「2035年までに全車EV化」に邁進するGMとアメリカ政府に日本はどう映るのか?【ガラパゴスは許容しない?】
こんばんは、@kojisaitojpです。昨日の記事で「日米首脳会談における温度差」について少し触れましたが、「脱炭素・EV化」に対しバイデン政権は本気です。
それを原発とハイブリッド車でやるというのがバイデンに何て言われたのかが非常に気になる。 https://t.co/Y5YF0pLw5u
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 22, 2021
「金儲けにつながれば何でもええよ」的、基本的にうるさく介入することがないのがトランプ前大統領の特徴(でもあり共和党政権の特徴でもある)でしたが、伝統的に民主党政権ではアメリカの国益に反することには強硬な主張をしてくる傾向があります。
日本企業が儲けすぎると対立した「日米貿易摩擦」もほとんどが民主党の大統領の時に対立が激化しています。
アメリカが再エネを唱えているのに「原発も二酸化炭素出ないからいいでしょ?」「ハイブリッドも電動車だからいいでしょ?」とガラパゴスな主張をしてどう捉えられたでしょうか?
バイデン政権は「連邦政府の公用車を全車EV化」「全米に50万箇所の充電ステーションを設置して、雇用を創出する」という公約で大統領に当選しています。日本のガラパゴスな主張を認めることは考えにくいです。
実際にテスラ以外にもGMやフォードなども販売する車種を全てEV化する方向ですし、それ以外にも以前紹介したCanooやRivian、Lorstown、Lucidなど新興のEVベンチャーも多数アメリカには存在します。
今日はその中で最もEV化に本気の会社であるGM(ゼネラルモーターズ)の最近の動向について紹介します。
目次
2022年から発売のキャデラックのEV「Lyriq」の価格が明らかに
先日取り上げたGMの話題だと「ハマーEVのSUVバージョンが公表された」というのがありました、GMは2035年以降販売する全車種を電気自動車化すると発表しており、元々EV専門であるテスラを除くと最もEV化に前向きです。
その中でもキャデラックといえば「これぞアメリカ」というイメージ形成にもつながる高級車ブランドで、大型のセダンやSUVなどが有名です。
私も初めてアメリカに行った際にJFK空港でUberを呼んだら黒人のまるでボディーガードにでも雇いたいような大柄なドライバー(名誉のために言っておきますがとても親切なドライバーでした)がキャデラックで迎えにきてくれて「あぁ、アメリカに来たんだな」と先制パンチのような衝撃を受けたのを今でも覚えています。
話をEVの話題に戻すと、GMは現在はシボレーブランドの「Volt EV」のみの販売ですが、2022年からは主力車種である「キャデラック」がEV化されて「Lyriq」が最初に販売されます。
この「Lyriq」の価格が59990ドルと発表された際に、なんと「キャデラックブランドは2030年以降はEVのみの販売に切り替え(GM本社より5年早い)、ガソリンエンジンの開発は2020年代でストップすると発表しました。
スペックについては以前も取り上げたことがあるので簡潔に述べますが「搭載バッテリー容量100kWh、航続距離300マイル(480キロ)以上、最大充電出力190kW」と先日ワールドプレミアが行われたメルセデス「EQS」にも対抗できる水準です。
(パワーの源となる「Ultiumバッテリー」については次の項目で説明します)
EPA電費はまだ公開されていませんが、190kWでの急速充電に対応します。10分間で76マイル(約122キロメートル)走れるだけの充電ができる計算にな理、家庭での充電用には、19.2kWの充電モジュールが用意されます。
急速充電のみならず家庭用の普通充電もかなり高速です。
装備も回生ブレーキを用いたワンペダルドライブ、GMが「SuperCrouse」と名づけるハンズフリー運転(現時点でアメリカとカナダの高速道路に対応予定)も可能です。
ハンズフリーや自動運転については最近テスラ関連でもニュースになっているので後日別途取り上げます。
なおこの「Lyriq」は、テネシー州スプリングヒルにあるGMの組み立て工場で生産されますが、。GMによれば、工場を電気自動車の生産に対応させるために20億ドルを投じたそうです。
また順番が前後しますが、GMと合弁事業パートナーであるLG Energy Solution(エナジー・ソリューション)は23億ドル(約2480億円)をかけて、バッテリーセル生産工場をこの工場に隣接する立地に建設することを2021年4月発表しています。
合弁の会社名は「Ultium Sells LLC」であり、GMが今後電気自動車に使用する「Ultiumバッテリー」と電気自動車専用プラットホームの「Ultiumプラットホーム」から名前がつけられています。
テネシー州スプリングヒルのバッテリー工場は2023年から稼働し、年間40GWh規模のバッテリーを生産する予定になっていますが、実は既にオハイオ州ローズタウンに最初のバッテリー工場の建設に2020年から着手しており、2022年には稼働予定です。
そうです、フォルクスワーゲンやテスラ同様にバッテリーの自社生産に乗り出すところからGMの電気自動車にかける「本気」を感じるところなのです。
「外注」ではなくバッテリーメーカーを中に入れた「共同開発」というところがポイントです。
GMとLGが共同開発の「Ultium Sells LLC」は2つ目の工場が
