「日産・アリア」から感じる「実はEVやる気ない?」という疑念とは?【発売はするものの…】
こんばんは、@kojisaitojpです。ようやくノルウェー市場での予約が開始されるようですが、動きが遅いと言わざるを得ないのが日産の現状です。
とは言うものの発売は2022年夏以降というやる気を疑われる動きの遅さ。
Nissan Ariya Soon Will Be Available For Pre-Order In Norway https://t.co/1EwWbaey9v @insideevs.comより— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 3, 2021
ようやく9/9から日産が「アリア」の予約をノルウェーで開始する(日本では既に始まってますが、ヨーロッパではノルウェーが初)というニュースなのですが、納車は「2022年夏」と言われており、今から一年近く先になります。
他のエリアを見ても日本市場こそ2021年末に間に合いそうですが、アメリカ・カナダの北米市場も2022年初頭にずれ込みそうですし、何より最もEV化が進んでいるヨーロッパで「そんなに遅くて大丈夫なの?」と思ってしまいます。
そこで今日は日産「アリア」から感じる「日産、そんなのでこれからのEV化大丈夫なの?」という点について、ヨーロッパ市場における問題と日本市場における問題について、日産のポジティブな側面と合わせて論じてみます。
目次
「世界のEV化」への対応が中途半端なのがうかがえる「日産・アリア」
さて冒頭で触れた日産の「アリア」ですが、納車時期が遅れるだけではなく、グレードも若干変更になっています。
日本仕様ではB6(バッテリー容量63kWh)、B9(バッテリー容量87kWh)の二つがあり、それぞれにFWD(前輪駆動)とe-4orce(他社でいうAWD)のモデルが設定されています。
ところがノルウェーで販売されるヨーロッパ仕様の場合は、バッテリー容量の小さいB6のe-4orceバージョンが削除されており、代わりにバッテリー容量の大きいB9の方に「e-4orce・Performance」が導入されています。
つまり日本仕様にはあったB6(63kWh)のe-4orceモデルという最もコスパの良いモデルが消えています。
EVの欠点を解消する日産の四輪制御技術「e-4orce」を搭載バッテリー容量の小さいB6では提供しないというのは非常にもったいない感じがします。
理由については日産からの発表はありません。また全てのグレードについて欧州での価格についても非公表です。
航続距離で見た場合は同じB9の中でも「AWD>e-4orce>e-4orce(Performance)」の順になります。
航続距離はWLTPモードでそれぞれ「500キロ>460キロ>400キロ」乗り心地とパフォーマンスを向上させることで航続距離は減ります(これはどんなEVでも一緒)。
こちらのグラフは最新(2021年8月)のノルウェーにおけるEV売り上げランキングですが、「テスラ・モデルY」「フォード・マスタングマックE」「ヒュンダイ・IONIQ5」「フォルクスワーゲン・ID.4」のように日産・アリアと競合となる車種が続々と発売されている中で「納車は2022年夏」と言われて待ってくれるユーザーがどのくらいいるのは不安になるところです。
他にも中国メーカーのNIOやXpengも今年に入ってからノルウェーでのEVの販売を開始しており、世界中のメーカーのEVが集結し大激戦となっているノルウェー市場で1年近く発売まで待ってもらうことを前提でアリアを売るのはかなり苦戦することが予想されます。
上記のグラフを見ればわかるように既にモデル末期に突入しているリーフが今もトップ10に食い込んでいることから考えると「日産」というブランドが出すEVへの根強い需要と信頼がありそうなので余計に残念なところです。
しかもこれはヨーロッパの中で最も最速でアリアの予約を受け付けるノルウェーでの話であり、他のヨーロッパ諸国への納車は更に遅れる可能性が大であり、「せっかく世界基準で勝負できるEVを投入したのに、発売した頃には他のメーカーにシェアを取られていた」ではリーフの発売以来10年以上かけて全世界で築いてきた地位が崩れ去ることになりかねません。
「スピード感のない日本メーカー」という日本特有の欠点が露呈しています。
ポジティブなニュースもある日産のEV化への姿勢
もちろん日産に関してはポジティブな材料もいくつかあります。
「ルノー・日産・三菱連合」のバッテリー工場とEV化計画の本気度は?【ようやくお目覚め?】
日産がイギリスのサンダーランドに元子会社のエンビジョンAESCと共同でEV向けのバッテリー工場をオープンさせました。ボリス・ジョンソン首相もお祝いに駆けつけるなど、日産がいかにEV化において期待されているかがわかります。アライアンスのルノーも「ルノー5」をEVで復活など本気のEV化計画を発表し、ようやくお目覚めです。
以前書いた記事でも述べたように例えばイギリスのサンダーランドに中国資本の「エンビジョンAESC」と共同でバッテリー工場を設立し、稼働当初は年間9GWh、2030年までに最大25GWhへ生産能力の増強が図られ、最終的には35GWhとテスラのギガファクトリーなどにも対抗できる規模まで拡張する予定な点は評価できます。
また私が上記の記事を書いた後に日本でも茨城県にバッテリー工場を設立するニュースが出ています。
茨城県に国内最大級のEV電池工場、日産向けに中国系企業が新設[新聞ウォッチ] | レスポンス(Response.jp)
茨城県に国内最大級の電気自動車(EV)用の次世代リチウム電池を生産する新しい工場が設立されるという。
最終的に18GWhのEV用バッテリーを生産する計画ですので、「2025年まで様子見」のようなことを言っているトヨタとパナソニックの合弁会社とは違って前に進んでいることは事実です。
このように「本気でEVをやりそう」に見えるがゆえに、「発売が遅くなって競合のテスラ・モデルY、ヒュンダイ・IONIQ5、フォルクスワーゲン・ID.4などに市場を奪われてからのヨーロッパデビュー」となると本当にもったいないなと思う次第です。
結局日本国内では130kWの急速充電には対応しない?
