メルセデス「EQS」から感じる日本市場へのやる気とは?【BMWもポルシェも本気】
こんばんは、@kojisaitojpです。普段はEVの情報を英語で追っているのですが、珍しく(理由は後述)日本語のメディアの方がメルセデス「EQS」の情報に関しては先行していたようです。
メルセデス「EQA」に漂う「大丈夫か?」という雰囲気はなぜ?【ポルシェ「タイカン」や日産「アリア」と比較】
メルセデスがようやく「GLA」のプラットフォームを活用した三度サイズSUVの「EQA」をリリースしました。しかし電気自動車専用の設計ではない点からポルシェ「タイカン」や日産「アリア」と比べると不十分なところも多く見られ、正直これで良いのか?という雰囲気があります。その結果は「EQS」が発表されれば分かります。
「大丈夫か?メルセデス」のような記事を書いて、実際にヨーロッパの車メーカーの中では危ないなという雰囲気が漂っていたのですが、それを一発で覆すような驚異のスペックでEQSを投入してくるようです。
さすがはメルセデス、どっかのメーカーのようにEVらしいぞと煽るだけ煽っておいて出してきたのがガソリン車の「AYGO」なのとは違います。
私も負けを認めます(笑)。
今日は4/15のワールドプレミアを前に日本市場向けの情報が出てきたメルセデス「EQS」についてとポルシェやBMWなどのドイツ車メーカーがこれまで以上に日本市場に対してやる気を見せていることについて考えてみます。
目次
Sクラスにふさわしいスペックで投入するメルセデス「EQS」
これまで発表された「EQC」や「EQA」のように従来のガソリン車のプラットホームから作られた少々構造に無理がある(航続距離が短いとかラゲッジスペースが小さいなど)のではなく、電気自動車(BEV)専用のプラットホームで作られる「EQS」は全く別次元のEVを用意してきました。
具体的な詳細は4/15のワールドプレミア待ちになりますが、現時点で出てきている情報をもとに「EQS」のスペックを解説します。
「搭載バッテリー容量が108kW、航続可能距離700キロ(WLTC)、最大充電出力は不明」となりますが、メルセデスのフラッグシップセダンにふさわしい100kW以上の大容量バッテリーと700キロ(EPAに換算すると600キロくらい)
最大充電出力については「不明」と書きましたがバッテリー電圧を800Vに設定していますのでポルシェ「タイカン」並の充電性能を備えてくる可能性が高いです。
航続距離の秘密は例えばこの画像を見てもわかるように空力性能をかなり向上させているからでしょう。
他には搭載されるバッテリーが「NMC811バッテリー」というのも大きいです。バッテリーは世界トップシェアの中国「CATL」社のものを用いるようです。
「NMCバッテリー」とは日本では一般に「三元系」と呼ばれる「ニッケル・マンガン・コバルト」を用いるバッテリーで「811」というのはそれぞれの物質の比率です。
ニッケルの割合が8割と非常に高いエネルギー密度のものを用いているのが驚異の航続距離を生み出す最大の理由です。
ちなみにNMCバッテリーについては以前フォルクスワーゲンの電動化戦略について述べた記事でも書きましたのでよろしければご参照ください。
フォルクスワーゲン(VW)の驚異の電動化プランを検証【日本もトヨタもオワコン?】
フォルクスワーゲングループが「Power Day」において、大規模なバッテリー生産工場の設立とそこで生産される「Unified Cell」と呼ばれる新しいバッテリー技術、充電スポットの設置、V2Xを含めた再生可能エネルギーを有効に活用するための蓄電池として電気自動車(BEV)の活用など日本メーカーとは別次元の計画です。
フォルクスワーゲングループは投入する車種の価格帯に応じて廉価版にはLFPバッテリー、プレミアムな車種にはNMCバッテリーと使い分けていますがメルセデスは基本的な顧客層が富裕層ですので「コスト<パフォーマンス」であるNMCバッテリーで勝負するようです。
このようなモデルを即座に投入できるメーカーであれば「EVなんて本気を出せばいつでも作れる」と言っても世界を納得させられるかもしれません。どっかの日本メーカーとは違って。
「V2H」「V2G」を搭載したモデルを日本市場に投入というメルセデスのやる気
そしてメルセデスの日本市場へのやる気を感じる部分が日本モデルには「V2H」「V2G」を搭載したモデルを投入するという点です。
この前フォルクスワーゲングループが「ただEVを売るだけではなく電力供給まで視野に入れた戦略」である点を述べましたが、日本のように地震などが多く停電のリスクが高い国においては理想的なシステムなのですが、これをメルセデスが投入してくるというのは驚きました。
「脱炭素」を追い風に再エネも活用するフォルクスワーゲンのEV以外の戦略とは?【トヨタは逆走】
先日の「Power Day」でフォルクスワーゲングループが提案したのはバッテリーの生産や充電インフラの整備という「電気自動車(BEV)」の側面だけではありません。「V2H」のシステムを利用してグリッドと双方向のやり取りを可能にする「電力供給の調整弁」として活用するという再生可能エネルギーの欠点を解消する壮大な計画です。
というのも日本の「V2H」「V2G」に対おするためには「チャデモ」に対応する必要があるからです。
一部の富裕層に売れればいいやというだけではなくもっと広い層に売りたいというメルセデスの意欲を感じる試みです。
ポルシェもBMWも本気で日本市場を攻略?
