「大容量バッテリー」「350kW級の超高速充電」をEVに求めるのは間違い?【価格とのバランス】

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こんばんは、@kojisaitojpです。EVの話になると必ず「航続距離は?」「急速充電器の速度は?』とスペックの話になりやすいですが、素朴な疑問があります。

もちろん私もEVの進化を語るために「これだけの航続距離が出る」「急速充電もこんな速さでできる」というスペック面を強調して記事を書くことはありますが、書きながら「され、そんなハイスペック必要なの?」と思うことも実は多いです。 

引用したTwitterでの仮定でも往復800キロの走行で100kW級の急速充電さえ可能であれば問題なく運用できる(要はSAPAの休憩時間に充電で済む)と証明されています。

急速充電器の話になると「何で日本ではヨーロッパ並の350kかていいかW級が導入されないんだ!」とネット上ではいわゆる「スペック厨」な方々が騒ぎ出すところなのですが、ふと冷静に考えると「そのスペック必要なの?」と思うことも多いです。

もちろんだからと言って先日私も紹介しましたがeMobilityPowerが出したような「200kWを最大6台でシェア」するような充電器は論外ですけど。1台平均で30kWくらいの速度しか出ない充電器であればバッテリーが小型のEVでも30分で十分な充電量を確保することはできません。

思いつく唯一の例外が三菱「アイミーブ」のMグレードくらいでしょうか。バッテリー容量が10.5kWhのサイズであれば30kWでもほぼ充電できそうです。

現時点でのEVという存在はどうしても主要な購買層が「イノベーター」と呼ばれる早めに飛びつく人々、特に「メカおたく」や「スペック厨」のような方々が中心なってしまいがちですが、冷静に考えると「そのスペック必要なの?」と思うことも多いです。

「ハイスペックだけど高い(高価格高付加価値)EV」と「そこそこのスペックだけど安いEV」だとどっちが売れるかと言えば問答無用で後者です。

と今日は「BYD」が発売を発表した「Dolfin」という新しいEVを一つの例として、この「そこそこのスペックだけど安いEV」こそが求められていることについて語ってみます。

「そこそこのスペックで低価格のEV」を提供するBYDの「Dolfin」

BYD「ドルフィン」
さて先月「BYD」から発表された「Dolfin(EA1)」というEVですが、情報はこちらの記事にまとまっています。

先日はボルボの例で紹介しましたが、BYDを見ても同様に2025年以降の次世代のEVでは航続距離1000キロ前後というのが当たり前になるかもしれません。

ただそれは将来の話であって本日取り上げる「そこそこのスペックで低価格」ではない可能性もあります(実際にBYD側も1000キロ走行可能なモデルは上級グレードと明言)。

今回発表された「Dolfin」はその小型のサイズで「全長4070mm/全幅1770mm/全高1570mm」と軽自動車に近いサイズです。

BYD「ドルフィン」

小型のEVとなると航続距離に不安があるところですが、BYDオリジナルのLFPバッテリーを採用した「Bladeバッテリー」により350-400キロくらいの走行は可能なようです。

BYDオリジナルのLFPバッテリーを用いた「Bladeバッテリー」のメリットについては以前解説してる記事をご参照ください。

そして価格が現在出ているのは関税の高いオーストラリアでの販売価格なのですがそれでも280万円前後、日本で同じように販売した場合だと200万円前後になる価格の予定ですので、驚異の価格です。

高級車セグメントであれば「航続距離1000キロ行った」とか「0-100km/hの加速が2秒」だとかスペック競争に走ってもいいのですが(むしろテスラ辺りはそのハイスペックさが売り)、今回の「Dolfin」のような軽自動車に近いサイズのセグメントであれば最重要なのは「価格」です。

BYDのe-plattform3.0

(ちなみにBYD「Dolfin」はBYDの新プラットフォームである「e-platform 3.0」で生産されるのもあって、廉価版のモデルから800Vの急速充電に対応する予定です。

400キロ前後走れて、充電もこれまでの倍速となれば日常使うのには何の問題もありませんよね。しかも価格が200万となれば売れないケースを想定する方が難しいです。

もちろん中国メーカーの激安EVとなると私も何度も取り上げたことのあるあの「宏光MiniEV」が真っ先に浮かびますが、航続距離が100キロ前後、急速充電なしの普通充電のみですので用途はかなり限定されます(それでもセカンドカーと考えれば抜群のコスパです)。

「BYD」は元々バッテリーメーカーなのもあり、自社で生産したバッテリーを使用するのでコストダウンが図りやすいというのは以前から何度か取り上げた長所です。

しかも既に「EVバス」の分野で世界50カ国以上に納入(日本にも来てます)してますので海外展開のノウハウを既に形成しつつあります。

「EVバス」については以前解説してる記事がありますので、こちらをご参照ください。

日本市場にこの「Dolfin」が200万円前後で投入されたとしたら、今後訪れるガソリン車からEVへの乗り換え需要を根こそぎ奪っていくポテンシャルを秘めていると私は予想しています。

「全固体電池が完成すれば一発逆転」などと妄想しているメーカーもありますが、全固体電池が実用化される前に現行のリチウムイオンバッテリーで1000キロ前後のスペックが可能になれば勝負にならないと思います。

