フォルクスワーゲンのEV(電気自動車)戦略は妥当なのか?【罰金も開発遅れも問題なし】
こんにちは、@kojisaitojpです。このようなニュースが出た時に他人の不幸を喜ぶような輩が増えていてうんざりするところです。
【わずか0.5g/kmの差】VWグループ、欧州CO2規制クリアならず EV販売は大幅増
独VWグループは、2020年の欧州CO2削減目標を達成できませんでした。少なからぬ罰金が科せられます。
VW「打倒テスラ」の取り組み、なぜつまずいたのか
VWは自動車大手によるテスラ打倒の賭けで、全ライバルを上回る投資をしてきた。だが重要な何かを見落としていた。
「ほら、やっぱり電気自動車にしてもCO2なんか減らないんだ」とか「ハイブリッドが中心のトヨタはクリアしてるぞ」とか言い出したりするわけです。まぁトヨタは残念なことにアメリカで排気ガス規制に違反して訴えられていた件で、バイデン大統領就任前日に和解に応じて罰金払ってますが、都合の悪い情報はスルーなのでしょう。
確かにフォルクスワーゲンは「フォルクスワーゲングループ」で規制をクリアできなかっただけで、既に電気自動車化に本腰を入れているフォルクワーゲンや傘下のアウディ単体ではクリアしています。足を引っ張ったのは電気自動車化が遅れているポルシェやブガッティ、ベントレーなどだっただけなのですが、やはり都合の悪い情報はスルーなのでしょう。
またもう一つのニュースはフォルクスワーゲンが昨年ヨーロッパで発売された初の電気自動車専用プラットフォームの「ID.3」のソフトウェアの開発が遅れて、アップデートが進まないというニュースですが、こちらはこちらで電気自動車化というのが簡単には進まないという、今後日本メーカーもぶち当たるであろう壁の話です。
そんな風にフォルクスワーゲンの電気自動車化が上手く行ってないかのようなニュースが次から次へと流されていますが(意図的?)、それでも電気自動車化へ向けての未来は明るいということについて書いてみたいと思います。
目次
「わずか0.5g/km」と「納期の遅れ」に直面するフォルクスワーゲンの電気自動車化
まずはフォルクスワーゲンに課せられた「罰金」についてから説明します。
EUでは低排出ガス車やゼロ・エミッション車への切り替えを促すための厳しいCO2排出量の規制が2020年から施行されています。
車両平均95g/kmを基準とした厳しいCO2排出量規制で、車種構成に応じてメーカーごとに目標値が異なり、未達のメーカーには一定の罰金が科せられるというルールです。
車種別では、
【2020年12月】
1⃣VW ID.3:28,108台
2⃣テスラ モデル3:24,664台
3⃣ルノー Zoe:16,322台【2020年全体】
1⃣ルノー Zoe:99,613台
2⃣テスラ モデル3:87,642台
3⃣VW ID.3:56,937台暫くはID.3の勢いが続き、その後はID.4もランキング上位に加わると予想されます👍 pic.twitter.com/2wr6eerUba
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) January 26, 2021
フォルクスワーゲン社自体は2020年9月からの販売になりますが、最初の電気自動車専用プラットフォームで設計された「ID.3」の売り上げが絶好調なのもあり、ヨーロッパではあのテスラ・モデル3すら凌駕する勢いです。
販売台数に占める電気自動車(BEVとPHEVの合計)の割合は9.7%で、前年の1.7%から増加している上に2020年末から投入された「ID.4」や同グループのアウディ「e-Tron」の販売も絶好調で2021年は更に電気自動車の割合が上昇することは確実です。
しかもフォルクスワーゲングループの中でも「フォルクスワーゲン」と「アウディ」に関しては2020年の売り上げでもEUの基準をクリアしています。
知らない方がいるから恐ろしいと思うことが多いですが、フォルクスワーゲングループには他に「ポルシェ」「ブガッティ」「ベントレー」「ランボルギーニ」など名前を聞いただけで車に詳しくない人でも「燃費悪そう」と思ってしまうブランドが多数存在します(笑)。
これらを合算した結果わずかにEUの規制を超えてしまったというのが本当の姿です。
ポルシェに関しては先日お話ししたように「タイカン」という電気自動車の発売が開始してますし、以前は「911だけはガソリンエンジン」と言っていたところを方針転換し911も電気自動車化すると表明しており既にかなり本気で電気自動車に取り組んでいます。
先日のメルセデスの記事でも言ったように「電気自動車専用プラットフォームを用意」と「自前で急速充電網を整備」と本気じゃなければ絶対にやらないような施策も既に実行に移しています。
ということは2020年こそは惜しくもグループ全体ではEUの基準に到達しなかったものの、2021年以降は全く問題がないということも同時にわかります。
主力のフォルクスワーゲンを見ても7人乗りSUVの「ID.6」や日本でいう軽自動車サイズの「ID.1」、「ワーゲンバス」として有名な「フォルクスワーゲン タイプ2」の後継にあたる「ID.Buzz」など今後多種多様な電気自動車が登場します。
アウディが電動車を30車種に拡大、25モデルはフルEVに 2025年までに | レスポンス(Response.jp)
アウディは1月22日、2025年までに電動モデルを約30車種に拡大し、そのうち約25モデルをフルEVにする、と発表した。
同様にアウディもこのように全車種を電気自動車化することを表明しており、2021年も早速『Q4 e-tron』と『Q4 e-tron スポーツバック』の発売が予定されています。
「モジュラー エレクトリフィケーション プラットフォーム(MEB)」というフォルクワーゲングループで共通の電気自動車用プラットフォームは、コンパクトクラスからアッパーミドルクラスに至るまで幅広い車種の生産が可能であり、ここから先はスムーズに開発が進む可能性が高いです。
「納期の遅れ」が示す電気自動車のもう一つの難点
