「BYD」など中国のバッテリーメーカーが電気自動車で仕掛ける戦略とは?【敵は強大です】
こんばんは、@kojisaitojpです。今年最後の更新になります。
いずれこの中国の会社については触れようと思っていたのですが、思ってもいないような方向から日本のメディアに登場しました。
中国電気バス大手「BYD」が日ハムと組んだわけ | 経営
世界的な電池メーカー、中国・比亜迪(BYD)の電気(EV)バスが日本でじわりと浸透している。12月22日には、BYDの日本法人「ビーワイディージャパン」と、北海道北広島市で北海道日本ハムファイターズのボールパー…
先に言っておきますが、私は北海道出身、札幌市出身なのですが残念ながらファイターズには何の興味もありません。そこはサッカーとは違います。
というのは本題ではありませんが、まさか「BYD」がここに現れるとは…というのが最初の感想です。
先日の大雪で「電気自動車は寒さに弱い」などというフェイクニュースが流され、それにアンチ電気自動車の方々が飛びついて…という困った状況ですが、北海道という雪国で電気自動車、しかもバッテリー的に厳しいと言われるバスという大型車両でどんなパフォーマンスを発揮してくれるかがわかることでしょう。
「BYDって何?」と思った方もいるかもしれませんが、それでは既に世界の流れに乗り遅れています(笑)。
本年最後の記事は、そんな中国の「BYD(ビーワイディー)」を切り口に中国という国の「電気自動車」に対する狡猾な戦略について取り上げてみます。
目次
バッテリーメーカーとしても世界トップクラスの「BYD(比亜迪股份有限公司)」
「BYD(比亜迪股份有限公司)」は、広東省深圳市に拠点を置く中華人民共和国のバッテリーメーカー・自動車メーカーです。
近年中国には何十社と言われる電気自動車メーカーが誕生していますが、その中でも普通車のみならずバスやトラックにも強いのが「BYD」の特徴です。
2008年に、世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの会長兼CEOのウォーレン・バフェット氏が出資したことでも有名で、自動車やバッテリーに興味がなくても株などの投資をやっている人であれば既に誰でも知っている会社です。
会社自体が当初からバッテリーの生産から始まった企業なのもあり、「BYD」が販売する電気自動車が他社と比べてとてつもなく安いのが特徴です。
例えば2020年に発売した「漢(Han)」という電気自動車がありますが、スペックが「搭載バッテリー容量65〜77kWh、航続距離506〜605キロ、最大充電出力100kW」です。
航続距離は中国の指標がアテにならないので、一般に最も信用される数字であるEPAに置き換えると「380〜450キロ」くらいになります。
スペックだけ見ているとテスラの「モデル3」辺りに若干及ばないくらいの水準ですが、中国での販売価格が229800〜279800元(350〜430万円くらい)とテスラ・モデル3と比較すると激安です。
激安な上にディスプレイやスマホから操作ができるOSシステムなどテスラ・モデル3をパクったような装備です。
「ような」というか明らかにパクりと断言できますね(笑)。
これをヨーロッパ市場やもし導入されることがあれば日本市場に投入した場合の価格は分かりませんが、いずれにせよテスラ・モデル3よりかなり安く買えることは間違いありません。
世界で一定のシェアを取れるようになる未来が見えてきます。
自社でバッテリーを供給できるというのが安さの秘密です。
「安いからどうせ壊れる」「中国製のバッテリーなんて爆発するから危なくて使えない」と世界の流れがわからない日本人なら言いそうですが、日本のトヨタなども「BYD」のバッテリーを使っていますので同じです。
そしてこの「車載用リチウムイオンバッテリー」を自社で供給できるというのが「BYD」の最大の強みで、これが世界の電気自動車にとてつもなく大きな影響を与えます。
「車載用リチウムイオンバッテリー」の世界シェアを確認しておきましょう
2017年のものですが、これが現在の「車載用リチウムイオンバッテリー」の世界シェアです。
既に世界のトップ5に中国企業が2社入っています。他にもサムソンやLGと韓国企業が入っていて「パナソニック以外の日本メーカはどこ行った?」という話です。
CATL(寧徳時代新能源科技)の元親会社である「ATL(アンプレックステクノロジー)」に出資していたのはあの「TDK」です。日本のメーカーが中国企業を育成してしまったという悲しい事実がありますが、今やCATLは世界で100社以上の自動車メーカーにバッテリーを供給しており、自動車業界にものすごい影響を与える存在です。
例を挙げるとトヨタ、ホンダ、日産、PSA(プジョーシトロエン)、ヒュンダイ、BMW、フォルクスワーゲン、ダイムラー(要はベンツ)などが主要な顧客です。
先ほどの「BYD」は創業当時「パナソニック」のEMS(委託生産)で2年目には1億7000万個の電池を販売しましたので、ここも実質日本企業が育成したような面があります。
つまり中国のバッテリーメーカーを育成したのが日本のメーカーだったということです。
しかも当然ですが日本のメーカーより「安い」。
↓
世界の市場で価格勝負をするためには安くバッテリーを調達する必要があるから中国メーカーから調達する。
↓
調達するからますます中国企業が巨大化していく。
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巨大化すればするほど「別におたくと取引しなくても他に取引する会社いくらでもあるからウチはやっていけるよ」と自動車メーカーよりバッテリーメーカーが優位な立場になる。
