「EVかハイブリッドか?」という世界の流れが読めないパナソニック?【テスラも見放す?】

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こんばんは、@kojisaitojpです。メディアによっては絶賛する記事も出ていたりするのですが、よく読むと「この会社大丈夫なの?」と思う内容で衝撃を受けます。

「電動化の出口としてHVかEVか分からない、自動車メーカーの方向性がはっきりするのは24ー25年ごろ」などと言われたら私も「オワタ」と叫びたくなります(笑)。

記事によっては「プライムプラネットエナジーソリューションズ(PPES)」の計画には今後のEV化を見越したポジティブな要素を取り出して賞賛されていたりもするのですが、これでは「世界のEV化の流れに追いつけないぞ」というのが本音です。

この会社については以前も「本当に大丈夫なの?」と懸念した記事を書いたことがありますが、今回の会社側からのメッセージで当時警告したことは間違ってなかったかなと思うようになりました。

というわけで今日はトヨタとパナソニックのジョイントベンチャーである「プライムプラネットエナジーソリューションズ」のバッテリー生産計画を見ながら「この計画で本当に世界のEV化に対応できるのかについて考えてみます。

疑問符だらけの「プライムプラネットエナジーソリューションズ(PPES)」のバッテリー増産計画

トヨタ・パナソニック製のバッテリー
今回「プライムプラネットエナジーソリューションズ」から出てきた情報は、ブルームバーグの取材に好田博昭社長が答えたものです。

2020年に生産を開始し、今後22年までに電池の原価を40-50%削減することを見込んでおり、25年までに生産性を22年比で倍にするなど新たな目標を設定して65-70%の原価低減を目指すとしている点については既に他のメディアなどでも評価されています。

また南米から自社でリチウムを調達するルートを確保するなど固定費が半導体や液晶よりも高くつく電池のコストを下げる努力をしていることは評価されるべき点です。

しかし問題は「競合他社では規模を確保してコストを下げる取り組みが主流となっているが、同社としては中長期の生産能力の増強計画は決まっていない」という点です。

「それが冒頭の「2025年くらいまでハイブリッドかEVのどっちが主流になるのか見極める」という珍発言につながります。

「え?2025年まで本格的に動かないの?」と思ってしまいますよね。。。2025年には先日取り上げたボルボや昨日の記事でも取り上げたフォルクスワーゲンは既に第二世代のEVや「EV化の先にある自動運転を見越したソフトウェア開発」に進んでいる時期です。

昨日の記事ではフォルクスワーゲンのバッテリー生産計画については触れてませんが、以前の記事で「2030年までに240GWh」とスケールの違うバッテリー生産計画について触れたことがあります。

ではフォルクスワーゲンと比較するとトヨタとパナソニックの合弁事業である「プライムプラネットエナジーソリューションズ」のバッテリー生産量はどの程度なのでしょうか?

「プライムプラネットエナジーソリューションズ(PPES)」の驚愕のバッテリー生産量

プライムプラネットエナジーソリューションズのロゴ
本格的にEV用のバッテリーの生産に取り組むであろう時期も遅すぎて問題なのですが、実はバッテリーの生産量も圧倒的に足りていません。

  • 兵庫県姫路市の工場でBEV8万台分(一台60kWhと仮定すると8万台で4.8GWh、40kWhと仮定すると3.2GWh)
  • 中国・大連の工場でハイブリッド車40万台分(一台1kWhと仮定すると40万台で0.4GWh)
  • 徳島県の工場でハイブリッド車50万台分(一台1kWhと仮定すると50万台で0.5GWh)

ブルームバーグの記事にあるような「40万台」「50万台」という数字だけを見ると「おぉトヨタもしっかり準備してるな」と勘違いしそうになるのですが、この40万台50万台というのはハイブリッド車用の小型のバッテリー(1kWh)ですのでBEVに使われる50kWhとか100kWhの大型バッテリーに換算すると生産台数が1/50から1/100になります。

実際にPPESの生産量だとハイブリッド車用のバッテリーの生産量では世界シェアが1位なのですが、EVやPHEV用のバッテリーとなると中国CATLやBYD、韓国LGエナジーソリューションやSKイノベーションなどよりはるかに少ない世界8位の水準です。

