フォルクスワーゲン「ID.Life」から感じる格安EVの可能性とは?【自動運転も視野に?】
こんばんは、@kojisaitojpです。現在ドイツ・ミュンヘンで開催中のモーターショー「IAA MOBILITY 2021」に合わせてフォルクスワーゲンがこれまでで最も小型のEVのコンセプトを発表してきました。
数時間後には「ID.3は自社登録」とか「LGのバッテリーだから燃える」というコメントで埋め尽くされるのかな(笑)。
フォルクスワーゲン、ID.ファミリー初の前輪駆動モデル「https://t.co/vy2HfuJogw」世界初公開(Impress Watch)#Yahooニュースhttps://t.co/CzdyiQ9xgF— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 6, 2021
「ID.Life」というコンセプト名で、実車は2025年の発売を予定しているとのことですが、最近だと日産・三菱が共同開発の「軽自動車規格EV」を、他にもテスラが「25000ドル位の小型EV(通称「モデル2」)を発売することを公表しており、EVの本格的普及に必須の小型車セグメントのEVが続々と発表されています。
フォルクスワーゲンの場合はまだコンセプトカーですので、2025年の発売の際には違ったものになっている可能性もありますが、具体的なスペックまで公表しているので紹介してみようと思います。
他にも以前から話題の「ID.Buzz」、つまりワーゲンバスのEV版の情報も出ているので合わせて紹介してみます。
目次
2025年発売予定のVWの小型車EV「ID.Life」とは?
現時点で「ID.3」「ID.4」などのEVを発表しているフォルクスワーゲンが新たにID.ファミリーに加えることを発表したのが「ID.Life」です。
これまでのEVでは駆動モーターを後方に配置する後輪駆動モデル(RWD)、4輪を駆動する(AWD)パフォーマンスモデルの「GTX」でしたが、今回発表された「ID.Life」は前輪にモーターを配置する前輪駆動モデルで、フォルクスワーゲンでは初となります。
これまでの「ID.3」と「ID.4」が「MEBプラットフォーム」というEV専用のプラットフォームでしたが、「ID.Life」は「MEB-small」と呼ばれる小型車用にアレンジされたプラットフォームを採用することで前輪駆動が可能になったとのことです。
ボディサイズは4091×1845×1599mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mmのコンパクトカーで、EVのエントリーモデルとして主に若年層をターゲットとしています。
価格は「20000〜25000ユーロ(約260万〜330万)」と「ID.3」よりも安く、先日このブログでも取り上げたテスラの「25000ドル位のコンパクトサイズのEV」とほぼ同価格帯です。
テスラ「モデル2(仮)」にBYD「Blade Battery」が採用される?【2Qの決算も紹介】
テスラが中国BYD社のバッテリーを採用する?というニュースが出ました。BYDは「Blade Battery」という独自の形態のLFPバッテリーを開発しており、低コストで搭載バッテリー容量を増やせるというメリットから新型の「モデル2(仮)」に搭載される可能性があります。2Qのテスラの決算内容の紹介と合わせて解説します。
日産・三菱が共同開発の「軽自動車規格EV(「Sakura」「ek-MiEV」?)も「補助金込みで実質負担が200万円くらい」と言っていますので同価格帯になります。
日産・三菱の軽自動車EVが日本のEV事情を変える?【2022年上半期に発売】
当初2023年では?と言われていた予定をかなり早めて日産・三菱が共同開発の軽自動車規格のEVを2022年初頭に発売すると発表しました。200万円を切る低価格、航続距離も150-200キロで日常の買い物や通勤がメインの使用であれば全く問題なし、V2Hも搭載されて蓄電池としても活用できる期待のEVについて解説します。
高級車セグメントから始まったEVが徐々に大衆車価格に近づいてきています。
「ID.Life」は具体的なEVとしてのスペックも公表しており、搭載バッテリー容量は「48kWh」と「62kWh」のものが用意され、航続距離はWLTPモードでそれぞれ約300キロ、400キロになります。
そして実はMEBプラットフォームの「ID.3」や「ID.4」と同サイズのバッテリーであるところがポイントです。
