「インスタ映え」する中国メーカーのEVマーケティング?【若い女性もターゲット】
こんばんは、@kojisaitojpです。中国のEV化状況を調べていると、ハイスペックなEVの情報にも注目が集まりますが、私はこういう記事が非常に気になりました。
日本と違って女性にEVを売り込んでいくってのが上手い。
【中国】女性人気高まるNEV、国内保有の4割超(NNA)#Yahooニュースhttps://t.co/pVzoFKisM3— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 26, 2021
NEV(新エネルギー車)というのが中国ではEVを指すのですが、購入者の4割が女性だという衝撃の事実が明らかになっています。
「車=ある程度年齢の行ったおじさんのもの」というイメージが日本ではありますが、中国では若い女性がEVを買う主要な層となっている意外な結果が出ています。
私もTwitterなどでテスラのオーナーなどと交流を持つようになってきましたが、テスラ車を保有している層・関心がある層のほとんどが30代40代50代の男性、つまりおじさんです。
そしてこういう記事にはいつものようにEVや中国のことをボロクソに書くヤフコメが現れてないというのも、日本で自動車についてあれこれ語る層が若い女性には全く関心がないということの表れなのかなと思ったりもします(笑)。
今日はそんな中国のEV事情について考えてみたいと思います。
目次
「Wuling HongGuang Mini EV(宏光ミニEV)」のインスタ映えする広告
まずは中国で最も売れているEVである「Wuling HongGuang Mini EV」の現在の状況を確認します。
【速報値】2021年3月の中国のプラグイン車シェアは11%(BEVは9.2%)、前年同期比で約2倍、2021年累計でも10%に。
引き続き五菱 宏光MINI EVが約4万台でTOP、テスラモデル3とモデルYが続きます。
EV Sales: China March 2021 https://t.co/uGOQeVFNkh pic.twitter.com/b26uhg6rC1
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) April 22, 2021
相変わらず中国市場で独走状態のみならず、中国一国の売り上げ台数でもテスラ・モデル3の世界規模の売り上げ台数に迫る勢い、ラトビアのメーカーとの協業でついにヨーロッパにも進出しようとしてる「Wuling HongGuang Mini EV」です。
ただし私の視点だとその驚異の価格や売り上げ台数とは別の「広告」を見ていて気になることがあります。
日本メーカーの車の広告でこのように若い女性が全面に出ていて、「インスタ映えする広告」という表現が適切なメーカーがあるでしょうか?
ポップなカラーを用いた、まるでファッションブランドの広告のようなおしゃれな広告です。車がなかったら韓国辺りの化粧品かファッションブランドの広告のような雰囲気です。
冒頭で挙げた記事にあるような購買の主要なターゲットを「若い女性」に設定している証拠です。
他にもこのように若いカップルが写っている広告を用いることもあるようで、「Wuling HongGuang Mini EV」が主要な顧客を若い世代に絞っていることは明白です。
宏光MiniEVの広告は若い女性をターゲットにしてるのが良くわかる。日本メーカーにはない視点。
China: Plug-In Car Sales Almost Hit New Record In March 2021 https://t.co/7PXTkPqtib @insideevs.comより— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 27, 2021
日本の自動車メーカーでこのような視点でマーケティングしているメーカーを見たことがありません。
年々国民の所得水準が上がっている中国だからでしょ?と言われるところですが、「若い女性にEV」という新しい市場を開拓しているところは注目です。
「Ora R1 BlackCat(黒猫)」からもインスタ映えする雰囲気
同じように中国のEVメーカーで「女性受けしそうだな」と広告を見ていて感じるのが、この「Ora R1 BlackCat」です。日本でも「黒猫」と言われればわかる方が徐々に増えています。
車については以前私のブログでも解説したことがありますので、車のスペックなどはそちらをご参照ください。
