トヨタ「BZ4X」の発表から感じる疑問とは?【スペックは?充電インフラは?】
こんばんは、@kojisaitojpです。さて多くの日本人が「真打ち登場」と待ち望んでいたトヨタのEVが上海モーターショーのワールドプレミアで発表されましたが、どうも予想とは違ったようです。
2021 Auto Shanghai: First Live Look At The Toyota bZ4X Concept https://t.co/99ipDApLAU via @insideevs.com
— InsideEVs (@InsideEVs) April 19, 2021
「BZ4X」という電気自動車が発表され、2025年までに15車種の「電動車(EVとは言ってない)」の発売をすると発表しましたが、困ったことに2021年4月現在でも「コンセプトカー」であり、市販車モデルではありませんでした。
「それでもトヨタが発表したことに意味があるんだ」と力説する自動車ジャーナリストなどが既に多数現れていますが、「発売予定が1年以上先ですよ」というツッコミが入ってしまいます。
とはいえようやくEVの発売をトヨタがアナウンスしたことは事実ですので、今日はこの「BZ4X」についての情報とここから読み取れる問題について考えてみます。
目次
スペック非公表、「コンセプトカー」のみのトヨタ「BZ4X」
まず新しいEVが発表された時に必ず掲載することにしている「搭載バッテリー容量は〜、航続距離は〜」という情報は今回全くありません。
まぁこの会社の「期待だけさせておきた肩透かし」にはもう慣れましたけど(笑)。
「bz4X」というのは「Beyond Zero」という意味のようでゼロエミッションを意識した名前であり、この「BZ」というネーミングを今後のEV展開で用いるブランド名とすることは確かのようです。
ワールドプレミアで見た限りのサイズとしては既に発売しているRAV4(PHEV)より少し大きいようにも見えますが、おそらく先日から指摘している大激戦区の「ID.4」「モデルY」「Q4 e-Tron」「アリア」「Ioniq5」などと同様のミッドサイズSUVであると思われます。
「思われます」と表現せざるを得ないくらい情報がありません(笑)。
間違いない情報としては今回の「BZ4X」については電気自動車専用プラットホームである「e-TNGA」を使用していること、AWDモデル(前輪・後輪にモーターが搭載されるモデル)では「Direct4」と言われる独自の四輪制御技術が用いられていることです。
この点に関しては今回共同開発のスバルの「エボルティス」にも搭載されるようです。
「テスラ・モデルS」や「モデルX」の新型で見られるヨーク型のステアリングを「BZ4X」でも採用しているというのも見て取れます。
取り回しの悪さが欠点として指摘されるヨーク型のステアリングに「ステアバイワイヤー」と言われるステアリングと車軸が直接つながっていない独自の技術が採用されたようです(従来型のステアリングも選択可能)。
これが会社の理念でもある「Fun to Drive」と結びつくようで「ステアバイワイヤー」によって高速道路では直進安定性、街中では小さい操作量で大きく回るという快適な走行につながると述べられています。
この辺りには新機能が散りばめられていることは間違いありません。
物理ボタンが多いのはテスラのようになるべく物理ボタンを無くす方向のメーカーとフォルクスワーゲンのように物理ボタンをなるべく残すメーカーに対応がわかれていますので特に問題はないかと思います。
ですがバッテリー容量や航続距離のような電気自動車として必須の情報については全く公開されていません。
2022年半ば頃の発売になるのでそれまでには情報が出てくるでしょうが、「これじゃ遅くないか?」というのが私の感想です。
実際に同セグメントと思われる「ID.4」「モデルY」「Q4 e-Tron」「アリア」「Ioniq5」などは2021年中に発売されます。
先に市場を取られてしまい、発売した頃には入る隙間がないということがなければ良いのですが「きっと世界はトヨタを待っていてくれるはずだ」と楽観はできません。日本市場ならいるかもしれませんが。
ひっそりとバッテリーは「BYD」製であると公表?