GMの本気のEV化戦略については以前から触れていますが、このプラットホームとバッテリーは昨日も言ったようにアメリカにおいてホンダがEVの生産をGMに委託する(ホンダはガソリン車とハイブリッドのみを生産)ことになっています。
ホンダの件は中国市場では中国企業との合弁が義務付けられるので中国製のバッテリーを使用する可能性が高いと思いますが、アメリカ市場(北米市場)で販売されるホンダのEVはGMが生産します。
そしてそれらのEVに使うためのリチウムイオンバッテリーをLGエナジーソリューションとの共同プロジェクトで生産することになっており、既に2つの工場の建設に取り掛かっているという点にGMの電気自動車にかける「本気」を感じます。
2つのバッテリー工場が稼働してもまだ70-80GWhくらいの生産能力でしょうが、これだけでは年間700万台を売り上げるGMの車両を全てEVにするためにはまだまだ足りません。
2035年までに全てEVにする必要があるわけで、このペースでアメリカ中・世界中に大急ぎでバッテリーを調達するルートを確立する必要があります。
なお先に完成予定のオハイオ州ローズタウンの工場では主にハマーEVなどのピックアップトラックやSUVを生産予定です。2023年完成予定のテネシー州スプリングヒルの工場では主にキャデラックブランドのEVを生産する予定です。
以前の記事でも述べたことがありますが、日本でトヨタがパナソニックと共同で設立した「プライムエナジーソリューション」の現時点でのバッテリー生産能力は年間0.39GWhです。
GMのオハイオ州やテネシー州のバッテリー工場に追いつくためにはこの100倍の生産能力が必要です。
日本政府の出資を受けて規模を拡大することが決まっていますが、果たして政府からの税金投入だけで世界に電気自動車を販売することができるだけのバッテリーを用意できるのでしょうか?
GMが700万台(世界4位)と言いましたが、トヨタの場合は1000万台を超える売上台数ですので、GMを更に上回るペースでバッテリーを調達するルートを開拓する必要があります。
「トヨタはEVなんていつでも作れる技術力があるからすぐにでもEV化できる」と強気のコメントを私に寄越す人が時々いますが、バッテリーの調達について考えたことがありますか?
たとえどんなに高度な技術力があって「いつでもEVを開発できる能力」があったとしても、市販化するためには「バッテリーをどう調達するか?」という重要な問題をクリアしないとEVを販売することはできません。
「パナソニックと共同で作るから」とか「日本政府も出資してくれるから」という事実だけで「バッテリーの調達なんてどうにでもなる」と勘違いしているとしたら「EVを作る技術力はあるのにバッテリーが調達できないから販売できない(実際PHEVのRAV4でさえバッテリー調達に四苦八苦していました)」という残念な結果が待っている可能性があります。
GMやフォルクスワーゲンがこれから10年がかりで構築予定、既にある程度のバッテリー生産体制を整えつつあるテスラも10年以上かけて今のバッテリー生産体制を作り上げてきたという事実を重く受け止めるべきだと思います。
自動車メーカーも大統領もEV化に本気のアメリカとポーズだけ(?)の日本
トヨタでもホンダでも日産でも北米市場の売り上げ台数は全体の20%-40%を占める巨大市場です(中国も同様に17%-30%)。
「日本だけは今後もハイブリッドでいいんだ」「ガラパゴスで何が悪いんだ」的な開き直りのような発言が最近のTwitterやヤフコメなどで目につくようになってきましたが、各社10%−15%位のシェアしかない日本市場だけのためにハイブリッド車の開発を続けたり、内燃機関(エンジン)の開発を続けるのは会社にとって余計なコストとなってしまうのではないでしょうか?
「日本だけは独自の路線でいいんだ」的な主張をする人は、仮にそれを実行した場合に企業が背負う膨大なコストについて考えたことがあるでしょうか?
まぁ以前のように「EVなんて絶対普及しない」的な言い回しが減っているのはようやくアメリカ・中国・ヨーロッパの現実を理解し始めたからなのでしょうかと思うこともありますが(笑)。
今日はGMの現時点での電気自動車化への試みのみを紹介しましたが、このように会社の全資源をEVへと振り分ける勢いで2035年までの全車EV化へと突き進んでいます。
バイデン政権もこのようにやる気です。
米国で開催される気候サミットに向けてUEが2030年に1990年比55%以上の削減に合意、対立を深めている中国の習近平主席も出席へ。
犬猿の仲の2つの大国が協力する意味、理解できますか?
EU Agrees To New Climate Law In Time For Biden Earth Day Summit, Xi Will Attend – https://t.co/1ns7kUUAqI
— 🌸八重さくら🌸 (@yaesakura2019) April 21, 2021
就任前のイメージとは違って現在は中国に対しかなり強硬な姿勢で臨んでいるバイデン政権ですが、「脱炭素」という面では中国とも協力しようとしています。
このように「脱炭素」のためなら仮想敵国のような存在である中国とも協力しようとしている状況で、同盟国の日本から「発電は原発。二酸化炭素出ないからいいでしょ?」「EV化はハイブリッドの方がエコだからこっちで」のように主張されたら激怒することは間違い無いでしょう。
「日本国内の既得権益に満遍なく配慮する」のが菅政権の特徴であると昨日も言いましたが、この姿勢だと国内は誤魔化せてもアメリカの逆鱗に触れるのではという懸念を感じます。
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