マンションのEV充電設備は急速充電器なの?【自宅充電は普通充電器】
こんばんは、@kojisaitojpです。悪い意味で衝撃的なニュースを見てしまったので早速取り上げます。
マンションに対して「50キロワット以上90キロワット未満の設備には最大で200万円、150キロワット以上の設備には最大で400万円を補助」???
普通充電器さえマトモに普及していないマンションに急速充電器って、そんな馬鹿げた政策あります?
政府がこれじゃあ、本当に自動車産業ヤバいのでは…😱 https://t.co/8PisE50FSz
— 🌸八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) March 20, 2022
私も引用元のNHKのニュースを見た際には「正気かよ?」と思うくらい衝撃でした。
「マンションの自宅充電に急速充電器設置しないと補助金が出ないの?」と一瞬思ってしまい、「日本のEV充電ってここまで終わってるのか」と失望しかけました。
ですがどうやらよく調べるとそれは記事を書いたNHKの記者のミスリーディングだった可能性もあるようです。
そこで本日はNHKのニュースに出た「マンションへのEV充電器設置に補助金」というニュースを取り上げて、「自宅充電で必要なことは何か?」について考えてみます。
目次
マンションに設置するEV充電器は「急速充電」なのか?「普通充電」なのか?
まずは上記のNHKの報道を全文引用します。リンクを貼り付けてもいいのですが、ニュースは一定期間過ぎるとリンク切れすることもありますので。
EV=電気自動車の普及に向けて、マンションでの充電インフラの導入がなかなか進みません。
こうした課題に対処するため、経済産業省はマンションでの充電器に欠かせない高圧の受電設備を導入する場合、最大で400万円の補助金を支給する方針を固めました。政府は、2035年までにすべての乗用車の新車をEVなど電動車にする目標を掲げていて、必要な充電インフラの整備を進めています。
ただ、マンションでは設備を導入するには管理組合の合意が必要で、多くのケースで組合から費用を拠出することになり、合意形成が難しいことが課題となっていました。
マンションでのEV向けの充電器には高圧の受電設備を導入する必要がありますが、経済産業省は最大で400万円の補助金を支給する方針を固めました。
具体的には、出力が50キロワット以上90キロワット未満の設備には最大で200万円、150キロワット以上の設備には最大で400万円を補助する方針です。
さらに、充電器の設置費用なども補助することにしています。
日本ではマンションなど共同住宅で暮らす人が4割を超えています。
政府としては、補助金を充実させることでマンションにも設備を導入しやすい環境を整え、EVの普及を促していく考えです。
太字は私が脚色した部分ですが、EVに実際に乗っている方あるいはある程度の知識がある方であれば「え?マンションに急速充電器なの?」と一瞬動揺してしまいますよね?
この記事の文字とサムネイルに出てくる「キューピクル(高圧受電設備)」の画像を見るとそう誤解してしまいそうになります。
ですが専門家からこのような指摘もあります。
コメントありがとうございます!
編集長もレスしてましたが、仮に300台全車室設置なら、多くても10%の30台、すなわち3kWx30=90kVAくらいは欲しいところですね。ただその場合400万じゃキュービクル交換には不足ではないですか?
金額も不十分だと思うし、東京偏重かなと。 ^安川— evsmart (@evsmartnet) March 20, 2022
簡単に言ってしまえば「複数台設置した合計が50kW〜150kWになるので高圧受電設備が必要になる」ということです。
- 「150kW」と一基の充電器と考えると急速充電器
- 「150kW」を全体の合計と考えると普通充電器
私もこのツイートを見て「そっか、それならマンションに急速充電器などというアホな話ではないかもな」とホッとしました。
ちなみに「150kW」という速度での急速充電が可能な急速充電器を現時点で設置しているのは「長野BMW 本社ショールーム」のみです。つまり日本国内にほぼ存在しない状態です。
(一応2022年中にポルシェやアウディが150kW級の急速充電器をディーラーに設置することを明言してはいますが)
ですので経済産業省が50kWだの90kWだの150kWだのという数字を一基の充電器を指して言っている可能性は低いかもしれません。
単純計算で「3kW×50台=150kW」かもしれませんし、「6kW×25台=150kW」という普通充電器を複数台設置する計画の可能性もあります。
このようにマンションの敷地内に多くのEVが充電できる普通充電器が大量に設置されればEVを利用する利便性が大幅に向上します。
言われてみればなるほどとなりますが夜帰宅した際にプラグに接続して部屋に戻れば翌朝満充電で出発できます。
ガソリン車でいう「毎朝満タンで出発できる」ということですから。しかもガソリン車のようにスタンドに給油に行く必要もなく自宅で毎日満タンという快適さです。
「EVの充電=急速充電」の誤ったイメージが広がるガラパゴス日本
しかしNHKの記事がこのように「マンションのEV充電器=急速充電器」のように誤解する書き方をしてしまうところに日本の充電インフラを巡る根深い問題を感じてしまいます。
そもそもEVの充電には二種類あって、
