「ディーラー網・販売網が充実してるからEV化しても無敵」ではなく実はオワコン?
こんばんは、@kojisaitojpです。先日ソニーがEV事業に本腰というのを取り上げましたが、早速「アフターサービスはどうするんだ?」「家電と違って売ったら終わりじゃないんだぞ」という説教臭いコメントがネット上などでは見られます。
ですがEVに対して異業種が参戦すると必ず言われる「販売網もないくせに」「アフターサービスはどうするんだ?」という批判にテスラが一つの回答を提示しています。
すぐに全店舗とは行かないだろうけどこれでアフターサービス問題もほぼ解決。
オートバックスセブン、Tesla Motors Japanと車検・点検に係わる純正部品供給契約を締結 | ニュース | 株式会社オートバックスセブン https://t.co/aITsMn9dZa— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) January 6, 2022
オートバックスと提携して、テスラの車検や整備をするという契約を締結したようです。
最初は東雲のこの前までテスラのサービスセンターが併設されていたオートバックスから始めるようですが、今後対応できる店舗を拡大していく方向のようです。
テスラも従来の自動車メーカーとは違い「ディーラー」を置かず、アフターサービスはモバイルサービス(後述)で対応するという独自のシステムを導入しています。
ソニーもこの形態なら行けるのでは?と思ったところですが、同時に「ディーラーの存在が自動車メーカーの足枷になるのでは?」と思いました。
この「販売網」の問題について過去に家電業界で起きたことと比較しながら自動車業界における「ディーラー」の未来について考えてみます。
目次
「ディーラー」の存在がEV化の足枷になる?
実はこの「ディーラー網が既存メーカーのEV化の足枷になる」というのは私が以前から指摘していることです。
- 故障の少ないEVであれば「整備・車検」で儲けてたディーラーの利益が出ない
- ディーラーの場所代・人件費がコストとして車両に転嫁されるので割高に
故障も多く、専門家によるメンテナンスが必須だったガソリンエンジンであれば「ディーラーで整備」というのが頻繁にあったと思うのですが、これが故障の少ないEVになると「むしろディーラーの存在が既存の自動車メーカーの収益を悪化させるのでは?」と思うところです。
これについては以前「EV化によってディーラーというシステムが終わりを迎える」と記事にしたことがありますのであわせてご参照いただければと思います。
電気自動車(BEV)が露呈させる販売網の再構築とは?【ディーラーもオワコン】
昨日は「バッテリー」という技術面で旧来の自動車メーカーが不利な立場に陥ることについて説明しましたが、今日は「販売網」という面から指摘したいと思います。旧来の「ディーラー」という販売・整備を行う拠点を前提としたビジネスモデルはガソリン車に比べて整備の頻度が減る電気自動車では高コストで不要なことをテスラが示唆してくれます。
ちなみに「ディーラー」という存在が「メーカー直営」だと錯覚してる方が多いので言っておきますが、日本の場合「ディーラー」は基本的に自動車メーカー本体とは別会社です(もちろん関連企業ではありますが)。
メーカーが作った車はタイムロスなくディーラーが買い取ってくれる(これが在庫の「仕入れ」)ので、メーカーはすぐに資金の回収ができて、在庫を抱えることもないのがメーカーには大きなメリットでした。
ディーラーは自動車メーカー本体の自動車をほぼ独占的に販売できる上に、ユーザーの車検や故障の際の修理を請負うことで利益が出る「共栄共存」「Win-Win」の関係でした。
あくまで「メーカー」と「ディーラー」の関係では。
でも2022年の世界に生きてると「このビジネスモデルは中抜きじゃねぇの?」と勘の良い人であれば気づくはずです。
当然ディーラーがメーカーから仕入れる価格は一般に販売される価格よりは安い、安く仕入れた車両に利益を乗せた価格が「定価」です。
だから「〜万円値引きに成功!」とSNS上でドヤっていたとしてもそれはディーラーが上乗せした利益幅をちょっと削ってもらったというだけで、儲けられてる構図は変わりません。
この「ディーラー」というシステムがEV化によって賞味期限を迎えるであろうことを既に先取りしてる業界があります。
それが「家電業界」です。
現在の「ナショナルのお店」=未来の自動車ディーラーの姿?
まぁ自動車業界に対し「家電業界のようになるぞ」と警告すると必ず「車と家電を一緒にするな!」などと猛烈な批判が飛んでくるのは私もわかっています。
販売網に関して言えば「車は家電と違ってオンラインなんかで販売できるわけがない!」と怒り出す方が必ず現れるのですが、歴史をたどってみるとその「家電」も昔は近所にある「電気屋」の存在が不可欠でした。
例えば現在のパナソニックはその昔、日本のあらゆる地域に「ナショナル(昔の社名)のお店」を置くことで「どこの地域でもサービスが受けられる」ことを売りに発展しました。
現在でも個人経営の電器店の多くは、「パナソニックショップ」などの形で特定の家電メーカーの取次・特約店となっていることが多いです。
もちろん販売されているのはそのメーカーの商品で、設置作業やアフターサービスの手厚さが大きな特徴となっています。
とはいえ現在だとほとんどの人がお気づきでしょうが、個人経営の電器店はヨドバシカメラやヤマダ電機などの家電量販店やAmazonなどのネット販売よりかなり割高です。「割高じゃないと商売成り立たないんだよ!」との声が聞こえてくることはわかってて言ってますが、現在ではこのような個人経営の電器店は減っています。
まぁ今でも松下の販売網は田舎の爺さん婆さんには需要ありますけどそれだけですよね💦💦💦
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) January 6, 2022
自動車業界同様に家電業界も街中にあまねく設置された「ナショナル(古い…笑)のお店」が日本の隅々で貢献していたのは事実です。
ですが既に家電を近所のお店で買って面倒を見てもらうという生活習慣は消えつつあります。
まぁ田舎の年寄りだと長年近所に住んでる人が「ナショナル(笑)」の店やってたりするから付き合いでたのむんだろうけどそれいつまで持続可能なの?って話。
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) January 6, 2022
私の親なども高齢なので何かあれば「ナショナルに電話」と言ってますが(そもそもパナソニックをナショナルという時点で年齢がわかると思いますが)。
ですがそれも「昭和の話」であって平成・令和と進んだ現在になっても「ナショナルのお店から買わないと修理の時に不安」という人はどの位いるでしょうか?