アフリカでも電気自動車(BEV)に市場を奪われる日本勢?【「ORA BLACKCAT」の脅威】
電気自動車化に向けて舵を切っているのは先進国だけではない、実は再生可能エネルギーの発電に適した自然があるアフリカも同様だということは前に話しましたが、ついにアフリカで「BlackCat」と呼ばれる中国の格安EVが販売され始めました。電気自動車で普及しないゆえに輸出する中古車もロクにない日本勢はいよいよピンチです。
デザイン的にも「可愛い」というのが第一印象でいかにも女子ウケしそうな車種ですが、広告もそれを意識している感じがします。
むしろこの広告でおじさんに買ってもらうという方が無理があるのはご納得いただけるかと思います(笑)。
実際に冒頭に引用した記事でも「Wuling HongGuang Mini EV」と並んで女性に人気のEVとして「Ora R1 BlackCat」が挙げられています。
片や「若者の車離れ」などとできない理由を探す日本
この状況をもとに「日本でも女性をターゲットにEVを売りましょう」と言っても「日本だと若者の車離れ」なんて言い訳されるのでしょうが、若者の購買意欲を喚起するのがマーケティングなのでは?と思ってしまいます。
既に購買意欲のある層に訴えかけることなら誰でもできます。
「車を買う層=年齢層高めの富裕層」と決めつけたような販売戦略では「じゃあその高齢者がいなくなった後は誰が車買うの?」と素朴な疑問も生まれます。
「若者が車に興味を持たない」というのなら興味を持ってもらうように考える、そうやって購買層を広げていくことが企業の利益にもつながるのになぜ最初から「若者の車離れ」などと決めつけるのでしょうか?
「所得が少ないから車が買えない」というのは確かに一理あります。
でもそれであれば「カーシェア」や先日ボルボの話でも述べたような「サブスク形式」で車を提供して若者が車に触れる機会を作るとか手段はいくらでもあるはずです。
特に日本の場合現行の日本メーカーがやっている「サブスク」は名ばかりのもので、月単位の契約ではなく契約期間が2年とか3年だったりして会社が「リース」で借りるのと変わらないようなシステムだったりするので個人は非常に使いにくいです。
この辺を現在ボルボが提唱しているような3ヶ月単位にするとかいくらでも工夫することができるのにやろうともしない、相変わらず高齢者・富裕層ばかりをターゲットに車を売ろうとするのが日本メーカーの残念なところです。
例えばこの「ホンダe」などは若い女性にもウケるような可愛いデザインですし、先ほどの「Wuling HongGuang Mini EV」ほどではありませんが、サイズも小さくて女性でも取り回しが楽な数少ないEVです。
新車価格が450万〜500万と高価になってしまったので現在の若い女性の所得で購入してもらうのは難しいかもしれませんが、「カーシェア」や「サブスク」なら試してもらえる可能性は全然あると思います。
「ホンダe」以外だと「プジョーe-208」なども浮かびますが、プジョーは以前と比べるとドイツ車っぽくなって「可愛い」と思ってもらえる要素が減っているような気もします。
「いやどうせそんなことやっても‥」とは言われるかもしれませんが、今まで車に縁がない層の需要を喚起するマーケティングは悪いことではありません。
私なら例えば「ホンダe」を若者に人気のインフルエンサーにコラボをお願いしてインスタで宣伝してもらうとか思い付きますけどね。
ここまでの有名人を使うのは費用的に厳しいでしょうけど(笑)。
なんていうと「ファッションや化粧品と一緒にするな!車はそういう商品とは違う!」と年寄りや車業界の人間は怒るんでしょうけど。
「じゃあお前やってみろよ」と言われることはわかっています。
実際にそういうアイディアをコンサルや投資家、金融機関に提案したことはあります。
ところが資金を提供する側である層は年齢層が上です。すると年齢層が上の価値観を押し付けられ「若い奴なんか相手にビジネスやっても儲からない」とか「車ビジネスやるなら富裕層相手にやれ」などと言われてしまったことが何度もあります。
銀行などの金融機関だと「車業界の経験もない人に融資できない」などとハナから相手にしないような態度できます。
他のビジネス以上に車のビジネスをやるためには資金が必要(用地の確保、車の仕入れなど)ですので支援を仰ぐことになるのですがそうすると旧来の古い価値観を持っている層と衝突してしまいなかなか前に進みません。
「車=男性のもの」という固定観念から漂う加齢臭ジャパン