日本勢がやるとなぜか高価格になるEVは論外

マツダ「MX-30」のEV
「じゃあ日本メーカーもコンパクトで低価格なEVを作ればいいんだ」と思うのですが、残念ながら今のところは失敗続きです。

マツダMX-30

もちろん「小さいバッテリーのEV」とはいっても失敗作・欠陥車のようになってしまった低スペックなEVを「これが正義だ」と言うつもりはありません。

マツダ「MX-30」の問題点については以前も触れてますのでこちらをご参照ください。

あくまでも「価格面とのバランス」が最重要ですので、マツダ「MX-30」のように車両価格が450-500万だと「500万でこのスペックなの?」となってしまいます。

「ホンダe」

私が一度カーシェアで乗った「ホンダe」に関しても同様で「このEVが200万-300万なら間違いなく売れるのに」というのが私の感想ですが、実際の車両価格は500万くらいですので論外です。

こちらの場合は車のサイズ自体は非常に小さいのが大きなメリットで、「高速道路を時速100キロでクーラーをつけても達成可能な、実用使いにおいて最も信頼に値する」EPAサイクルだと航続距離200キロを切る低スペックに見えますが、そもそも高速道路を使った長距離走行を想定しないシティ・コミューターに位置付けられるEVですので街乗りだとEPAサイクル以上に走りそうな印象です。

これは三菱で充電した光景を撮っていますが、明らかに「このスペース、アイミーブしか考慮してないな」と思われる狭い充電スペースでも問題なく入れました。

ここにテスラで入るのはかなり困難だと思われますし、日産「リーフ」辺りでも案外大きいので苦戦するかもしれません。

コンパクトなEVが欲しい場合この「ホンダe」はかなり魅力があるのは私も以前お話ししましたが、500万と言われると「その金額出すならテスラ買うわ」で終わってしまう人の方が多いことでしょう。

なお私が実際に「ホンダe」に試乗した際の記事がありますので詳細はこちらをご参照ください。

このようにバッテリー容量も小さめ、車体も小さめのコンパクトなEVを発売しようという動きは日本メーカーにも見られるのですが、現時点では価格面でBYDなどの中国メーカーと全く勝負にならないのが現実です。

「そこそこのスペックで低価格」のEVこそが求められる

フィアット500EV
「そこそこのスペックで低価格」という例に中国メーカーだけを出すとおそらく叩かれるでしょうから、最後にもう一台今後はヨーロッパ車から例を出しましょう。

年明けに「2021年中に日本市場へ投入」という発表を見て私も以前記事にしましたが「フィアット500e」は来年2022年1月の発売予定になったようです。

年明けの発表以降何の報道もなかったので「どうなったんだ?」と思っていましたが、元々は2021年7月に発売する予定だったというのを記事の中で見つけて「フィアット本気だったんだな」と納得です。

Fiat500e

このフィアット500eの実際日本に投入されるかは不明の廉価グレード「Action」は「搭載バッテリー容量23.8kWh、航続距離161キロ(EPA)」とバッテリーも小型でカーナビは存在せず自分のスマホを接続してナビ代わりに使うことになりますが、価格は200万円台とハイスペックなEVと比べるとかなり安いです。

航続距離が161キロと言われると短いと思うかもしれませんが、先ほどの「ホンダe」などと同様に高速でぶっ飛ばすようなEVではありませんので街乗りだともう少し(200キロ前後?)走れると思います。

200キロ近く走れた上に「最大充電出力50kW」なので30分あれば日本のチャデモでもほぼ満充電近くまで持っていけます。「バッテリー容量が小さい=充電にも時間がかからない」ですので、日本のチャデモ規格のような高速とは言い難い充電器でもある程度充電できてしまうわけで、案外長距離移動も苦にならないように思われます。

「ナビもないのかよ?」とか「こんな航続距離じゃ」と言いたい人が出てくるのはわかってます。「航続距離1000キロ」だとか「350kWの急速充電に対応」「自動運転対応」のような超ハイスペックを求めるのであればテスラなどを買う方が全然満足できると思います。

ですが「全ての人がハイスペックを求めてるわけじゃないよ」というのが私の言いたいことです。

「ハイスペックだけど高い」よりも「そこそこのスペックだけど安い」だと後者を選ぶタイプの人は一定数(むしろこっちが多数派?)います。

そういう意味では冒頭で紹介した「BYD」や「GreatWall」のような中国メーカーは10年20年先まで見越して、メカおたくやスペック厨ではない一般の人にEVを広めることまで視野に入れてEVを作っているなと感心するところです。

そこそこのスペックのEVを500万円とかで販売してしまう日本メーカーが足元をすくわれるのは時間の問題かもしれません。

過去にスマホや家電で日本メーカーが中国や韓国のメーカーに敗れたのと同じ展開が見えてきます。

日産・三菱の軽規格EV

数少ない希望は先日も取り上げた日産と三菱が共同で生産する軽自動車規格のEVでしょうか。

航続距離が150-200キロと抑える代わりに価格も200万を切る販売価格(EVの場合バッテリー価格が車両価格の大半を占めるので搭載バッテリー容量を減らす=コストダウン)であれば本日取り上げたBYD「ドルフィン」や「黒猫」、「フィアット500e」辺りと互角に勝負できそうです。

ちなみに何度か話題にしましたが「アリア」に関しては高級車ですのでハイスペック・高価格で全く問題ありません。ターゲットとする購買層が全く違います。

ですが軽自動車となると話は別です。「そこそこのスペックで低価格」であることが必須になります。

もしかすると日本の自動車メーカーが世界のEV化の中で生き残れるのかを測る一台となるかもしれません。

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