昭和の時代には「家電は近所のお店で買わないと故障した時に不安」などと言っていたと言われると「あれ?それって今の自動車業界?」と思ってしまいます。
もちろん長年の習慣を変えられない人はいるので現在も「ナショナル(パナソニック)のお店」は高齢者を中心に一定の需要はあります。ですがこの高齢者がこの世からいなくなってしまったら一体どのくらいの人が利用客として残るのでしょうか?
でも「ナショナルのお店」は昭和の人には生活に不可欠なものだったわけで。彼らにはAmazonで家電を買う世界なんて想像もできなかったはず。
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) January 8, 2022
「家電メーカーの取次店」というのを「自動車メーカーの取次店」と置き換えると数十年後の未来が見えませんでしょうか?
「自動車の「ディーラー」という販売網が家電業界のようにはなるわけがないんだ!」と怒るのは自由ですが、自分がこれまで生きてきて当たり前の存在だったものが未来永劫続くとは思わない方がいいというのが私の見解です。
「ショールーム」と修理は別会社が対応がEV化した未来?
過去の家電業界で起きたことが今後の自動車業界で起きないという保証は全くない、いやそれどころかテスラが既に「ディーラー」を置かないシステムを世界中で展開している以上、既に崩壊し始めているというのが私の見解です。
「ディーラーがなくなるわけないだろ!」ってのは前に議論になった「エンジン音のないモータースポーツ」と一緒で、あるのが当たり前だった世代には当たり前で後の世代にはなくても何も感じないものになるという例になりそう。
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) January 8, 2022
以前Twitter上で「EVになったらエンジン音のないモータースポーツなんて価値がない」と力説してる方々と議論になったことがありますが、そもそも「エンジン音のあるモータースポーツ」というのは私自身も含む現行世代が体験しているものです。
ですので「モータースポーツはエンジン音がなきゃ物足りない」という見解は個人的な感情論としては私も理解できます(同意はしてません)。
ですが例えば2022年に生まれた子供が子供の頃から親はEVに乗っていて、物心ついた頃にはフォーミュラEなどのEVで行われるモータースポーツを見るようになって育ったらどうでしょうか?
「別にエンジン音がなくてもモータースポーツ面白いよ」「エンジン音なんてうるさいだけ」と言われる可能性が大いにあります。
「自分が青春時代を過ごした時に当たり前だったもの、思い入れのあるものを未来の世代も同じように感じてくれる」と思う方がおかしいです。
だから「昭和の世代には当たり前だった「家電は近所のナショナルのお店で買う」が平成以降は当たり前ではない」のと同様に、「車はディーラーで買って、メンテナンスもやってもらう」というのも数十年後には当たり前ではなくなる可能性は大いにあります。
自動車業界の場合は特に「EV化」という大転換が起きているのですからこれまでの価値観が通用すると考える方がおかしなことになるかもしれません。
先日「アウディがドイツでラウンジ付きの充電ハブをオープン」という話を紹介しましたが、例えばこのラウンジを「ラウンジ兼ショールーム」にしてEVの展示は行うけど、実際に整備するのは街中の提携した整備工場でというビジネスモデルも可能になります。
アウディがEVの充電インフラを変える可能性とは?【e-MobilityPowerはオワコン】
アウディがドイツ・ニュルンベルクにEV充電専用の「ラウンジ」をオープンさせたことが話題です。再生可能エネルギー100%の電力で最大320kWの速度で充電可能、充電中は2階のラウンジでくつろげるという日本のe-MobilityPowerが設置する充電器とは別世界の充電インフラがヨーロッパで展開されています。
もちろんアウディがそのような計画を持っているかは全く知りませんので(アウディも何だかんだ言っても既存の自動車メーカーですし)、私の妄想ですが仮にテスラやソニーがこのような販売方法を取り入れてくる可能性はゼロではないと思います。
冒頭の記事でも紹介しましたが現にテスラの「アフターサービス」は、
- 軽度の修理はモバイルサービスで対応
- 程度の重い修理はオートバックスなどの提携業者
- EVの根幹に関わる故障はテスラが直接対応
これでわざわざ高コストの「ディーラー」などを置かなくてもアフターサービスについても問題なく対応できます。
実際に車を見たい人のための「ショールーム」こそは必要になりますが、極端に言えば利用者数の多いスーパーチャージャーの隣にショールームを置いても役目は果たせるはずです。
ソニーのEV子会社設立に対しても「ディーラーも販売網もないくせに」のような批判がされますが、「車両はネット販売、整備は提携工場で」というやり方でも故障の少ないEVであれば全く問題なくやっていけると思うのは私だけでしょうか?
このような販売方式が一般化した時には既存の自動車メーカーが抱える巨大なディーラー網がむしろ「コスト」となって競争の妨げになる可能性も感じます。
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