テスラが諦めた「EVのバッテリー交換方式」が復活?【NIOだけじゃない】
こんばんは、@kojisaitojpです。昨日まとめ記事を作成すると宣言しましたが、毎日それが続くと元から読んでいただいている方々には退屈でしょうから、新しいネタも混ぜながら進めます。
今日気になったニュースは、アメリカで過去に一度挫折した試みに再度チャレンジするスタートアップ企業が現れたことです。
アメリカでバッテリー交換ステーションをやるスタートアップ?
Ample teams with Sally in NYC to deploy battery swaps in ride shares, taxis, and more https://t.co/HGyRFHFRKq @electrekcoより— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 14, 2021
この「バッテリー交換方式」というのは以前あるスタートアップ企業がやろうとして失敗しています。またテスラも一度「バッテリー交換方式」にも対応できるような構造にモデルSを製造したことがありますが、現在は断念したのか全く違う構造になっています。
航続距離への不安を解消するアイディアではあるのですが、現在バッテリー交換方式をメーカー自ら実行しているのは中国の新興EVメーカーNIOだけです。
という状況で果たして今回出てきた「バッテリー交換方式」は成功するのか?について考えてみたいと思います。
目次
ライドシェア・タクシー限定でEVのバッテリー交換を行う「Ample」の試みとは?
今回出てきた「Ample」社のプロジェクトは、元々ライドシェアやタクシー、ラストワンマイル用の配送用バンなどを提供する「Sally」社との共同のプロジェクトになります。
つまりライドシェアやタクシー用の車両(もちろんEV)のバッテリーを交換するステーションになります。ステーション内には「Welcoming space」という休憩スペース(シャワールームも完備)があり、職業ドライバーの人々がくつろげるスペースも用意されるようです。
カリフォルニア発祥のスタートアップですが、既に7000万ドルの資金調達をベンチャーキャピタルから行っており、手始めにニューヨーク市内に5-10箇所のバッテリー交換ステーションを設置する計画です。
記事の中に言及はありませんが、バッテリー交換ステーションを太陽光発電などの再生可能エネルギーで行い、バッテリーの充電も自ら発電した電力で行うなどできれば「脱炭素の申し子」のような会社として発展する可能性はあると思います。
ただしこのようなバッテリー交換方式をマトモに機能させるためには、一旦交換方式を諦めたと言われる「テスラ」の動向次第の側面もあります。
テスラはなぜ「バッテリー交換方式」を諦めたのか?
実はテスラも以前この「バッテリー交換方式」をやろうとしていた時期がありました。
テスラが“電池交換式”を断念、モデル3に痕跡
米テスラ(Tesla)は、電気自動車(EV)の電池パックを交換式にする構想を断念した。同社のEV「モデル3」と「モデルS」を分解・比較して明らかになった。電池交換のアイデアを捨て、他の自動車メーカーと似た方法で航続距離を確保する方針に転換した。
上記の日経クロステックでも指摘されていますが、2012年に発売を開始した「モデルS」は外部からバッテリーの取り外しが可能な仕組みになっており「バッテリー交換によって航続距離を伸ばす」ことを視野に入れていた痕跡があります。
ところがその後発売された「モデル3」以降は外部からのバッテリーの取り外しが不可能、バッテリーを交換するには内装を解体する必要がある仕様に変更されています。
実際にテスラは「セルtoシャシー」と呼ばれるバッテリーをシャシーに直接埋め込むことでバッテリーの容量を増やして航続距離を増やす方にシフトしてますので、「Ample」が提唱するような5-10分でのバッテリー交換は不可能かと思えます。
この事実から「イーロンマスクはバッテリー交換は諦めたのではないか?」と言われています。
実際にテスラはバッテリー交換よりもバッテリー自体の航続距離を伸ばすことに注力しており、現行のモデル3だとロングレンジなら500キロ以上、先日アメリカ国内で納車が開始された新型のモデルSでは600キロ〜800キロの航続距離が可能になっています。
「バッテリーが強化されれば交換しなくても問題ないでしょ?」がイーロンマスクが出した答えのようです。
同時に全世界にスーパーチャージャーを整備して独自の急速充電網を整備する方向でテスラは発展していきました。
これには2012年にテスラがモデルSの販売を開始した頃に破産したイスラエルの新興ベンチャー「ベタープレイス」の影響があったと言われています。
バッテリー交換式EVのスタートアップ「ベタープレイス」が破産
2007年に創業したベタープレイスは、これまでに8億5,000万ドルもの資金を調達していたが、ここ数カ月は先行き不透明な状態が続いていた。
記事にもあるように「ルノー・日産」はバッテリー交換に対応できる仕様で「日産・リーフ」や「ルノー・ZOE」にはその痕跡が見られます。
当時のリーフやゾエの航続距離(100-150キロくらい)を考えると妥当な判断だったとも言えますが。
とはいえ充電ステーションには高電圧・高電流により何セットものバッテリーパックに充電を繰り返し行うという課題があり、工場ほどの電力消費になります。