このようにメルセデスが日本市場を本気で攻略しようという姿勢が見えるのと同様にポルシェやBMWなどもこれまでとは違ったやる気を感じます。
ポルシェジャパンは独自の充電ネットワークを展開しています。
最大出力150kWでの充電が可能なポルシェターボチャージャーは全国の正規販売店はもちろん、東京、大阪、名古屋のランドマーク施設にも導入されます。
#電気記念日
#ポルシェ #Porsche
#タイカン #Taycan pic.twitter.com/ynTgzYS4Td— ポルシェジャパン (@PorscheJP) March 25, 2021
ポルシェ「タイカン」については先日も記事を書きましたが、何と自社で充電ネットワークを整備するという計画がどんどん進んでいます。
メルセデス「EQA」に漂う「大丈夫か?」という雰囲気はなぜ?【ポルシェ「タイカン」や日産「アリア」と比較】
メルセデスがようやく「GLA」のプラットフォームを活用した三度サイズSUVの「EQA」をリリースしました。しかし電気自動車専用の設計ではない点からポルシェ「タイカン」や日産「アリア」と比べると不十分なところも多く見られ、正直これで良いのか?という雰囲気があります。その結果は「EQS」が発表されれば分かります。
150kWの急速充電となると普通充電とは違って設備投資にかなりの費用がかかりますが、ポルシェジャパンでは各地のポルシェセンターに整備する予定です。
いくつかの外車メーカー(例えばプジョーとかジャガーとか)が日本市場に投入するモデルは「チャデモ」の規格に合わせた最大出力50kWに落とした仕様で出してきて、ヨーロッパ仕様のような急速充電には対応できない場合が多かったのですが、ポルシェは自社で充電器を整備することで高速充電にも対応してきました。
メルセデスに関しては残念ながら「50kWのチャデモに対応」とアナウンスが出ています。
しかし「EQS」の発売後もこれで行くのかな? Sクラスに乗るような顧客がそれで満足するのかな?という疑問はありますので、もしかしたら今後自社で充電を用意するというアナウンスが出るかもしれません。
また充電に関してはアナウンスが出ていませんが、BMWも「i4」「iX」をヨーロッパ市場とほぼ同時に日本市場に投入していることを表明していますので、メルセデスやポルシェ同様に日本市場に対する意欲を感じるところです。
BMW が投入する「iX」「i4」が意外とハイスペック?【意外とやる気?】
正月の箱根駅伝で先導のバイクがBMW製の電動バイクであったことが一部で話題になっていましたが、これが2021年にBMWが電気自動車(BEV)で日本市場に攻勢をかけてくる布告だったと言えるかもしれません。今日は2021年にヨーロッパのみならず日本市場にも投入予定の「i4」「iX」「iX3」について紹介します。
日本メーカーがEVやる気ないなら攻略するチャンス?
今回のようにV2HやV2Gの機能を搭載された「EQS」の投入を表明しているメルセデス、最大150kWの充電を自社で設置するポルシェ、ヨーロッパとほぼ同時に日本市場へのEVの投入を表明しているBMWとドイツの各社が日本市場に対して以前より意欲的なのが感じられるのが特徴です。
ディーゼルの頃だと「でも日本市場じゃ売れないから」的な感じでやる気ない外車メーカー多かったんだけどEVは攻略できると見てるんだろうな
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 26, 2021
理由は簡単です、「日本メーカーが電気自動車(BEV)に対してやる気を感じないから」です。
もちろん日産に関しては例外的にやる気がありますが(日産はルノー傘下ですので否応なくEVにシフトします)、最大の自動車メーカーであるトヨタがやる気なしというのは海外のメーカーからすると「チャンス」と見えることでしょう。
「ディーゼルvsガソリン」の時代であれば日本市場でハイブリッドには勝てないと感じでディーゼルの投入をためらうヨーロッパメーカーの心情は何となくわかるものでしたが、今回のEV化の流れは「脱炭素」「ガソリン車禁止」という世界の流れが背景にあってのことですので、「今まで攻略しにくかった日本市場を攻略できるかも」とヨーロッパの各社が感じるのも当然のような気がします。
繰り返し言ってますが「日本市場だけハイブリッドを売る」的な戦略は「世界市場向けにはEVを、日本市場向けにはハイブリッドを」という二重の開発・生産が必要になってしまい企業としてはとても効率が悪いです。
会社の売り上げの10%くらいしかない日本市場だけのためにハイブリッドの開発を継続する、それゆえにEVの開発は中途半端になりバッテリー調達ができないなどの点で日本メーカーはわざわざ世界で競争するのに不利になることをしているのは本当に謎です。
以前も記事にしましたが「EVなんて本気になればいつでも作れる」的な強がりは「じゃあバッテリーをどうやって調達するの?」というたった一つの疑問点によって張子の虎であることがバレてしまいます。
RAV4の発火案件とEVにおけるバッテリーの重要性【やっぱりトヨタはオワコン?】
アメリカでトヨタ「RAV4」のバッテリーから発火する事案が出て約190万台というリコールにつながる可能性が出てきました。しかもPHEV車の駆動用バッテリーではなく12Vの鉛蓄電池が原因のようで「トヨタ大丈夫か?」という雰囲気がします。今日はそんなトヨタの「バッテリー」に注目して今後の電気自動車化について考えてみます。
この話をすると必ず現れる「トヨタはいつでもEVが作れるけど時期尚早だからあえてやってないんだ」的な批判は「じゃあバッテリーどうやって調達するの?」という根本的な問題に答えてから言って欲しいものです。
テスラ・フォルクスワーゲンと比べたトヨタのオワコン具合とは?【終わりの始まり・Prologue】
先日発表された「AYGO」がガソリン車であったことも衝撃でしたが、他にもトヨタはアメリカでEV化の流れを妨害するようなロビー活動や政府の補助金にハイブリッドも加えてもらうように圧力をかけているという情報が出てきました。EV化の流れに上手く乗ったテスラやフォルクスワーゲンとトヨタの間にはどのような差があるのか考察します。
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