とはいえ急速に電気自動車化を進めることで課題も明らかになってきています。
それが冒頭に挙げたもう一つの問題である「ID.3」のソフトウェアの開発が遅れて、アップデートが進まないという問題です。
このことが示唆するのは、これまでの自動車メーカーはソフトウェアの開発が苦手であり、この点でテスラのように最初から将来の自動運転機能まで折り込んだソフトウェアの開発を(一応何だかんだ言ってシリコンバレーの企業ですし)進めている会社には劣るところです。
自動運転レベル4まで対応予定の「VW.OS」と呼ばれるオペレーティングシステムを現在開発中であり、これが完成するまではディーラーでのアップデートで不具合の解消を図る(つまりテスラのような無線アップデートはまだできないということ)とのことですから、苦戦している様子がわかります。
まぁこの辺りの初期トラブルについては「ヨーロッパ・アメリカ=多少の問題があっても安全性に問題がなければとりあえず発売して後から修正する」「日本=完璧に仕上がるまで発売を遅らせる」という思想の違いにもつながるところです。
私自身もこれまでルノー、シトロエン、ジャガー、フォルクスワーゲンと様々な車種を乗り継いできましたが、「モデル初期は故障が多いから買わない方がいいかも」というのが実感です。
実際並行輸入で買った「シトロエン C3 プルリエル」は最初の3万キロくらいで「センソドライブ」というミッション(ヨーロッパ系のセミオートマは本当にショボいです)が逝ってしまいました(笑)。
発売して徐々に初期不良を解消して完成系に近づけるというのは「何で完璧な商品を売らないんだ!」と怒りがちな日本人からすればあり得ないことなのでしょうが、「石橋を叩いてもなかなか渡らない」ことが本当に正しいことなのかは誰にもわかりません。
「外車=壊れやすい」というイメージは間違いではないのですが、「最初から完璧なものは出せない」という前提で発売するヨーロッパ車と「石橋を叩いて叩いて、納期が遅れても完璧にしてから出す」日本車との思想の違いを理解していないこともこのイメージを広めていると言えます。
実際私が「欲しい」と絶賛しまくりのテスラにしても細かいことをほじくり出せば欠点・欠陥などいくらでも指摘できます。だからと言って買いたいという意欲は全くなくなりませんが。
今のリーフはバッテリー交換ほぼ不要なのに、まだ「電気自動車はバッテリーが劣化して交換がぁ」とか言ってる奴がいるのも困りもの。 https://t.co/ifpKgmqc3A
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) January 26, 2021
実際に今でも初代初期型リーフ(2011〜2012年のもの)にあったバッテリーの欠陥を指摘し、今のリーフも同様にバッテリーが消耗するかのようなフェイクニュースを流している人が多くて唖然とします。
とはいえ世界で他のメーカーより素早く(正確には三菱i-MiEVがトップですが)電気自動車を市販したことの意味は大きく、先ほど引用したTwitterにある販売台数の上位にもはやモデル末期となった日産リーフがランクインしていることからも「ブランド」としてヨーロッパで評価されていることがわかります。
「フォルクスワーゲン」や「メルセデス」でさえ苦労する電気自動車の厳しさ
割と多くの方から「いいね」をいただいたのもあるので引用しますが、
フォルクスワーゲンもメルセデスも結構苦労してるんだから日本メーカーが「電気自動車なんていつでも作れる」という風には多分行かないよ。
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) January 25, 2021
昨日はメルセデスの「EQA」について取り上げた際にも「メルセデスの電気自動車、これで大丈夫なの?」と疑問点を挙げて解説しましたが、メルセデスにしろ本日取り上げたフォルクスワーゲンにしろ、旧来の歴史のある自動車メーカーが電気自動車化に苦労しているのは事実です。
その前にはホンダが電気自動車の製作をGMに委託するというニュースを取り上げて「ホンダがGMに丸投げで大丈夫なの?」という話もしました。
このように歴史のある自動車メーカーが電気自動車を作成しようとすると、
- バッテリーの調達に苦労する(ホンダ・メルセデス)
- インフォテイメントシステムなどのソフトウェアの開発に苦労する(フォルクスワーゲン)
のような苦労を伴うことが明らかになっています。
ですので「電気自動車は構造が単純だから(バッテリーとモーターが中心なので)誰でも作れる」だの「トヨタも本気を出せばすぐに電気自動車が作れる」などと言うことはかなり無理があるということがわかってきます。
結局のところテスラやNIOを筆頭とする中国メーカーなどの「電気自動車専業メーカー」の方が先を突っ走っているという現状をなかなか変えられないのが現実です。
まぁ、「世界一を自称する自動車メーカー」が渾身の力を込めて発売する電気自動車がこれですからねぇ…。しかもこれですらバッテリーの調達が上手くいかないのか最初は法人用の販売に限定するという状況です。
2010年のソニー「俺が本気出せばiPhoneなんてすぐに追い抜く」
— Brownie (@browniejp) January 26, 2021
まぁ偶然ですがこのタイミングでソニーもプロトタイプに当たる「Vision-S」という電気自動車の商品化を断念するという発表をしていましたが(笑)。
やはりスマホの時同様に「いつでもできると余裕をぶっこいている間に挽回不能の差をつけられてしまうという流れ」はスマホの時と全く同じパターンであり、行く末が案じられます。
急ピッチで電気自動車化にシフトしているフォルクスワーゲンやメルセデスでさえ本日の記事と昨日の記事で明らかにしたように苦戦している、テスラなどの先行するメーカーに水を開けられているのが現実です。
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