- 「基礎充電」は自宅(かそれに準ずる場所)で「普通充電器」
- 長距離を移動する時のみ高速道路のSAPAで「急速充電器」を使う
「自宅(かそれに準ずる場所)」というのは要は長時間駐車してる場所であれば何でもOKで、自宅以外だと職場やショッピングセンター、ホテルなどの駐車場も含まれます。
このような滞在時間の長い場所に設置させる充電器は「普通充電器」なのが世界では常識で、実際に私も昨年ヨーロッパでこのような光景を見てきています。
イギリス、フランス、ドイツで路上のパーキングが急速充電なのを一台も見たことないけど。 pic.twitter.com/ITm4YZu7ug
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) March 20, 2022
これは日本でいうパーキングメーターのような場所ですが、ロンドンやパリのような大都市では至る所にあって、パーキングメーターに普通充電器がついています。
つまり駐車してる間に充電をする、ガソリンスタンドのような場所に燃料を補給しに行く必要がないということです。
例えば私が最近よく取り上げるヒョンデ(ヒュンダイ)「IONIQ5」の場合ですと、搭載バッテリー容量が72.6kWhなので、仮に3時間駐車したとして「3kWの充電器なら9kWh」「6kWの充電器なら18kWh」充電されます。
6kWhの充電器であれば「IONIQ5」の場合は大体100キロ分充電されるわけ(「6km/1kWh」で厳しめに計算)ですが、例えばショッピングセンターなどで買い物をして、映画でも見ている間にこの位走れる距離が増えているというのはこれまでのガソリン車ではあり得なかった利便性です。
自宅へ戻った時に出発前より航続距離が増えているというガソリン車ではあり得ない事態も普通に発生することでしょう。
私が「EVにおける普通充電器の重要性」を強調すると「充電に何時間も待たされるんじゃ不便で使えない」と必ず文句を言われますが、私の中ではこれを言ってきた人間からは「価値観・習慣の変化に対応できない加齢臭」な臭いを感じます(笑)。
- 使ってない時(駐車中)に充電するのがEVの運用法
- 使ってる時に給油に行くのがガソリン車の運用法
自宅や職場などの駐車場に駐車してる時間帯、つまり自分が運転してない時間帯に充電するのがEV運用の基本です。普通のライフサイクルなら夜帰宅して自宅の充電器にプラグインすれば翌朝満充電になって出発というのが基本サイクルです。
反対にガソリン車の場合は自宅にガソリンスタンドがあるわけない、地面を掘ってもガソリンは出ませんので当然「給油に出かける」という手間が必要になります。
これだけ比較しても「どっちが便利か?」なんて言うまでもない話です。
普通充電器だけでもある程度EV運用ができる?
なんて話をすると今度はEV推進派からも「普通充電だけでEVが運用できると思ってるのか!」と攻撃され、アンチEVの側からは紋切り型の「そんな長い時間待ってられねぇんだよ!」と両方から攻撃されることがあるのが日本のEV事情の厄介なところですが。。。
あくまで「ある程度」と言ってるだけで「普通充電器だけで問題なし!」とは一言も言ってないのですが、人の発言を歪曲したがるのがネット社会の特徴ですよね。
EV推進派の間でも充電インフラの話になると「充電=急速充電」に偏る傾向があり、「150kWだ」「いや250kW必要だ」「いや350kWだ」「いや、もう日本の充電器じゃダメだからヨーロッパからIONITY連れて来い」「CHAdeMOが限界だからCCS(アメリカの充電規格)持って来い」などと「それ実現するとして何年先の話?」という実現性の乏しい空想が日々ネット上では飛び交っています。
私はこの手の実現性の乏しい(仮に実現しても10年20年先)空想に熱くなる人間ではないので、「どうすれば今の日本でも不便さを感じないでEVが運用できるか?」という視点で考えるのですが、そのモデルがノルウェーです。
過去にも取り上げたことがありますがノルウェーは寒冷地ゆえに駐車場には昔からエンジンオイルを暖めて始動をスムーズにする「ブロックヒーター」のためにコンセントがついているのが普通でした。
それがEV化するにあたって充電用のコンセントにそのまま活用できるというのが世界でトップのEV普及率につながっていると言えます。
どこにでもコンセントがあって充電できるのであればバッテリー残量も航続距離も気にすることなくEVを運用できますので。
私も「口で言うだけなら何とでも言える」と思ったので実行してみたことがあります。
実際に「東京⇄仙台」の往復にテスラ「モデル3」を借りて、仙台のホテルにあった普通充電器の使用だけで帰ってこれた話はこちらになります。
テスラ「モデル3」をカーシェアして仙台まで行った話【途中充電不要】
先週テスラ「モデル3」をカーシェアで借りて仙台まで行ってきましたので記事にします。航続距離が500キロ以上のロングレンジなのもあり、特に電費を意識しなくても片道400キロ位問題なく走れてEVの進化を時間できます。同時にウエスティンホテル仙台のデスティネーションチャージや宇都宮で体験したトンデモ充電器も紹介します。
この時も「満充電まで9時間15分」と表示が出ましたが、ホテルに滞在していて車を動かさない時間帯に充電してますので何も問題は起きません。
仮に途中で用事があって車を出したとしても戻ってきて再度充電器に繋げば済む話です。この時も9時間充電しっぱなしではなく一度車を出してますし。