このように「若い女性もターゲット」という現在の中国の勢いを反映するようなEV事情について見てきましたが、実は日本では当たり前だと思われがちなこのようなサービスも減少しています。
「お色気コンパニオン」が消えた広州モーターショーで、新しく見えたもの=中国メディア (2016年11月26日) – エキサイトニュース
ちょっと前までは、中国で開かれるモーターショーと言えば露出度の非常に高いセクシーなコンパニオンが欠かせない存在だった。しかし、昨年ごろより流れが変わり、彼女たちは自動車の展示ブースから締め出されていっ…
モーターショーといえば若くてスタイルの良い女性がたくさんコンパニオンとしてスタンバイしていて…というイメージを今でも持っているおじさん世代は多いかと思いますが、中国では女性をそういう対象として扱うこと自体をやめているという話です。
人権問題などで叩かれることが多い中国で、実際に看過できない問題も起こす国ではありますが、以前から「女性の社会進出」のような側面では男女差別がないのが社会主義国の特徴でもあります。同じような体制の北朝鮮などでもよく言われることです。
女性を性の対象としてしか見ない、今も「選択的夫婦別姓」の議論すら進まないのが日本のお寒いところなのは以前もお話ししましたのでご興味があればご参照ください。
「女性差別」と口にするのは時代遅れ?【アメリカとは違う】
「フェミニズム」とか「女性差別」という言葉を口にするだけで「時代遅れだ」的に野次られることもありますが、日本の場合先日の「選択的夫婦別姓」に見られるように女性であるというだけで差別される、損をする構図はまだまだ至る所にあります。先進国で最低レベルの女性の社会進出などの例をあげて前回に続いて語ります。
「選択的夫婦別姓」の何がマズいの?【実は歴史が浅い】
たまたまニュースを見ていて「選択的夫婦別姓」の議論が目についたのでちょっと語ってみます。実は夫婦が同姓でなければならないと法律で規定されているのは世界でも日本位しかないこと、夫婦が同姓であることを「日本の伝統」のように語る人がいますが、実は伝統でも何でもないこと、同姓を強制されることのデメリットも解説します。
ホモソーシャルな日本企業はオワコン?【ミソジニーかつホモフォビアという謎社会】
女性差別について数日論じてきましたが、今日で一区切り付けようと思います。最後に取り扱うのが「ホモソーシャルな日本企業=オワコン」という話です。専門用語については本文で解説しますが、どうも女性が社会進出すること、男性同士の密接な人間関係の中に入ってきて仕事をするということに抵抗感のある男性は思いの外多いようです。
別に「脱炭素」にシフトしているかどうかという問題だけではなく、このような女性に対する差別が残っているというのも「SDGs」という観点からは企業の価値を損ねるマイナスな要素として見られているのですが、この辺りで理解できている人が少ないのが日本の残念な現実です。
「ESG投資」「SDGs」で世界から見放される日本?【EVがハイブリッド?・再エネが原発?】
今日は「ESG投資」とその指標でもある「SDGs」について説明します。環境や人権などに配慮した適切な企業運営ができているか世界から厳しい目に晒されるので「ハイブリッドもEVだ」とか「二酸化炭素出ないから原発推進」のような頓珍漢なことを言っていると世界の投資マネーが逃げていき、日本が世界から見放されることにつながります。
「育児休暇を取った女性(または男性)が復帰後に不利な扱いをされないこと」なども重要な要素なのですが、「俺の若い頃は女は結婚して寿退社するのが当たり前だった」的な価値観を変えられないまま今も企業のトップに君臨するような連中(こういうのを私は「加齢臭」と揶揄してますが)がまだまだ多いのも日本の痛いところです。
「ガソリン臭いのこそが美しい」とか「車は男のシンボル」などと車があたかも女性に縁のないもののような古臭い考えの日本企業がまだまだ残っている一方で、中国に限った話ではなくアメリカのGM(ゼネラルモータース)などは一度経営破綻した後に就任したCEOは女性です。
女性のCEOの元で「2035年に全車EV化する」という旧来のGMのイメージでは考えられないような改革をしようとしているというのは偶然ではないかもしれません。
「中国でEVを買う主要な層が若い女性」「日本でテスラを好む主要な層がおっさん」というのは実は未来を暗示する根深い問題が潜んでいるのでは?と思うのは私だけでしょうか?
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