中国産EVの「Ora Cat(猫)」が世界のEV市場に殴り込み?【長城汽車の格安EV】
こんにちは、@kojisaitojpです。現在ドイツ・ミュンヘンでモーターショーが開催中なのもあり連日フォルクスワーゲン、ルノーの新しいEVについて解説してきましたが、EVとなると当然この国も世界に進出してきます。
2025年までに10車種以上って本気のヨーロッパ進出じゃねぇか。
長城汽車、小型EVを欧州に投入 25年に10車種以上へ: 日本経済新聞 https://t.co/5mOpqZzE2w— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 10, 2021
中国の長城汽車(GreatWall)が「Ora Cat」のヨーロッパ市場への投入を発表してきました。
中国メーカーは既にノルウェー市場にNIOやXpeng、BYDなどの新興EVメーカーが進出していますが、ドイツを始めとするヨーロッパの主要国への投入を表明したのはこの「Ora Cat」が初めてです。
そこで今回は長城汽車(GreatWall)の「Ora Cat」について取り上げながら「小型車・格安」の中国製EVが将来日本市場で脅威となる存在になり得ることについて解説します。
目次
日本メーカーが全社不参加のミュンヘンでGreatWall「Ora Cat」が発表
長城汽車(正式名称・長城汽車股份有限公司)は英語メディアでは「GreatWallMotors」と表記されますが、中国では数少ないEV以外の内燃機関車の製造も手がける歴史のあるメーカーの一つで、近年は「Ora」というブランド名で格安のEVを製造・販売していることで有名です。
最も知名度のあるEVとして今年初頭に中国で発売が開始された「Ora BlackCat」、通称「黒猫」と呼ばれる格安EVがあります。
「BlackCat」は最も安い車種で、スペック的には「搭載バッテリー容量37kWh、航続距離(EPA)約240キロ、最大充電出力30kWh」で価格が約130万と、私も実際に名古屋まで見学に行った「宏光MiniEV」の最低価格45万円には及ばないものの、中国国内でもこれに次ぐ格安のEVで、既にアフリカ諸国に輸出もされていることは以前も解説しました。
今回ミュンヘン・モーターショーでヨーロッパでの発売が発表されたものは中国では「Ora GoodCat」と呼ばれるもので、ヨーロッパ市場には「Cat」の名称で上陸するようですが、「BlackCat(黒猫)」より価格帯が上のEVになります。
発表によると2021年中に予約を受け付け始め、2022年初頭にドイツ市場を皮切りにヨーロッパ全域での販売を目指す意向です。
ヨーロッパに投入されるモデルの具体的なEVのスペックはまだ公表されていませんが、中国で販売されている「GoodCat」は、搭載バッテリー容量が「47.8kWh・59.1kWh」で航続距離がそれぞれ「401キロ・501キロ」です。
この航続距離はNEDCという中国のアテにならない基準ですが、欧州WLTCや「時速100キロで高速道路を走行し、クーラーをつけても達成可能な基準」と言われるEPAで考えると300〜400キロくらいが妥当ではないかと思われます。
サイズは「4235×1825×1596(mm)」と日本の軽自動車より少し大きめのサイズですが、「小型車」でありながら300-400キロ走れるというのはこの数日で紹介しているフォルクスワーゲン「ID.Life」より少し大きめ、ルノー「メガーヌ・e-Tech・エレクトリック」より少し小さめの手頃なサイズです。
フォルクスワーゲン「ID.Life」やルノー「メガーヌ・e-Tech・エレクトリック」も同様ですが、比較的コンパクトなサイズのEVでも300キロ以上の航続距離が出せるようになっている点は注目です。
デザイン面では「ニュービートルのパクリ」などとネット上では揶揄されていますが、5ドア・ハッチバックで、丸みを帯びたエクステリアは最も格安の「BlackCat」と同様で、可愛らしいデザインは女性ユーザーを意識したものにも見えます。
充電口はフロントドアの近くにあり、インテリアはメーターがデジタル、ステアリング・ホイールにはオーディオ用スイッチ、センターコンソールは、スウィッチ式のパーキングブレーキなどの採用によってすっきりとしているのが特徴です。
必要最低限の装備にとどめて価格を安く抑えるという、中国メーカーのコスト重視のEVに共通のパターンになっています。
