EVは普及しても「バッテリー交換方式」は普及しない?【NIOは例外?】
こんばんは、@kojisaitojpです。一回でもEVに乗ったことのある方なら誰もがわかっていることなのですが、乗ったことのない人に限って「EVの充電=面倒」と思うようです。
このわずかな手間を「充電するの面倒臭い」とか言う奴いるから呆れる。ガソリンスタンドに出かける方が全然面倒臭いぞ。 https://t.co/wPZ1u4Rct6
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 19, 2021
「夜に家に帰って充電するのが面倒だ」とか言う人が案外いるのですが、家に帰ってスマホの充電が面倒だという人がいるでしょうか?
「給油だと5分もあれば終わるのに20分30分もかかる充電なんか待ってられない」とか言ったりもしますが、5分と20分で致命的に困るほど常に逼迫した移動をしているのでしょうか?
「充電インフラが貧弱すぎて待たされるから嫌」という人もいますが、「週末の夕方などに安いガソリンスタンドの前に渋滞の原因になる列を作って待つ」のは平気なのでしょうか?
私から見ると最近使ってる表現を再度使って「できない理由を並べてるだけ」なのかなと思ってしまいます。
そのように実際にEVを運用したことがあるのかも疑わしい人々が飛びつきそうな「バッテリー交換」というネタが出てきたので、今日はこれについて論じてみます。
目次
ENEOSから浮上した「EVのバッテリー交換ステーション」の計画
わずか10分20分の充電時間を嫌がっている人がたまに持ち出すのが「バッテリー交換なら待たなくていいと言ってたりします。
代わりの選択肢としてこのようなものが出てくるようです。
バッテリー交換というサービス自体が無駄だと俺は思ってる。
ENEOS、EVのバッテリー交換サービスの実用化めざす(レスポンス)#Yahooニュースhttps://t.co/KYowt8XcJX— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 19, 2021
ここで出てくる「Ample」というアメリカのスタートアップ企業は私のブログでも先日紹介しましたが、この「Ample」社と日本のENEOSが提携してバッテリー交換ステーションを日本国内に設置するという計画が出てきています。
ただこのサービスには「???」なポイントが満載で、
- メーカー毎車種毎にサイズが違うバッテリーにどう対応するの?
- テスラ車のようにバッテリーがシャシーに埋め込まれてるEVへの対応は?
- 汎用のバッテリーに交換したとして交換後のメーカー保証や安全性はどうなのなるの?
と疑問のオンパレードです。
などど言うと先日私が書いた記事のブーメランのように「お前もできない理由を並べてるだけだ」と言われるかもしれませんが、わざわざEVのスペックが落ちて、メーカー保証さえ受けられるか怪しくなるようなシステムを利用したいですか?と反対に聞きたくなります。
これらの疑問点の中で特に「バッテリーが車体の奥深くにあるのをどうやって交換するの?」というのがあります。
上記の初代モデルSの時期にはテスラもバッテリー交換を視野に入れていたようで、バッテリーが交換しやすい構造になっていたようです。
しかし現行のモデル3などはバッテリーが外側ではなく内部に埋め込まれているので、バッテリーを交換するためには内装を剥がして交換するという大規模な作業が必要になります。
実は世界の各EVメーカーがバッテリーを交換する方向でEVを製造していないという残念な現実があります。
バッテリーの今後のトレンドについては少し補足しておきます。
バッテリーは元々は我々がイメージする円筒形の電池のような「セル」をいくつか組み合わせることで「モジュール」という単位を構成し、この「モジュール」を複数組み合わせることで「バッテリーパック」となり、このバッテリーパックがシャシーの下部に搭載されています。
大量の構造部品を用いて連結や固定を行う必要があり、その空間利用率は40%に留まるのが現実です。
ですが既に「モジュール」を組まずに「セル」を直接「パック」として組み合わせるという方式が以前私も解説したBYDの「Blade Battery」では取り入れられています(これによりBYDはエネルギー効率の低いLFPバッテリーの増量に成功=航続距離アップ)しています。
テスラも新型の4680セルでは、車体中央部に電池セルを直接組み込む(=シャシーの一部とする)ことで剛性を高め、同時に部品点数を減らして外装部材などのコストを削減する計画を打ち出しており、早ければ2代目のモデルYかサイバートラックから導入されるようです。
同様にフォルクスワーゲンも先日の「Powerday」においてバッテリーセルを直接シャシーに埋め込む「セルトゥシャシー」の車体を2024年には発売する計画です。
このようにバッテリーとシャシーをなるべく一体にすることで搭載できるバッテリー容量を増やして航続距離を伸ばそうというのが最近のEVメーカーのトレンドです。
それを見越してか「Ample」社のやり方だと「Ample」のバッテリー交換ステーションで交換可能な仕様のバッテリー(要は汎用品)にあらかじめ変更しておくことでバッテリー交換に対応する考えのようです。
ですがこれも疑問だらけで、「メーカー純正じゃないバッテリーだと性能が落ちるのでは?」「車に不具合が出た時にメーカー保証の対象外(要は改造扱い)にされるのでは?」という疑問がすぐに浮かんできます。
そもそもEVにおけるバッテリーは車体の下部に敷き詰められているもので、「低重心だから安定する」というEVのメリットにも貢献しています。この汎用品のバッテリーに替えるということはメーカーが設計した「安定性」が崩れることにもなります。
このようなリスクを冒して「バッテリーは交換式の方がいいや」と思う人がどのくらいいるでしょうか?
「車の安定性や保証」と「わずか10-20分短縮される充電時間」で後者を取る人はほとんどいないのでは?と思うのは私だけでしょうか?
