ボルボの「全車電気自動車化(BEV)」とOTAアップデートの衝撃とは?【対照的なガラパゴス日本】
こんばんは、@kojisaitojpです。先日「ジャガーが2025年から全車電気自動車化(BEV)」を発表しましたが、今後はボルボが続いてきました。
「縮小するビジネスに投資するよりも未来に投資することを選ぶ」と一言で俺が言いたいことを言ってくれた。
ボルボ、2030年までに全て電気自動車化へ(TBS系(JNN))#Yahooニュースhttps://t.co/iLbldoXXi0— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 3, 2021
既にフォルクワーゲン、ジャガー、GM、フォード、ヒュンダイ、起亜などアメリカ・ヨーロッパ、韓国の多くの自動車メーカーが全車電気自動車(BEV)に切り替える意向を表明しています。今あえて「(BEV)」と書いているのはPHEVは含まれないということを強調するためです。
ジャガーが2025年に全車電気自動車化する衝撃とは?【XJブランド消滅?】
2030年からエンジンを搭載した車の販売を禁止するイギリスに本拠地を持つジャガーが2025年以降は全車電気自動車化すると発表をしました。ヨーロッパの状況を考えるとむしろ当然という判断なのですが、長年君臨してきた「XJ」の名前を捨てる発表もされました。ここに電気自動車に勝負をかけるジャガー社の決意の強さを感じます。
ボルボも昨年から年に一車種ずつ電気自動車を販売して行く意向を表明しましたが(これまではPHEVが中心でした)、ここにきて2030年から全車電気自動車化を表明しました。
今日はこのことが持つ意味とボルボがほぼ同時に実施したOTAアップデートについて解説します。
目次
全車電気自動車化に「サブスク形式」を導入するボルボの戦略
ボルボが電気自動車化」というのは私のブログでも何度か取り上げた「電気自動車は寒さに弱いのでぇ〜」的な批判が的外れであることを証明しています。
ノルウェー、スウェーデン、フィンランドって並んでて日本より全然北なのわかってなさそうで怖い(笑)
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 3, 2021
とりあえず電気自動車のネタは全部叩いておけ的なアンチが最近増えていることはTwitterやヤフコメなどを見ているとよくわかるのですが、ボルボが日本よりもはるかに寒い北欧のメーカーだということを知らずに「電気自動車は北海道では走れない」などと言っている人が多いようです。
ノルウェー・スウェーデン・フィンランドのあるスカンジナビア半島は日本でいうと北海道よりもはるかに北にあり、冬の気温はマイナス、雪も普通に積もります。
それゆえボルボ車の特徴は「最初から寒冷地仕様が前提」なのがこれまでも特徴であり、寒冷地で電気自動車化しても耐えられるという判断がなければボルボ車が全車EV化の決断を下すことはありえません。
何枚か写真を貼りましたが、これが今の時期のスウェーデンの首都ストックホルムの風景です。先週所用で私の地元である札幌に帰省しましたが大差がない風景でしたよ。
ちなみに私の実家の近所で駐車場に停まっているテスラ・モデル3を2台も発見したのは衝撃でしたが。スーパーチャージャーの存在しない北海道でも着実にテスラ車の台数は増えているようです。目撃したテスラ車はどちらも一軒家でしたから自宅充電で問題なく暮らせるでしょうけど。
さて今回のボルボの発表で特徴的だった点はこちらです。
- 2030年から全車EV化
- 販売はオンライン(サブスク)
- 既存のディーラーはリース(サブスク)の拠点として残す
既存の自動車メーカーも参考になるポイントが「EVはオンライン販売」というのと「サブスク形式で提供する拠点としてディーラーは残す」という点でしょう。
私のブログでも過去に「フォルクスワーゲンのディーラーが電気自動車を売りたがらない」「三菱ディーラーに行ったらアイミーブ以外をすすめられた」とエンジンが存在しないため故障が少ないため整備でお金を取れないからディーラーがEVの販売を嫌がるという問題がありました。
