「高付加価値・高価格」の「全固体電池」に需要あるの?【液晶テレビと同じ負けパターン】

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こんばんは、@kojisaitojpです。どうも「謎にハイスペックで高いものを販売したがる」のが日本の悪しき伝統になっているようです。

伊藤忠商事が「Smart Star 3」という新しい蓄電池を発売したという話で、とてもハイスペックであることが動画では強調されています。具体的には、

  • 蓄電容量は13.16kWhで、系統連系および自立運転出力は5.5kVA
  • 全負荷対応で、停電時には200V家電の利用も可能
  • 計測機能を利用し、自宅の太陽光で発電した電力のみを充電に活用するといった運用も可能
  • 自宅の太陽光発電で発電した電力を自家消費した場合、その量に応じて「グリッドシェアポイント」を付与

蓄電池に詳しい方であれば「テスラのパワーウォールにも大半の機能あるよな」と思いますよね。蓄電容量にしろ、全負荷型対応にしろ、AIとスマホアプリで充電状況を管理とかはパワーウォールでもできます。

数少ないオリジナリティが「発電した電力を伊藤忠が買い上げてポイント還元」という部分で、動画の中でも世界初の新しい環境価値だと絶賛されているのですが、この蓄電池の価格は「4103000円」です。

片やテスラのパワーウォールの価格は「1089000円」です。

ガレージ内のパワーウォール

パワーウォールだとEVに充電するためにはウォールコネクターの設置が必要(「Smart Star 3」は搭載)だとか、パワーウォールにはない「V2H」の機能が搭載されているなどプラスの部分はありますが「その程度の付加価値で差額が300万?」と思ってしまいます。

スマホでパワーウォール

日本の製品を絶賛したくなる気持ちが分からなくはないのですが、残念ながら日本の製品にはこのような「無駄な付加価値・無駄に高価格」のものを発売したがる傾向があります。

今日は同じことが「全固体電池」を巡る議論や過去に家電などでも日本メーカーがやってきた「失敗パターン」について触れてみます。

「高付加価値・高価格」になる全固体電池も失敗する?

全固体電池とリチウムイオン電池
EVの世界だとこの「高付加価値・高価格」の方向で失敗しそうなものに「全固体電池」があるのは以前もお話ししました。

全固体電池の開発に最も力を入れているのがトヨタなのもあり、「全固体電池搭載のEVで一発逆転」のようなことを言っている人がTwitterなどのSNS上だけではなく、自動車ジャーナリストや経済評論家などにも時々見られます。

しかし素朴なツッコミなのですが、「仮に全固体電池搭載のEVが発売されたとして普通の人が買える価格なの?」という疑問が生じます。

「10分で500キロ充電可能」とか「航続距離1000キロ」と言われたとしても車両価格が2000万とか言われたら買える人はほとんどいません。200万ならいるでしょうけど。

そもそも10分で500キロ充電できる、先日紹介したヒュンダイ「IONIQ5」を超える充電器をいつどこに設置するつもりなのでしょうとツッコミも入りますが、今日の本題ではないので触れません。

個人的には従来のリチウムイオン電池でも「18分で80%充電可能」な「IONIQ5」より8分充電が速くなるよと言われても「それで車両価格が何倍にもなったら購買意欲起きないよ」と思ってしまいます。

「その8分がものすごく貴重な時間なんだ!」と興奮されるのでしたら止めませんが。

「高級車」「スーパーカー」のみ「全固体電池」が世界のトレンド?

NIOのET7
ちなみに先日イタリアで「固体電池(全固体、完全な固体なのかは不明)」搭載のスーパーカーが発表されましたが価格は3億円です。

スーパーカー・ハイパーカーであれば「いくら払ってでも買う」という富裕層はいるでしょうが、現時点でこの価格になってしまう全固定電池が一般のユーザーも利用可能な価格でもたらされるとは思えません。

フォルクスワーゲンの全固体電池

同様にNIOやフォルクスワーゲンも「固体電池(完全な固体かは不明)」を搭載したEVを発売することを発表していますが、NIOは元々高級車がメインですし、フォルクスワーゲンもプレミアムセグメントだけに搭載すると発表しています。

フォルクスワーゲンと言いましたが、プレミアムセグメントということは同じグループのポルシェやアウディにも搭載される可能性があります。

まぁフォルクスワーゲンやNIOが出しても「これは本物の全固体電池じゃない」とネット上で叫びまくる人々が現れるのは予想できる展開ですが、コスト面で高級車にしか搭載できないことが濃厚である以上世界に普及させてシェアを取るというのは不可能です。

「ハイスペックで高価格」より「そこそこのスペックで低価格」を選ぶのが一般ユーザー

韓国LGの液晶テレビ
同じことは過去に家電業界でも起きていました。

そうです、日本メーカーが木っ端微塵に敗北した「液晶テレビ」と同じ展開が見えてきました。

現在の若者世代に「テレビでは昔はソニーとかパナソニックとかが世界でトップを走ってたんだぞ」と言っても「???」という反応が返ってくることでしょう。

2007年現在の液晶テレビの世界シェア

実際に2007年の時点ではソニーが液晶テレビでは世界トップのシェアだったのですが。

液晶テレビの世界シェア

これが2015年現在です。せいぜいソニーが世界でも健闘していると言えますが、そのソニーも「ブラビア」の基幹部品であるディスプレーを韓国・サムスン電子やシャープ(忘れてはいけないのはシャープは既に台湾のホンハイ傘下)から調達しています。

また以前は上位だった東芝も2018年2月には「REGZA(レグザ)」ブランドのテレビなど映像事業を手掛ける東芝映像ソリューションの発行済み株式の95%を中国ハイセンスグループに129億円で譲渡していますので日本メーカーとは言えなくなってます。

こうなってしまった原因は日本の家電メーカーは高付加価値化戦略を修正せず、より高精細のディスプレー生産を可能とする液晶やプラズマの最新工場を立ち上げたり、有機ELテレビ、SED(表面伝導型電子放出素子ディスプレー)テレビなどの実用化に乗り出したことが挙げられます。

結果として「高性能だけど高い」日本メーカーの液晶テレビよりも中国や韓国メーカーの作る「スペックはそこそこだけど安い液晶テレビ」にシェアを奪われて敗北しました。

EVの世界でも同じことが起きると言うとおそらくこのようにムキになって反論する人が大量に現れるのは想像できます。

ですが「うちの業界だけは特別だ!」と居直って実際に特別だった例はありません。自動車は特別だと思っていても電気自動車(BEV)が「コモディティ化」して価格が下がってくる展開になることは既に見えていますし、実際に中国メーカーは既にその方向に動いているのはこれまで指摘してきた通りです。

「収入の少ない若者層でも買える廉価なEV」「発展途上国に輸出しても買ってもらえる価格のEV」を出そうとしている中国メーカーに対して「そんな低スペックじゃ使いものにならない」とバカにする構図は10数年前に中国製・韓国製の安い液晶テレビが日本にも登場した時と同じ臭いを感じてしまうのは私だけでしょうか?

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