当時から「わざわざ高額の投資して交換ステーション作るより充電器設置する方がコストも安いし数設置できる」と言われてるわけで。
Better Place / なぜ倒産した? – 期待のEVベンチャーの終わりと電気自動車のこれから https://t.co/5QI2IbbgBu— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 20, 2021
以前「バッテリー交換」をビジネスとしてやろうとして失敗した「ベタープレイス」社を超えるものがまだ何も出てきていないのが現実です。
中国メーカー「NIO」の方式なら例外的にOK?
ただしこのバッテリー交換をメーカー自身がやるのであれば話は別です。
中国の新興EVメーカーの「NIO」は私も何度か紹介したように自社でバッテリー交換ステーションを設置しています。
このやり方であれば「自社のバッテリーを自社のバッテリーと交換」ですので性能が落ちるということはありませんし、あらかじめEVの設計自体をバッテリー交換をすること前提でやっているでしょうから安全性やメーカー保証の問題も生じません。
とはいえこのNIOに関しても素朴な疑問があり、「バッテリー交換だけではなく急速充電も可能」な仕様の点です。
つまり別にバッテリー交換をやらなくても自宅で普通充電、出先で急速充電という他社のEVと全く同じスタイルでEVを使うことも可能になっています。
またNIOの場合は至れり尽くせりのサービスがあり、万が一「電欠」になって止まってしまった場合にはNIO独自のカーレスキューがオーナーの元に急行し、電源を供給してくれるというサービスまであります。
「交換ステーション使う人どのくらいいるんだろう?」と思ってしまうところです。
まぁNIOの場合は「NioHouse」というNIOのオーナーだけが入れる交流スポットとしても休憩所としてもコワーキングスペースとしても使える施設も用意してますので、交換ステーションもNIOのオーナーだけが体験できる「プレミアム感」を与えるための付加サービスなのかなと思ったりもします。
NIOは先日私も「ノルウェー進出」について記事を書いたように今後ヨーロッパに拠点を増やしていきますので、テスラやフォルクスワーゲンとは一線を画したNIOのやり方がどのくらい浸透するのかについても今後わかってくるかと思います。
個人的には「それ必要なの?」という過剰サービスではないかとの見解ですが。
EVのバッテリー交換方式も結局「既得権益の維持」が目的?
バッテリー交換を推進したがる人が必ず主張するのが「急速充電より早い」という点なのですが、これすらもわずかの差です。
5-10分でバッテリー交換と20-30分の急速充電の差であるわずか10-20分のためにお金を払う人ってどれくらいいるんだろう?という素朴な疑問。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 20, 2021
高速道路上のSAPAに設置されている急速充電器は一台辺りの利用時間は30分です。移動途中の「経路充電」ですから別に30分充電しなくても「目的地に着ける分だけ充電すればいいや」と10分とか20分で切り上げることも可能です。
私なら「目的地充電で満充電になるからいいや」と必要最低限の分だけ充電して切り上げます。となると10-20分で終わります。
高速道路のSAPAでトイレに行ったり、コーヒーを飲んでタバコでも吸っていればあっという間に過ぎる時間です。
「他の人が使ってたらもっと待たされる」と文句を言う人はいるでしょうけど、それに関しては「eMobilityPower」の充電器設置計画で複数台の同時利用がもうすぐ可能になります。
e-mobilityPowerの残念な充電インフラ設置計画が判明【これじゃ日本ではテスラ一択?】
電気自動車(BEV)で不可欠なのが公共の充電設備の設置なのですが、日本でこれを担う「e-mobilityPower」が急速充電器を高速道路上に設置するプランを出しましたが、残念な計画で、テスラのスーパーチャージャーと比較するとかなり問題があります。ワクチンでも見られる兵站や補給路の確保が下手な日本の欠点が露呈してます。
「eMobilityPower」の充電器設置計画は90kWの速度をシェアという「速度」には大いに問題がありますが、「一台の充電器を最大3台でシェア、しかも充電器は複数台設置」であれば最大6台の同時利用が可能になるという意味では待ち時間の短縮に貢献します。
片やバッテリー交換は5-10分でできるとは言われていますが短縮できる時間はせいぜい10分程度です。
「この10分短縮することが大事なんだ!」と長距離移動する人は職業ドライバーの方々以外にはほぼ存在しないと思います。
などどいうと「いや、自分はその10分が大事なんだ! 理由はこれこれで」と一生懸命理由を考える人が必ず現れるでしょうけど(笑)。
このように理屈を積み上げてくると今回ENEOSとアメリカのAmple社の「バッテリー交換ステーション」の計画は失敗するだろうというのが私の見解です。
よく言われる「充電待ちが嫌だ」というのもそうですよね。週末の夕方とかに安いガソリンスタンドに渋滞の原因作ってまで待つくせにと思ってしまいます。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) June 20, 2021
充電の待ち時間は我慢ならないけど、安いガソリンのためなら並んでもいいから混んでるガソリンスタンドに行くのでは私から見ると「支離滅裂な思考・発言」になります。
結局これもここのところ述べている「できない理由」を無理やり絞り出している例なのかもしれません。
EVで「自宅充電」「目的地充電」があれば「急速充電」がしょぼくてもOK?【もう一つの充電インフラ】
EVの充電というと「自宅充電(普通充電)」と高速道路のSAPAなどでの「経路充電(急速充電)」に注目が集まりやすいですが、「目的地充電(デスティネーションチャージ)」の存在を忘れてはいけません。実は滞在先のホテルなど長時間いる場所に普通充電器が設置されていれば高速道路上の急速充電をアテにしなくても長距離移動が可能です。
今回ENEOSから出てきた「バッテリー交換ステーション」の計画は、「自宅充電や目的地充電が普及したらガソリンスタンドが消滅する」という石油業界の「既得権益死守」の考えから生まれた産物のように思えてしまいます。
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