価格についての正式発表はありませんが、中国では約16000ドル〜20000ドル(約180〜220万)で販売されています。
フォルクスワーゲン「ID.3」や日産「リーフ」と同等のスペックのEVがこの価格なのは驚異的ですが、ヨーロッパでの発売価格のアナウンスはまだありません。
噂のレベル補助金適用前で30000ユーロ(約390万円)、補助金適用後の実質負担額で300万円を切る水準で提供することを目指しているとのことです。
本当にこの価格で発売するなら中国メーカーのEVにしては低価格とは言い難いところですが、ヨーロッパの安全基準を満たす仕様への変更が必須になるゆえのコスト増が原因かもしれません。
価格帯で考えると現在発売されているEVだとフォルクスワーゲン「ID.3」や日産「リーフ」、あるいは2022-2023年にテスラが発売を予定しているコンパクトサイズのEV「モデル2(通称)」辺りとの競合となりそうです。
決して格安・激安のEVではありませんが、「宏光MiniEV」などと同様「女性や若者」をターゲットに成功してきた販売戦略がヨーロッパでどのくらい通用するのかは注目です。
更に格安の長城汽車「Ora R1 BlackCat」なら日本上陸もあり得る?
以上が現時点で発表された「Ora Cat」の内容ですが、EUの安全基準に適応するように手が加わっているのもありフォルクスワーゲン「ID.3」や日産「リーフ」と同じくらいの価格帯になっています。
「格安さ」を武器に日本市場に攻勢をかける場合は先程の「Ora Cat」よりも更に低価格のEVである「Ore R1 BlackCat(黒猫)」の方が可能性があるかもしれません。
「3495×1660×1560mm」と日本の軽自動車サイズと比較すると全長・全幅が若干オーバー(日本市場に投入する際には軽自動車サイズに収めてくる可能性も)ですがかなりのコンパクトサイズで軽自動車を好む層にはぴったりのサイズです。
「搭載バッテリー容量37kWh、航続距離(EPA)約240キロ、最大充電出力30kWh」で価格が約130万円となるとあのEVの強力なライバルになる可能性があります。
日本で販売するためには日本の完全基準に合った仕様に改造する必要はありますが、日本仕様に変更して200万以下で発売できれば日産・三菱が共同開発の軽自動車規格EV(日産「Sakura」、三菱「ek-MiEV」という説もあり)の強力なライバルになる存在かもしれません。
安さだけなら「宏光MiniEV」の方が上ですが、あちらは2ドアで航続距離も100キロ少々と日本市場ではスペック的に物足りない印象を与える可能性があります。
ですが「Ora R1 Blackcat」であれば子供の乗り降りなども簡単な4ドアで、しかも可愛らしいデザインは若い女性などを中心に人気になるポテンシャルを感じます。
中国産格安EVが世界進出する中でEV化を拒絶する日本
このように中国メーカーが中国の国内外で格安でかつそれなりにハイスペックのEVを発表し世界に進出しようとしている中で日本では残念な動きしかありません。
一回自動車業界全部吹っ飛ばした方がいいのかも。
豊田自工会会長「全部EVは間違い」 エンジン車規制強化、雇用減招く(時事通信)#Yahooニュースhttps://t.co/sNlqXHMKTQ— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 9, 2021
気がついたら「アンチEVの権化」のような存在になっているこの方ですが、よりによって9/9の「世界EVデー」にEV化を否定するような発言をしてきました。
などというと必ず「トヨタはEVもきちんとやるんだ!」「EVも水素もハイブリッドもやる全方位戦略なのをわかってない」などと猛烈な批判が飛んでくるのですが、そんなことはもちろんわかっています。以前も紹介しましたが「bZ4X」なるEVを2022年に発売予定なことも知っていますし、先日出した今後の電動化戦略のことも調査済みです。
Toyota Outlines Its Strategy On Batteries And Electrification
Toyota’s Chief Technology Officer Masahiko Maeda has revealed the company’s battery development and supply strategy “toward carbon neutrality.”