実は世界に先駆けて「アリア」を日本市場に投入する点に関しても疑問符がつく部分があります。
日産自動車 新時代の100%電気自動車「日産 アリア」を発表
日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、社長:内田 誠)は、電気自動車の新しい扉を切り開く、全く新しいクロスオーバーEV「日産 アリア」を世界に向けて発表しました。そのワールドプレミアが間もなくオープンする「ニッサン パビリオン」にて、バーチャルイベントで実施されました。
上記の記事を見ていただければわかりますが、昨年のアリアのワールドプレミアの段階で、「最大出力150kWのCHAdeMO急速充電器を、2021年度内に国内の公共性の高い場所に設置できるよう、パートナーとの調整を進めています」と表明しています。
公式サイトに今もこの記述が残っていますが、2021年の2/3が終わった段階で150kW級の急速充電器が設置されるというニュースが全く出てきません。
このままでは「最大充電出力130kW」のアリアの性能を生かす充電器がないまま日本国内でアリアが発売されてしまいます。
「200kWを6台でシェアとか言い出したeMobilityPowerが悪いんだ」と言うことも可能ですが、公共の場所に設置するのが厳しいのであればせめて日産ディーラーにだけでも設置すれば済む話です。
「維持費が高額だから」などという声もありますが、現に日本においてもテスラが150kW〜250kWの急速充電が可能なスーパーチャージャーを日本各地に設置しているわけでやってできないことはないはずです。
日本で先行発売という面を捉えれば「やはり日産は日本でEVを普及させる気なんだ」とやる気を感じるところなのですが、そのアリアが性能をフルに発揮できない充電インフラしか用意できないのであれば「本当にやる気あるの?』と疑わしくなるところです。
仮に日産のグローバル本社前の充電器だけは150kWに対応というようなお茶を濁すパフォーマンスで終わった場合、日本でアリアを購入したユーザーから失望を招くことになると思います。
日産のEV化が失敗したら日本メーカー全て沈没?
全てにおいて動きが遅いというのは、以前もパナソニックを例に「2025年まで様子見とか言ってたらその間に中国勢・韓国勢にシェア取られて終わるよ」と警告したように多くの日本メーカーに見られる欠点です。
日産がEVに対してやる気があるのかないのかわからない中途半端な動きに見えてしまうのは、やはりトップダウンで物事をスピーディに進めたカルロス・ゴーンなき後はスピード感のない普通の日本企業に戻ってしまったのかなと思うところです。
もちろん明るいニュースもあります。
先日取り上げた「日産・三菱共同開発の軽自動車EV (日産は「Sakura」、三菱は「ek-MiEV」で決まりという説も)」に関してはハイスペックを売りにするEVではありませんし、充電に関しても「自宅で普通充電」を基本線に据えるのが20kWhというバッテリー容量からもわかりますので、こちらを見ると「やはりやる気はあるのか?」と思うところですが。
日産・三菱の軽自動車EVが日本のEV事情を変える?【2022年上半期に発売】
当初2023年では?と言われていた予定をかなり早めて日産・三菱が共同開発の軽自動車規格のEVを2022年初頭に発売すると発表しました。200万円を切る低価格、航続距離も150-200キロで日常の買い物や通勤がメインの使用であれば全く問題なし、V2Hも搭載されて蓄電池としても活用できる期待のEVについて解説します。
とEVに対して日本国内でも海外でもチグハグな対応が目立つところが気がかりです。
日本で最も世界のEV化についていけそうなメーカーでこの有様ですので日産以外のメーカーは更に論外ということですが。
NIOのような高級車専門とか先日の480kW級の充電器にしてもハイエンドも強いですよね。
「EV専門の全方位戦略」で攻めてくると私も認識してます。— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 3, 2021
実際に日産の方からリプをいただけたので掲載していますが、やはり現場でも中国勢の動向を非常に警戒しているようです。
以前からEVにおける中国メーカーの脅威についてはNIOのように高級車を専門とするメーカーから、先行してEVバスを全世界に展開しながら虎視眈々とテスラなどより廉価なEVを用意するBYDのようなメーカー、私も名古屋まで実物を見に行ってきましたが「宏光MiniEV」のように格安のEVを中国国内で猛烈な勢いで売りまくっているメーカーまで各セグメント・各価格帯において「全方位」でEVを生産しています。
日産も「アリア」と軽自動車EV(Sakura?)を発売すればようやく高級車、普通サイズの大衆車、軽自動車と価格帯もバリエーションが広がってきますが、「これでどこまで勝負できるの?」というのが正直な予想です。
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