当然ですがそれを賄うには莫大な電気代が掛かるのではないか、またそれだけ頻度の高い急速充電を繰り返すと、充電器の耐久性にも影響が出るのでは?などの課題をクリアできずに失敗に終わっています。
当時とは状況が違うので現在であれば再生可能エネルギーなどを自家発電で補うなど手法はあると思いますが、アメリカでの「Ample」社の試みがどうなるか注目です。
NIOは中国&ノルウェーで「バッテリー交換方式」を実行中
冒頭にも述べましたが「バッテリー交換方式」を自ら進めているメーカーは中国のNIOだけです。
「中国」という単語を聞くだけで「どうせ実際にやってないんだろ?」的に疑いの目で見る人もいるでしょうが、NIOは中国国内で既に200万台のバッテリー交換の実績があり、ニューヨーク証券取引所に上場している企業ですから嘘の発表をして自らの会社が潰れる方向に動くことはないでしょう。
現在中国にはほぼ入国できない状態ですので実際に確かめに行くことは厳しい状況ですが、新型コロナウイルスが終息し、中国にも自由に泥入りできるようになったら私も視察に行く計画はあります。
これが実際にバッテリー交換を行っている動画です。
NIOは先日「ET7」についての記事で私も説明しましたが、バッテリーを購入する方式とサブスク形式で月額を払って必要に応じてバッテリー交換をする方式の両方に対応しています。・
NIO「ET7」がもたらす衝撃と破壊力とは?【電気自動車でテスラ超え?】
中国の新興EVメーカー「NIO」がET7という驚異のスペックの電気自動車の発売を発表しました。バッテリー容量の大きなものだと1000キロを超える航続距離、充電が不要になる「バッテリースワップ」というわずか5分でバッテリー交換をするシステムなど、日本のメーカーどころかテスラすら凌駕する電気自動車を紹介します。
当然サブスクでバッテリーを借りる方式の方が車体価格が安くなるのですが、「バッテリー交換ステーション」はどちらのパターンでも利用可能です。
他にもNIOはバッテリー切れ、つまり電欠状態になった時にも自社のロードサービスが急行し電源を供給してくれるサービスも展開しており、サービスの手厚さに定評があります。
「立ち往生した時にガソリンは供給してもらえるけど、EVの充電は無理だろ」と日本国内しか知らずにドヤ顔をするアンチEVの言動は既に世界で覆され始めています(笑)。
「所詮中国国内だけでしょ?」という意地悪な指摘も先日の記事にも書いたようにノルウェー市場に進出し、今後ヨーロッパ全域への進出も狙っている状況です。
ノルウェーにNIOが上陸することが衝撃な理由とは?【2021年4月のEV販売台数も掲載】
中国の新興EVメーカーNIOがついにノルウェー市場、つまりヨーロッパに上陸します。バッテリー交換ステーションも設置しながらの本気の進出です。中国メーカーが徐々にヨーロッパ市場に上陸し、世界進出を伺う位電気自動車が本格的に普及しているのが世界の流れです。2021年4月最新のヨーロッパの新車売り上げ状況も掲載します。
バッテリー交換ステーションについても、NIO独自のプレミアムサービスである「NIO House」についても9月からまずはノルウェーの首都オスロ市内から展開していく意向です。
世界進出を見越してか、先日も解説したように中国国内に「Neo Park」というテスラのギガファクトリーをはるかに上回る規模の巨大な工場建設も開始しており、今後生産台数を一気に伸ばす意向です。
NIOが発表した「NeoPark」という巨大プロジェクトとは?【時価総額GM超え】
中国のNIOがテスラのフリーモント工場の12倍の敷地、2倍以上のバッテリー生産能力、年間100万台のEVの生産が可能になる「NeoPark」の建設に着工しました。スケールの違う投資で、成長している国らしいダイナミックさです。NIOやテスラには「どんな未来が生まれるのか?」というワクワク感を提供してくれます。
それもあって投資家の中には「NIOの方がテスラより将来性がある」と評価している人もいるくらい注目されています。
「バッテリー交換方式」とNIO以外に浸透させられるかが課題
今日はアメリカのバッテリー交換方式を唱えたスタートアップ「Ample」の話から、実際にバッテリー交換ステーションを稼働させているNIOの話も交えながら分析して見ました。
ただしこのNIO方式は現在のところNIOだけが対応するもので、先ほども例に出したようにテスラなどはバッテリーを直接シャシーに埋め込む生産方法に切り替わっていますので、今後バッテリー交換が対応できるようになる可能性が低いのが現実です。
もちろんイーロン・マスクですからある日突然ひらめいたらあっさり前言撤回もありえますけど(笑)。
日本向けに言えば先ほど引用した記事にもあるように「ルノー・日産」は以前もバッテリー交換に対応していた時期がありますので可能性があるかもしれませんが。
冒頭の「Ample」が当初はライドシェア(UberやLyftなど)の車両とタクシーの車両に限定してサービスを始めるのもこの辺の事情が絡んでそうです。
日本では「充電インフラ」を巡って周回遅れの議論が続いていますが、この「バッテリー交換方式」というのもいずれ検討課題に上がってくる可能性は大いにあります。
個人的には「富裕層対象の高級車路線のNIOは日本市場に関心持たないだろうな」と読んでいますけど。
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