詳細は書くと長くなるので別の機会に独立した記事で述べようと思いますが、予想しているEV化率が低い(しかもFCEVとBEVの区別がない)上にバッテリーへの投資金額も1.5兆円とフォルクスワーゲンやメルセデス、NIOを始めとする中国メーカーと比べると何分の1というレベルで「この程度のバッテリー生産量で世界のEV化に対応できるの?」と疑問符だらけです。
「世界がEVEVうるさいから仕方なく出す」的な雰囲気が漂っています。実際にこの電動化計画を発表した直後に上記の豊田社長の発言ですからEVを発売するのも本気ではなく「やってる感」の演出にすぎないという疑念は晴れません。
しかもこの発言を9/9の「世界EVデー」にわざわざぶつけてくるのですから、EV化を推進するヨーロッパ、アメリカ、中国の全てに喧嘩を売ってきたと捉えられても文句は言えない発言です。
「EVなんてハイブリッド技術で勝てないヨーロッパがトヨタ潰しのために仕掛けただけ」などと言ってくる方々が必ずいるのですが、別にヨーロッパに限った話ではなく中国やアメリカでも同じような動きが進んでいます。
そしてこれまでは日本車の独壇場だったタイやインドネシアなどの新興国でもEV化の動きが進んでいることはこれまでの記事で散々述べてきましたので、よろしければ以下の記事をご参照ください。
「世界がEV化」の「世界」にはヨーロッパ・中国・アメリカ全部含まれる?【ノルウェーだけじゃない】
EV化というとノルウェーなどのヨーロッパがまず連想されますが、気がつけば中国もアメリカもEVが有利な制度に変更されたり、政府がEV化へシフトするための大型のインフラ投資をするなどのバックアップ体制も整ってきました。今回はEV化最先端のヨーロッパの状況に加えて、最近のアメリカや中国のEVへの動向も合わせて紹介します。
「タイが2035年から全車EV化」が与える衝撃とは?【新興国・発展途上国こそEV化したがる?】
タイが「2035年から新車販売はEVのみ(ハイブリッド・PHEVも不可)」という全面的に電気自動車化する計画を新興国・発展途上国で初めて出してきました。「できるわけないだろ?」と先進国目線では思いがちですが、燃料代が国家財政を圧迫する国が多い新興国・発展途上国では再エネとEVの普及を先進国以上に待ち望んでいます。
EV化の波は新興国にとどまらず高額な燃料代が国家財政を圧迫しているアフリカなどの発展途上国でも見られることについてはこちらをご参照ください。
「再エネ」「マイクログリッド」「EV」で格差を埋めるアフリカ【日本の方が後進国?】
先日紹介した南アフリカ共和国ほど裕福ではないアフリカ諸国にもXpengやBYDを始めとする中国のEVメーカーがどんどん進出しています。再生可能エネルギーとマイクログリッドによって電力供給を可能にし、EVによって移動手段を手にすることで先進国と発展途上国の格差がどんどん埋まっていく未来の可能性について解説します。
要は日本の一企業の社長が「全てがEV化するのは間違いである」と発言したところで、それに耳を傾けてくれる国がどんどん消滅しているというのが嘘偽りのない現実です。
などと言うとトヨタを愛する方々ほど怒って私のTwitterやDMに非難のメッセージを送ってきそうな気もしますが、反対に問いかけたいのが「このままだとあなた方の愛するトヨタが日本以外で売れる車がほとんどないローカルな自動車メーカーという大昔の地位に戻ってしまうよ」ということです。
本当にトヨタが好きだというのならその大好きな会社が道を誤って転落しそうな時には厳しく批判して正しい方向へ導くというのが本当のファンのあり方であって、企業のトップの言うことに何でもかんでも盲目的に従うべきではないと思うのは私だけでしょうか?
人気記事電気自動車専門のカーシェア・サブスク・EV販売店立ち上げのためのクラウドファンディングを始めます!