入の際に最大充電出力を落としていないのは、自社でスーパーチャージャーを設置するテスラと、「タイカン」の発売に合わせてポルシェディーラーに自社で充電器を設置している(現在工事中)ポルシェくらいです。
その他のメーカーはほぼ全て最大充電出力を50kWに制限しています。150kW250kWの超高速がスーパーチャージャーでは可能なテスラでもチャデモを使用する際には50kWになります。
ヨーロッパでは100kWの急速充電が可能で30分プラスアルファで10-80%の充電が可能になるのに対し、日本のチャデモだと50kWに制限されてしまうのでバッテリー容量の半分くらいしか充電できません。
ここが冒頭で私が言った「二の足を踏む」理由です。
そしてチャデモがこのように低速な理由が「充電器本体の水冷ケーブルを開発できていない」という世界基準から見るとあり得ない開発スピードの遅れから来ています。
日本の充電器設置の役割を担う「e-MobilityPower」の長期の計画を見ていると「今後もこの低速な充電器を急速と称して使うつもりなの?」と思ってしまいます。
10年遅れてるのに「10年先を見据えた」と言ってしまうe-MobilityPowerの残念な計画
先日も「e-MobilityPowerの残念な充電器設置計画」というのを紹介しましたが、更に具体的な方針がわかって来たので追加で説明します。
引用する資料は2021年3月の「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会」で「e-MobilityPower」が経済産業省に提出したもので、リンクを貼っておきますのでよろしければご参照ください。
→ 「充電インフラの課題解消と拡充に向けた取り組み」
この中で私が仰天したのが「200kW・6口(最大90kW)」という部分です。
以前私が書いた記事でも「200kWは一台の充電器全体の出力でこれを複数台でシェアするの?」ということを問題にしましたが、どうやら一台だけ充電している場合でも90kWに、台数が増えて6台になると「200÷6=33.3kW」になってしまいます。
現在の50kWでも低速に感じる充電器が新しい充電器になって更に速度が落ちるという全く謎の充電器設置計画です。
しかもこれが目先の対応ではなく「10年先を見越した計画」とドヤ顔で言ってしまってますのでかなり重症です。
「現時点でも外車だけじゃなく日産アリアでさえ満足な充電速度ではありませんが」とツッコミを入れたくなるところです。
「e-MobilityPower」が世界標準の急速充電器を既に購入しているので今後「経路充電」の問題も解消されると言われていて期待感がありましたが、これだと充電可能台数が増える(現在だとSAPAに一台というのが多数)こと以外にメリットがなくなります。
ここのところ充電インフラや新型コロナウイルスのワクチンの話などを取り上げて「日本人が下手くそなロジスティックス(補給路・兵站)」というのを繰り返し問題にして来ていますが、どうやらe-MobilityPowerも同じような失敗を繰り返しそうです。
e-mobilityPowerの残念な充電インフラ設置計画が判明【これじゃ日本ではテスラ一択?】
電気自動車(BEV)で不可欠なのが公共の充電設備の設置なのですが、日本でこれを担う「e-mobilityPower」が急速充電器を高速道路上に設置するプランを出しましたが、残念な計画で、テスラのスーパーチャージャーと比較するとかなり問題があります。ワクチンでも見られる兵站や補給路の確保が下手な日本の欠点が露呈してます。
アメリカでワクチン接種してコロナ前の日常を取り戻す?【ワクチンツーリズム】
「コロナワクチンの接種でアメリカへ行く」という計画が私にもあります。日本でワクチンの順番を待っていてもいつになるのかわからない、ワクチンを接種しないと入国できない国が今後増えることが予想されることからワクチンツーリズムに乗ってみようと計画しています。可能ならカリフォルニアでテスラや再エネ状況も視察してみたいと思います。
e-MobilityPowerの絶望的な充電器設置計画がEV化を阻害する?
このように「プジョー・e-2008」がいかに魅力的に見えても「日本だとチャデモだしなぁ」と二の足を踏んでしまう理由がお分かりいただけたかと思います。
日常は自宅の駐車場で普通充電できれば問題なく運用できますが(まさか毎日200キロ300キロ走ることはないので)、たまに長距離移動する際には高速道路のSAやPAでの充電が必須になります。
この時にチャデモの低速充電(しかもシェアすると50kWどころか30kWまで落ちる)だとストレスが溜まるのは間違いありません。
と絶望的なE-MobilityPowerの充電器設置計画について述べて来ましたが、対抗する手段は一応あります。
日産にはかなわないけどプジョーもストランティスとしてプジョーやシトロエン、フィアットとかのディーラーに100kW以上の急速充電器設置すればそれなりの数になると思うんだがなぁ
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 23, 2021
昨年フィアットクライスラーオートモービルとPSA(プジョーシトロエン)が経営統合し、現在は「スランティス」という世界で4番目の規模のグループを構成しています。
となると「フィアット」「クライスラー(JEEP)」「プジョー」「シトロエン」の各ディーラーに急速充電器を設置すれば日産ディーラーの数には及ばないものの、日本の外車ディーラーの中ではそれなりの数になります。
実際にプジョージャポンでは(未確認情報ですが)充電器を設置する計画はあるようです。
しかしこれだと長距離移動の際の「経路充電」という最重要の問題は解決できないまま放置になりますので、あくまで「やらないよりはやった方がマシ」というレベルの話です。
高速道路のSAPAの充電器は「公共性」が求められる関係上テスラのスーパーチャージャーも設置できないのが現実なのでこの部分はe-MobilityPowerに頑張ってもらうしかありません。
昨年の段階から「200Kw級の世界標準の急速充電器を大量に調達した」と噂になっていたことは今回の設置計画で正しいことが証明されましたが、その運用方法がここまでめちゃくちゃだとは思いませんでした。
これは先日も取り上げた「日本の人口分のワクチンを手に入れているのに、いつまで経っても国民が接種する環境を整えられない」政府や地方自治体の「ロジスティックス」の弱さを物語っています。
充電インフラもこれと同様です。お金をかけて世界標準の急速充電器を購入しても、実際の運用においてマックス90Kw、混雑時には30Kwくらいまで速度が落ちてしまうと「せっかく充電のためにSAに寄ったのに全然充電されない」という不満が出てくることは今から予想されます。
これも「ロジスティックス」「兵站」「補給路」をしっかり整備できない日本人の悪いところが出ています。
むしろ「わざと下手くそな運用すればEVがユーザーからの信頼を無くしてユーザーがハイブリッドに帰ってくるかも」とわざわざユーザーをEV嫌いにさせるために誰かが後ろで糸を引いているのでは?という陰謀論すら唱えたくなる惨状です。
このことが原因で自社で充電器を持つテスラや日産・三菱以外のユーザーがEVから離れていけばいよいよ「世界の流れから取り残されたガラパゴス日本」になってしまいます。
「e-MobilityPower」の内部の方には事態の深刻さに気づいて欲しいところです。
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