これでも去年段階の年間0.38GWhからは大幅に増産してるのですが世界にEVを普及させるためには圧倒的に足りません。

片や現在ヨーロッパなどで進められている世界の自動車メーカー各社の計画は以下の規模です。

たまたまエンビジョンAESCの数字が気になったので呟いたものですが、実はどこの工場も30GWh、40GWhとPPESとは一桁違う規模で動いています。

日産とエンビジョンAESCがイギリス・サンダーランドに建設したバッテリー工場については先日の記事で取り上げてますのでご参照いただければと思います。

記事の中でも触れましたが現在9GWh(2030年までに25GWhに拡張)のイギリス・サンダーランドの工場の他にもエンビジョンAESCはフランス国内にもルノ〜向けにバッテリー工場を建設予定ですので「ルノー・日産・三菱連合」で見るとようやくヨーロッパ内で本格的にバッテリーを調達できる態勢が整ってきた状況です。

この規模と比較すると現在のPPESのようにハイブリッド車が中心のバッテリー生産だと物理的に圧倒的に負けてしまいます。

「ハイブリッドという複雑な車で培った技術があるので構造が簡単なEVなんていつでも作れる」とトヨタを擁護する方々は必ずいうのですが、仮にEVを作る技術があっても(私はこれについても懐疑的ですがそれはまた後日触れます)バッテリーの絶対量が足りないので生産できないとなってしまう可能性が高いです。

「じゃあサプライヤーに名を連ねているBYDとか元から中国市場で提携しているCATlから買えばいい」と言うこともできますが、相手は中国企業なの忘れてませんか?と思ってしまいます。

地政学的なリスクはもちろんのこと、仮に地政学的に問題がなくても「他のメーカーからの予約で生産ラインが一杯です」と断られてしまえば詰んでしまいます。

バッテリーを自社で用意できないというのは生産ラインがストップするリスクも孕んでいます。

「4680セル」を巡ってテスラとの関係は悪化する一方のパナソニックが巻き返せるのか?

イーロンマスクとパナソニック
実は現在世界シェアが3位のパナソニックですが、2015年くらいまでは世界シェアがぶっちぎりの首位だったわけで徐々にシェアが後退しているのが現実です。

2015年のバッテリー世界シェア
2020年のバッテリー世界シェア

この原因として考えられるのが最大の顧客であるテスラがパナソニック以外にも韓国LGエナジーソリューションズや中国CATLなどバッテリーの供給元を多様化させていることがあげられます。

先日の記事ではテスラが現在開発を進める「4680セル」という最新のバッテリーで、韓国のLGエナジーソリューションとサムソンSDIがパナソニックより先にサンプルを完成させてテスラに納品していることに触れました。

他にもテスラの株式を売却したことによりテスラとの資本関係も無くなってしまったわけで、正直いうと「いつテスラに切られてもおかしくない」というのが現在のパナソニックの立場です。

「テスラと組んでやってきた技術をトヨタなど日本メーカーのために使えればいいのでは?」と見ることもできますが、本日見てきたような「プライムプラネットエナジーソリューションズ」の残念なバッテリー製造計画を見ていると「パナソニック大丈夫なの?」という不安しかありません。

家電、液晶テレビ、スマホと世界競争で負け続けてきたパナソニックが数少ない世界シェアを保っているバッテリーにおいても暗雲が立ち込めている印象です。

「高付加価値・高価格」の日本のものづくりが世界の競争で負け続けてきた背景については以前も解説してますのでこちらをご参照ください。

とはいえ最近になってようやく日本国内でも「EV化を進めるためにはバッテリーの調達が不可欠」というのが認識され始めたのか、時々的確な分析と指摘も見られるようになってきました。

上記の記事の中に世界の自動車メーカー各社が具体的にどんなバッテリーサプライヤーと提携し、何年頃にどのくらいのバッテリー生産量に達する予定なのかがわかりやすくまとまっています。

この競争にパナソニックが絡めないようではEVのみならずバッテリーにおいても「日本オワコン」が現実となってしまいますので奮起して欲しいところですが。

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