ですが翌朝には100%充電された状態で出発できるようになっており、この時借りたテスラ「モデル3ロングレンジ」であれば450-500キロは充電なしで走れます。
「東京⇄仙台」の往復は750キロ前後ありますが、ホテルで夜充電するだけで急速充電器を使うことなく(正確には別な目的で一回だけCHAdeMO充電器使いましたが使わなくても帰ってこれるバッテリー残量でした)走れます。
この位の長距離でも急速充電なしで運用できるのですから日常生活の中で急速充電が必要になる機会は非常に限定的では?というのが私の持論です。
この例からもお分かりのように記事の冒頭で引用した経済産業省からの充電器設置への補助金が「マンションの普通充電器」にも適用されるものであれば、「年に数回の長距離移動以外は急速充電器が不要」というライフスタイルも可能になるはずです。
それはテスラだからとかIONIQ5だからではありません。1日に100キロ以上走る人がほとんどいない(全員とは言ってないので例外アピールはしないでください)が日本のドライバーの現状ですから、日産「リーフ」でも余裕で可能ですし、リーフ以上に航続距離の短いマツダ「MX-30」や「ホンダe」などでも十分可能な話です。
だから「急速充電器を云々言う以前にどこにでも普通充電器かコンセントがあって気軽に充電できる環境」がEV普及のために必須だと私は日々主張しています。
古い価値観でEVを論じるとむしろ普及の妨げになる?
と日本のEV充電環境について考えてくると急速充電も普通充電も終わってることが明らかになってしまうのですが、実は自動車メーカーの側も進歩についていけないトンチンカンな振る舞いが目立ちます。
既にソフトウェアアップデートで車の性能を向上させる水準に達してるのにアップデートはディーラーでと根本を間違えてるのはマツダらしいというか何と言うか(笑)。
ソフト更新を事業化、先陣切るマツダ 追い上げるトヨタ https://t.co/4nwRjgJZHe— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) March 21, 2022
これは充電の話ではなく「OTA(Over the air)アップデート」の話なのですが、「アップデートはディーラーで実施」「専用のケーブルを用いることで新しい収益源に」という言葉に違和感しかありません。
- オンラインでできるアップデートのためになぜディーラーまで行かされるの?
- 「専用ケーブル」が必要な時点でオンライン(無線)じゃないのでは?
既にソフトウェアのアップデートで車の走行性能を向上させる水準の技術は持っていながら、「でもソフトウェアのアップデートはディーラーでしかできないよ」と縛りをかけてしまうというのが私には「支離滅裂な思考・発言」にしか見えません。
まぁこれ言うと「車とスマホを一緒にするな!」と発狂されるんだろうけど。
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) March 21, 2022
これをマツダの関係者が本気で言ってるなら「一度心療内科でカウンセリング受けた方がいいですよ」と言ってあげたくなります。
この会社の作ったEVの「MX-30」については「航続距離以外は問題なし」と私は高評価をしてますが、どうも「CASE」の中の「Connected」や「Electric」の意味を根本から取り違えてるような気がして残念でなりません。
本日取り上げてきた「マンションのEV充電器に補助金出すけど50kW以上の急速充電だけね」と言ってるのと同じくらいトンチンカンな話に感じるのは私だけでしょうか?
もちろん充電器の話は先ほども言ったように「合計で50kW以上になる複数の普通充電器」という意味の可能性もあるので上記のオンラインアップデートの話よりは救いがありますが。。。
しかし冒頭の記事でもそのニュースを作成したNHKのスタッフか経済産業省の官僚のどちらかが大きな勘違いをしていることは間違いないわけで、一般的には頭が良く優秀な人材であると思われがちな方々でも時代の変化について行けてない可能性があります。
だから「専門家はお前ら素人が思いつくようなことは全て考えた上で決めてるに決まってるだろ」とドヤって来る奴には「時代の転換点では専門家のこれまでの知見なんてアテにならないどころか有害だ」と主張してるわけで。
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) March 20, 2022
どうも「冷笑主義」というのが最近のトレンドのようで、私がEVや再エネに関する発言をすると必ずと言っていいほど上記のような「お前みたいな素人が思いつくことはプロが考えてないわけないだろ!」とか「専門家・プロはあらゆる可能性を考えた上であえてその選択をしてるんだ!」と冷や水を浴びせてくる輩がいます。
ですがEVという未知の存在をこれまでのガソリン車と同じ感覚で捉えようとする方に無理があるのでは?というのが私の持論です。
「ガソリン車に関してはプロかもしれないけど、EVに関しては素人以下」「ガソリン車で蓄積された豊富な知見がEVを語る際にむしろ障害となる」のではと思うことが私がEVに関する情報発信を続ける理由でもあります。
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