以前の記事でも紹介しましたがフォルクスワーゲンが採用するバッテリーは「Unified Cell」と呼ばれる、従来のパウチ型と違う角形のバッテリーで、スケートボード形の電気自動車プラットフォームにすぐ組み込むことができるのがメリットでしたが、これが全車種に適用されます。
フォルクスワーゲン(VW)の驚異の電動化プランを検証【日本もトヨタもオワコン?】
フォルクスワーゲングループが「Power Day」において、大規模なバッテリー生産工場の設立とそこで生産される「Unified Cell」と呼ばれる新しいバッテリー技術、充電スポットの設置、V2Xを含めた再生可能エネルギーを有効に活用するための蓄電池として電気自動車(BEV)の活用など日本メーカーとは別次元の計画です。
これによってこれまでのEVでは車種ごとにバッテリーセルのサイズが違ったのが統一される、規格が統一されることによってスケールメリットが働きコストダウンにつながるというフォルクスワーゲンのコンセプトに沿ったバッテリーです。
具体的にどんなバッテリーを用いるかまでの発表はありませんが、以前の「PowerDay」の内容から推測するに低コストのLFPバッテリーをコンパクトカーには採用してくるのではないかと思われます。
充電出力の具体的な数字は出ていませんが「20-60%」、距離に直すと101マイル(163キロ)分の急速充電が10分で可能になるレベルのようです。
充電口がフロントに設けられているのは日産「リーフ」や「ホンダe」などと同様です。「ID.Life」が前輪駆動であることから考えるとケーブルが短く、軽くなってコストダウンにつながります。
コンパクトサイズのEVの場合、基本的には自宅充電が前提となりますが、高速道路のSAPAなどでの「経路充電」もこの速さで出来るようになれば別に食事休憩を取らなくてもトイレに行ってコーヒーでも買ってくる間に充電が終わります。
日常の通勤や買い物がメインの用途でありながら、たまに高速道路で長距離を移動する際にもストレスなく移動できる仕様です。
EVであることのメリットも生かした広くて自由hにアレンジできる車内空間は、このように車中泊も可能なゆとりのあるスペースとなっています。
そしてもう一点気になることがあったのですが、それは次の項目で説明します。
「自動運転」も視野に入れる「ID.Life」と「ID.Buzz」
まずは運転席周りの画像を見ていただきたいのですが、このように最新のテスラ「モデルS」や「モデルX」同様にヨーク型のハンドルを用いる一方で、メーターやスクリーンはなし、スマホで代用するようになっています。
「フィアット500EV」が2021年に日本に上陸?【何とヨーロッパの次が日本】
昨年2020年にヨーロッパ市場に投入された「フィアット500EV」が2021年中に日本市場に投入されるとの発表がリリースされました。本国イタリアのあるヨーロッパの次に投入する市場が日本だということも驚きですが、価格も電気自動車の中では最もリーズナブルで、ファッション性も高く、人気の出るEVになる可能性を秘めています。
スマホをナビ代わりに代用というのは以前紹介した「フィアット500e」でも同様でしたが、違うのは以下の画像です。
エンタメ専用(?)っぽいディスプレイもあるからやはり自動運転が前提っぽい。 pic.twitter.com/CATh9SmINc
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 6, 2021
巨大なディスプレイが運転席を覆っており、ゲームの映像と思しきものが映っています。
もちろんこれを「駐車中でも楽しめるエンタメ」と考えることもできますが、運転席周りに物理ボタンやナビなどのインフォテイメントシステムがスマホを除くとないということを考えると「自動運転への布告では?」と思ったりもします。
この辺りは「ID.Life」についての発表ではフォルクスワーゲンから何も情報はありませんが、別の車種で関連した情報が出ています。
新型ワーゲンバスこと「ID.Buzz」プロトタイプ、Argo AIの自動運転システム開発車両に – Engadget 日本版
21世紀のワーゲンバスことID.Buzzが、自動運転システム開発会社Argo AIのテスト車両に採用され、市販版に先駆けて公道を走り始めています
フォルクスワーゲンでは2022年の発売を予定しているワーゲンバスのEV版であり「ID.Buzz」ですが、今回のミュンヘンモーターショーではその自動運転バージョンが公開されています。