またオイル交換もなし、回生ブレーキの効果によりブレーキパッドの交換もほぼないなどユーザーが整備に来ることも少ないため更に儲からないという既存のディーラーにはデメリットしかない電気自動車を売らせることを諦めてオンライン販売に切り替えたのは賢明です。
となると「既存のディーラーを潰すか?」という問題に突き当たるのですが、ボルボはその方向には行かないようです。
代わりに既存のディーラーに担わせる役割が「リース形式」、つまりボルボの電気自動車はメーカーがディーラーにEVをリースして、それをユーザーには月額課金の「サブスク形式」で提供するという新しいサービスを考案してきました。
ユーザーはサブスク形式なので月額の固定料金(一括払いも可)さえ払えばディーラーでのメンテナンス代・自動車保険・自宅への充電器設置まで全て込みで使用できるというこれまでの自動車メーカーとは違ったやり方をボルボが導入します。
詳細はまだこれからの発表になりますが、リース(サブスク)形式にするというのは、もしかしたら将来の自動運転化・ロボタクシー化に備えているのかなという予感もしました。この部分に関しては私の個人的な予想で、まだボルボ社からは全くアナウンスがありませんが。
要はユーザーが使っていない時間帯はロボタクシーで運営するとか、ユーザーが手放してディーラーに回収された車両もディーラーを拠点としてロボタクシーとして運営するという可能性もあるかもしれません。
「既存のディーラー網をどうする?」という「雇用」に関する問題に対して、一つの選択肢になるかもしれません。
ボルボ初のOTAアップデートと「オンライン販売」も発表
このような「全車EV化」の発表とほぼ同時期にボルボが現在発売中の電気自動車である「XC40 Recharge」と「ポールスター」に対して「OTAアップデート」を実施したことも発表されました。
VolvoとPolestarが初のOTAによるソフトウェアアップデートを実施、航続距離や充電速度などを改善。
この方法は、これからのスタンダードになるでしょう😌
Volvo & Polestar Initiate First Ever Over-The-Air Software Update https://t.co/bXt3ubmLfV
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) February 26, 2021
私のブログでも以前「XC40 Recharge」については取り上げましたが、現時点ではEPA航続距離が335キロというのがちょっと物足りないという欠点がありました。
「ボルボXC40 Recharge」と「日産アリア」を徹底比較【2021年発売予定】
2021年に日産がいよいよ投入する「アリア」を同じミッドサイズSUVでスペック的にも競合することが予想されるボルボ初の電気自動車「XC40 Recharge」と比較してみます。PHEVに注力していたボルボがようやく電気自動車に全力投球してきましたが、早い時期から電気自動車を販売していた日産がどう迎え撃つか注目です。
しかし今回のOTAアップデートによって、モーターの出力調整(加速に関する部分)や充電時間・航続距離がパワーアップしたようです。
これが電気自動車の最大の特徴でもあるのですが、「車両の購入後も自動車の性能がアップする」というのがこれまでの内燃機関車(エンジン搭載車)では考えられなかった改良が購入後も行われるということです。
バッテリーとモーターという電子制御が可能な仕組みが電気自動車の特徴であるがゆえの特徴でもあるのですが、ソフトウェアをアップデートすることによって車の走行性能にも関わる「フォームウェア」も改良することができるという点があります(内燃機関車もロムチェーンという手段はありますができることに限界があります)。
つまりこれまでの自動車のように買った瞬間が性能のピークで、時間が経てば経つほど性能が劣化していくということがなくなる(要はリセールバリューが高い)のが電気自動車の特徴であると言うことになります。
私はいずれ「電気自動車の中古車市場」というのもこれまでの内燃機関車と別の方向に発達すると読んでいますが、根拠はこの辺にあります。