これが今回の協力企業のラインナップとしてひっそりと画面に出ました。
スバルは今回AWDの開発も担う重要パートナーですし、これまで電気自動車に全く関心を示していないダイハツやスズキも名前を出しているのは「今後軽自動車規格のEVが出るってことか?」と期待されるものですのでポジティブな内容です。
ですが「BYD」に注目している人が案外少ないのが意外です。
「BYD」が出てくるということは「トヨタのEVではあるけどバッテリーはBYDが供給」と言っていることに等しい(今回のワールドプレミアはサプライヤーも非公表なので決定ではないにせよ)わけです。
これまで「中国製のバッテリーガー」「韓国製のバッテリーガー」と燃える燃えると煽っていた方々がここに何の反応も示さないのが謎ですが(笑)。
これが中国国内に限定されたものなのか、日本市場で発売する予定の「BZ4X」にも「BYD」のバッテリーを使用するのかすら不明確ですが、もし宣言した通りに2022年半ばに本当に発売するのであれば中国メーカーから調達する以外は不可能なのが現実です。
RAV4の発火案件とEVにおけるバッテリーの重要性【やっぱりトヨタはオワコン?】
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記事の中でも触れましたが、トヨタ・パナソニックが共同で設立したプラネットエナジーソリューションズのバッテリー生産能力は「ハイブリッド車50万台」とか言われると大規模なように錯覚しますが、年間の生産能力は「約0.37GWh」です。
CATLが14GWh、テスラが20GWh、LG化学が15GWhと、ヨーロッパエリアだけの生産でもこの位の年間生産量が普通です(フォルクスワーゲンも2030年までに40GWhの生産体制を整えると「PowerDay」で言っています)。
「日本政府も出資して規模拡大するから大丈夫」とバッテリーの供給を心配していない人(自動車ジャーナリストなどでも言ってたりするので呆れますが)が多いですが、そんなに簡単には行かないでしょう。
100倍くらいの格差がある状況に日本政府の出資が入ったとしてどのくらい詰められるでしょうか? 私には焼け石に水に見えます。
となると今回の「BZ4X」のように「BYD」など中国メーカーから供給を受けることになり、電気自動車の生命線であるバッテリー供給を他国のメーカーに握られたままという不利な土俵で勝負することになります。
「バッテリー」を握られるとどのくらい競争が不利になるのかは以前の記事でも触れていますのでご参照いただければと思います。
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このことを認識していない日本人がメーカーの中にも結構いそうなのが最大の懸念材料です。
結局EVは発売しても「充電インフラ」には無関心のトヨタ?
昨日の記事では「ID.6」の発表だけではなくフォルクスワーゲンの充電インフラ設置計画(しかも本国ヨーロッパではない中国で)にも触れましたが、トヨタに関しては充電インフラの設置計画については何も出ていません。
何も出ないのになぜか「トヨタのディーラーに充電器が設置されたら便利になる」と勝手に前提となっている人がTwitterなどでも多数見かけるのが謎なのですが。
どうしてもガソリンスタンドと同じ発想でしか考えられないのですよねぇ…。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 20, 2021
これは「数分で満充電できないとEVなんか乗れない」的なことを言う「充電とガソリンスタンドを同じようにしか考えられない人」が多いのが現在の日本の残念な現実ですが、メーカーも同じかもしれません。
「ガソリンスタンドを自社でやってないのだから充電インフラも不要」と思っているのかもしれません。これ自体が大きな誤解で、
- わざわざガソリンスタンドに移動しないと給油できないのが「ガソリン車」
- 自宅や職場などで充電器につないでおけば勤務中や夜中に満充電になるのがEV
「いつエネルギー補給をすべきなのか?」がEVとガソリン車では全く違うことが理解できない人が非常に多いようです。だからやたらと急速充電にこだわってしまう。
いくつかのホテルで充電器設置してよって話したけど、そこで「充電=急速充電」と考えてしまうスタッフだとこいつ何もわかってないなと思ってしまうし。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 19, 2021
実際に滞在したついでにいくつかのマリオット系のホテルで「充電器の設置を」と訴えてみたのですが反応は様々でした。全くやる気を感じないようなホテルもありましたし、やる気は感じるけど「どうせ設置するなら超高速の充電器を」のようなズレた熱意を見せたホテルもありました。
多分超高速の充電器を設置しようと本社に提案すると「費用かかり過ぎるから却下」となりそうな悪寒がするのは私だけでしょうか?
反対に低コストでできる普通充電器であれば本社がOKしたかもしれないのに…という失敗だけは避けてほしいところです。
急速充電器の何分の1、いや何十分の1のコストで設置できる「普通充電器」があればホテルに滞在中という長い時間に充電するインフラとしては十分です。
例えば6kWの標準的な普通充電器で今最も売れている「テスラ・モデル3」のスタンダードレンジプラスの60kWhを満充電するのに10時間です。
もっとバッテリー容量の小さい「日産リーフ」の40kWhなら7時間、30kWhのモデルなら5時間くらいあれば充電できてしまいます。
滞在時間の長い宿泊施設や職場の駐車場、あるいは自宅の充電器は普通充電器で全く問題なく役割を果たしてくれます。
この辺りの理解、というか「そもそもガソリンスタンドと充電インフラは全く別のもの」という意識を広めていかないとEVがなかなか普及しない障害になってしまいます。
この役目を自動車メーカーが担わなくて誰が担うの?というのが私の見解です。
実際に日本国内だと日産や三菱のディーラーには必ず充電器がありますし、世界規模で見ると昨日のフォルクスワーゲンやスーパーチャージャーで有名なテスラのように自社で充電インフラを設置しています。
先日従来型の「エンジンの整備で儲けることに依存する中古車店はオワコン」という記事も書きましたが、自動車業界自体の役割も変化していることに気づかない自動車メーカーや販売店はガソリン車が消えていくのと同時に消えていく可能性があります。
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