米のアルゴAI社が開発した自律運転に対応するため、複数のカメラとLiDAR(レーザーセンサー)などを搭載し、カメラやライダーなどの装置で取得するデータから、車両の周囲360度のデジタルマップを作成。400m以上離れた場所にある物体も検出可能で、歩行者や自転車、自動車などを判別できる仕様です。
フォルクスワーゲンでは2025年にもドイツ・ハンブルグでロボタクシーを投入する計画も表明しています。
「ID.Buzz」に関しては2022年〜2023年に運転するタイプの車両を販売しますが、その後自動運転のシャトルバスや商用バンとしての運用も想定されています。
フォルクスワーゲンのID Buzzのプレビュー(自動運転のテスト車)
VW ID Buzz PREVIEW! The EV Multivan microbus is finally coming – drive y… https://t.co/MSUuWZKylt #EV pic.twitter.com/pseCVvMUxQ— がす | テスラを楽しむ (@Gusfrin92486024) September 5, 2021
こちらがミュンヘンで公開された自動運転バージョンの「ID.Buzz」ですが、先ほど引用したような全面スクリーンの「ID.Life」を見ると「将来の自動運転に対応したエンタメにしてるのかな」と思うところです。
「ID.Buzz」の自動運転も「ID.Life」の市場投入も2025年予定であるのは偶然ではないかもしれません。
将来的にフォルクスワーゲンではロボタクシーやカーシェア・シェアライドから全体の15%の収益を得る計画で、EV化の更に先にある「自動運転」を見据えた開発を行なっています。
世界では「EV化は当たり前、次は自動運転」がトレンド
このように自動運転につながるフォルクスワーゲンの「ID.Buzz」や「ID.Life」の計画を解説してきましたが、日本だと先日私も取り上げましたがトヨタ「e-Palette」の事故のせいで「自動運転なんてまだまだ」と鼻で笑われるかもしれませんが。
トヨタ「e-palette」の接触事故の問題点とは?【自動運転レベル4ではない?】
トヨタが東京オリンピック・パラリンピック向けに投入した自動運転レベル4の車両「e-palette」がパラリンピックに参加する選手をはねるという事故が起きました。レベル4を名乗っているにも関わらずオペレーターが手動で操作するなど謎が多い事故ですので、自動運転の定義を確認しながらトヨタの何が問題なのかを考えてみます。
しかも事故の後のトヨタ側の対応が、「安全対策として車の加速や減速、停止をする際には、自動運転ではなく担当者の手動運転に切り替え」「運行の担当者以外にも安全を目視で確認する搭乗員を1人乗せる」「交差点に配置する誘導員を6人から20人に増やす」など、とても自動運転レベル4(限定された区域内での全ての運転にシステムが責任を持つ)には程遠い対応でした。
選手村で接触事故のトヨタ『e-Palette』、手動で運行再開へ[新聞ウォッチ] | レスポンス(Response.jp)
東京2020パラリンピックの選手村で、視覚障害の柔道に出場する予定だった北園新光選手が、自動運転中の巡回バスに接触し、頭と両足に全治2週間の軽傷を負った事故で、車両を開発したトヨタ自動車は、一部の運転を手動に切り替え……
まだレベル4には遠く及ばない自動運転車両をレベル4と名乗って投入し事故を起こす、しかも事故後の対応が人海戦術でとなると「これのどこが自動運転だったの?」と言いたくなるほどお粗末なレベルです。
もしこの事故が「自動運転=危ない」などというイメージを植え付けてしまったのであれば「パラリンピックの事故が日本の自動運転を10年遅らせた」と後世で言われるようになるかもしれません。
この「困ったら人海戦術」というのは日本の生産性の低さを物語っている象徴的な例なのですが、それについては今日の本題ではないので別な機会に解説します。
このように日本メーカーが醜態を晒す中で、本日解説したフォルクスワーゲンやFSD(fullselfdriving)の開発を進めるテスラ、既に国内では自動運転のロボタクシーを導入(現在は「監視員」の名目で運転席へのスタッフの同乗もなし)している中国メーカーなどとの差が開く一方なのを危惧するのは私だけでしょうか?
既に世界の流れは「EVかするか否か?」ではなく「EV化するのは当たり前、次は完全自動運転の完成」へと向かっている中で取り残される可能性が出てきたのが今の日本の現状です。
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