そしてこのアップデートを「OTAアップデート」つまりオンラインで、ユーザーがわざわざディーラーに行かなくても無線でアップデートしてもらえるという、ユーザーにとってはありがたい、既存のディーラーにとっては顧客が来店しなくなるというデメリットになるという、ユーザーとディーラーに利害対立が起きるものであることは以前述べた通りです。
「ディーラーでアップデートするのが当たり前でしょ?」的にソフトウェアのアップデートのためにわざわざディーラーに来させるという頓珍漢な対応をした日本のメーカーについてはこちらの記事をご参照ください。
「テスラ方式」からは程遠いマツダ「MX-30」のアップデート【ディーラー行く意味あるの?】
「テスラ方式」のソフトウェアアップデートでMX-30のリコール対応を行うと表明したマツダですが、そのアップデートはオンラインではなくディーラー行くという旧態依然なもので、そこがテスラ方式なのかという感じです。片やLFPバッテリーの不具合が指摘されていたテスラはオンラインでサクッとアップデートしたのと対照的です。
「電気自動車が普及すると既存のディーラーが不要になる」「部品点数が少なくなるから部品メーカーも減ってしまう」「自動車業界550万人の雇用を維持する」などという自分達の都合でユーザーにとってはメリットしかない電気自動車をいつまで経っても本格的に導入しようとしない日本の自動車メーカーについてはこれまで批判してきた通りです。
「電気自動車を導入してもしなくても雇用の削減という避けられない問題は生じるのだから、むしろ早めに対応した方が傷が浅くて済むのでは?」というのが私の見解ですが、この方向で電気自動車化に踏み切ろうという日本メーカーはまだ現れていません。
今回のボルボ社の対応は一つのヒントになると思うのですが、日本メーカーが何か反応してくれるでしょうか?
日本だけ「電動化」で誤魔化してもダメ
今日はボルボの電気自動車化の予定と将来の自動運転技術に備えたOTAアップデートについて見てきました。
日本の場合ですと2035年以降はガソリン車の販売禁止という方針こそ政府が表明しましたが、ヨーロッパと大きく違うのは「ハイブリッド車もOK」という中途半端な規制なのが問題だというのもこれまで話してきた通りです。
日本の「電動化」にはハイブリッド車も含まれるというヨーロッパなどの「電動化(BEVとPHEVのみ)」とは意味が違うガラパゴスルールになっています。
日本では充電インフラも整ってないし、再生可能エネルギーも向いていないから電気自動車を火力発電や原子力で発電するハメになるから電気自動車には向いてないなどと様々な理由をつけて電気自動車を否定しようとする、あるいは「別にガラパゴスで何が悪いんだ。日本には日本に合ったルールでやればいい」などと勝手なことを言っていたりしますが、これは成立しません。
というのも日本だけハイブリッドOKの独自基準でやっても「新車販売の大半を海外に依存している日本メーカーが売れる市場が日本しか無くなる」からです。
国単位では2025年からノルウェー、2030年からはイギリスが、国単位ではいつからか未定ですが2030年からアムステルダム市内やパリ市内への内燃機関車(エンジン搭載車)の乗り入れが禁止になるなど、エンジンを搭載した車自体を世界が拒否しようとしているのが現実です。
ハイブリッド車を作り続けても日本市場以外で売れる市場が無くなった瞬間、日本の自動車メーカーは収益の大半を失ってしまうのでおそらく潰れます。
あるいは潰れない場合でも「BYDかテスラがトヨタを買収する」ようなことが起きてしまいます。
私はよく冗談で言っていますが、例えばテスラがマツダを買収すれば「ギガファクトリーヒロシマ」になっているかもしれませんし、トヨタを買収すれば「ギガファクトリーナゴヤ」になっているかもしれません。
世界の市場で日本車を売れなくなるというのはそのような悲劇的な未来につながってしまいます。
日本国内の充電インフラが足りないとか、EV化で雇用が減るなどの日本国内の都合は世界の流れに何の影響も与えません。日本に忖度してEV化を遅らせてくれる国があったら逆に教えてもらいたいくらいです。
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