このようなプロセスで中国のバッテリーメーカーがこの10数年で急激に力をつけてきました。恐るべき中国企業の戦略です。
これじゃまずいと気づいたのか近年トヨタとパナソニックが協業するようになりましたが、もう遅いという状況です。
そしてこの「バッテリー」の世界シェアを中国メーカーが握ったことが「電気自動車」の世界で大きな意味を持ちます。
「バッテリー」で世界の覇権を握る「BYD」を始めとした中国の戦略
電気自動車について調べれば調べるほど中国という国の狡猾な戦略が分かってきます。わからない人ほど「所詮中国だろ?日本の技術に勝てるわけないよ」と思ってしまいがちなのですが、「技術という土俵で勝てないなら他の土俵で勝てばいい」というのがこの国の戦略です。
その戦略のキモとなるのが「バッテリー」です。
車体価格に占めるリチウムイオンバッテリーの割合が高い車だと50%くらいになります。
このブログでも色々な電気自動車を紹介していますが、現行のモデルで最も航続距離が長いテスラ車の価格が高いのはバッテリー価格の影響です。
先日紹介したハマーの電気自動車が10万ドル、つまり1000万円以上という以前のハマーよりかなり高くなっているのもその巨大バッテリーが理由です。
昨日紹介したようなヨーロッパのコンパクトカーの航続距離が短いのは、車体が小さいがゆえに搭載できるバッテリーのサイズが小さくなってしまうからです。
となると「バッテリーを支配できれば自動車の覇権を取れる」というのが電気自動車の時代の真実です。
そしてこのバッテリーの世界シェアを握っているのが「CATL」や本日取り上げた「BYD」などの中国メーカーです。
世界シェアで見るとまだパナソニックがどうにか健闘していますが、既に中国メーカーにかなり食われています。
この時点で「電気自動車」において日本メーカーの敗北がほぼ確定となります。
従来のガソリン車・ディーゼル車(化石燃料車)であれば最も高い部品が「エンジン(内燃機関)」でした。日本の自動車メーカーが世界でトップレベルでいられたのもこの「エンジン」を開発する能力が高かったからです。
日本の車メーカーは梯子を外された? その通りです。
自動車の覇権が日本から中国に移ってしまったことは認めざるを得ない不都合な真実です。
中国メーカーの恐ろしい世界戦略ですが乗らないのも地獄
中国の人って「これ稼げそう」となるとあっという間にキャッチアップしてくる。
10年前「中国が電気自動車作ると息巻いているけど、車は人の命を預かる乗り物だからそう簡単じゃない」と日本の車関係の会社の人が言っていた。でもそれから数年後の深圳ではもうバンバン電気自動車走ってたよね。— Nakano Shiho(Nekorin)@ギーク中国語 (@25rin) December 31, 2020
「中国」という単語を聞いただけでどうしても先入観を持ってしまいがちで、その気持ちもわからないことはありませんが、中国が仕組んできたスキームとは別の路線を行ったところでそれが地獄への道に繋がるのもまた事実です。
「電気自動車」についての記事を1ヶ月ほど書き続けてきましたが、結局のところ日本国内で「電気自動車ガー」と文句を言ったところで世界の流れには何の影響も与えないわけです。
昨日も言いましたが「電気自動車」というトレンドは人口14億の中国、3億のアメリカ、7億のヨーロッパが既に乗っている世界の流れです。多勢に無勢です。
「中国に覇権なんか握られたくねぇ」と言いたくなる気持ちはわかりますが、竹槍で戦車に突撃するように「内燃機関(エンジン)」に固執すると日本の自動車メーカーが全滅します。
と言ってしまうととても悲観的な雰囲気になりますが、私も食わず嫌いを返上しようとこの12月に日産リーフとテスラ・モデルSをカーシェアで試乗してみましたが、「内燃機関(エンジン)」の自動車よりもあらゆる面で上を行くことが身に染みてわかりました。
「充電」だけは問題としてつきまといますが、それも航続距離が500キロを超えるテスラ・モデルSやモデル3などによって乗り越えられてきています。
「エンジン」がないことによってオイル交換不要・故障が非常に少ないというのは、私のようにこれまで複数の外車を乗り継いできて故障に泣かされ続けた人間にはそれだけでも飛びつきたくなるところです。
私の場合シトロエンやルノー、ジャガーなど謎のトラブルばかり発生する車ばかり乗ってきました。いずれ機会があればこれらの車のお笑いのようなトラブルを紹介してもいいですが、本当にお笑いのような故障を何度も体験しました。
ゴルフのトラブルの原因は20万キロ近く乗ったことで、エンジン内にカーボンが蓄積されちょっと掃除したくらいでは落ちないというのが原因ですので、本当に人間の持病のような状態です。外車に乗ったことのある方なら実感できるでしょうが、日替わりで「今日は調子いい」「今日は調子悪い」と高齢者の体調のように変化します。
電気自動車に買い換えればこのトラブルから解放されると思うだけでも購買意欲が出てきます。
私のように自動車業界と何の繋がりもない人間からすると「これだけ使いやすい自動車が発売されたのに、何でどっかの自動車メーカーはガソリンエンジンにこだわるの?」と言いたくなります。
2021年は先日も紹介したように更に多くの車種の電気自動車が市場に投入されます。
私もおそらく何らかの電気自動車を購入することになるでしょう。それがテスラ・モデルSなのか日産リーフなのか、それともその他の車種になるのかは予算次第ですが、買ったら記事書きまくるのですぐに分かります(笑)。
というわけで本年はこの辺で終わってまた年明けから更新します。
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