ヒュンダイのリコール(バッテリー交換)が電気自動車に与える影響とは?【日本勢にチャンス?】
こんばんは、@kojisaitojpです。電気自動車の販売が始まってから最大級のリコールが発生しています。
現代自、EV8.2万台を世界でリコール 費用総額9億ドル
韓国の現代自動車は、世界全体で8万2000台の電気自動車(EV)をリコールする。出火の恐れがあるため、バッテリーシステムを交換する。
「ヒュンダイ」という単語が出るだけでネット上では嬉しそうに韓国と電気自動車の悪口を言っている人が増えていますが、何か勘違いしてませんでしょうか?
LGやヒュンダイの評判が悪くなるイコール日本メーカーの評価が上がるわけでもないのに喜んでる奴だらけなのが気持ち悪い https://t.co/N8REtBHiJ5
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 1, 2021
このタイミングで日本メーカーが高品質の電気自動車を商品として売れる状態であれば確かに「チャンス」だったかもしれませんが、現実問題としては日産リーフ以外にマトモに売れる電気自動車がありません。
ちなみに日産リーフは発売から10年以上経過してもバッテリーの発火案件はゼロです。これは誇るべき事実ではあります。
ですが他に「ヒュンダイ・KONA」や「起亜・Niro」に対抗できるEVを日本メーカーは持っていません。ライバルの信頼が落ちたとしてもそれだけで日本メーカーの地位が上がるわけではないので、ヤフコメなどに見られるようにヒュンダイを叩いてストレス解消のようなことをしても自己満足以上の成果は得られません。
さてヒュンダイは「Kona EV」に関して既に発火案件が15件ほど起きています。
さて今日はこのヒュンダイのバッテリー発火案件に伴うリコールについて考えてみます。
目次
ヒュンダイの「リコール」とその原因とは?
昔の先入観から韓国メーカーというだけでバカにする人もいるでしょうから、「ヒュンダイ」と「起亜」がどのくらい世界に影響を及ぼすのかを先に統計でお見せします。
2020年の世界ランキングで見ると人口で勝る中国メーカーが入ってくるのですが、テスラ・モデル3やWuling HongGuang Mini EVに続いて「ヒュンダイKONA EV」で世界5位の販売台数です。
こちらは2020年のヨーロッパでのランキングですが、「ヒュンダイKONA EV」が4位、「起亜 Niro EV」が9位です。日産リーフが7位であることを考えればヨーロッパでどのくらいのシェアがあるのかがお分かりかと思います。
実際に「ヒュンダイ・起亜グループ」はガソリン車も含む自動車全体の売り上げ台数でも世界5位のグループです。
この巨大グループが8万台以上に及ぶリコールをすることの重大さがお分かりいただけたかと思います。
問題は原因が何なのか?ということです。
ヒュンダイ「KONA EV」は昨年一度リコールを発表しており、その時は「ソフトウェアアップデート」でバッテリーが満充電にならないで90%くらいで充電が止まるように制御するなど、一応の対策を打ってきましたが。
しかしソフトウェアアップデート後も車両の発火・火災案件が続いたため、今回は韓国当局からリコールをするように命じられて今回のバッテリーの無償交換を発表しました。
「BMS(バッテリーマネージメントシステム)」の問題であればヒュンダイのソフトウェアに問題が、そうでなければバッテリーを生産しているLG化学の傘下であるLGエナジーソリューションズ側に問題があることになります。
原因についてはヒュンダイ側が「調査中」とのことですので、まずは1日も早い原因究明が待たれます。
ヒュンダイ・起亜グループとしては、現在のように電気自動車の競争が激化している中で「KONA」のリコールに8万台以上のバッテリー交換は金銭面の負担だけではなく、バッテリーの在庫という意味でも痛いトラブルが発生しました。
韓国メーカーだけの問題では済まないLG化学のバッテリー世界シェア
LG化学のバッテリーは現在世界シェア3位であり、例えばテスラ・モデル3であればロングレンジモデルに使用されていますし、「4680セル」という新しい技術を用いたバッテリーもパナソニックよりもLG化学の方に軸足を移して開発しているようです(実はパナソニックはテスラから切られそうになっています)。
また先日独自のバッテリー技術を駆使した「アルティウムバッテリー」を自社で生産することを発表したGMもLGエナジーソリューションズとの共同事業です。
安くて高品質な電気自動車は日本ではなくアメリカ?【EVでは立場が逆転?】
テスラが日本市場のモデル3の販売価格を一気に下げてきました。これではテスラが「高品質・低価格」で日本車が「低品質・高価格」となってしまい、昔日米貿易摩擦が起きた原因にもなった「ハイクオリティな日本車」の面影を感じないくらい変化してます。同様にGMも「シボレー・ボルトEV」の質を向上させ、価格も下げてきており、脅威です。
世界3位のシェアとなり、あらゆる自動車メーカーにバッテリーを供給しているのが現在のLG化学ですからもしバッテリーそのもものに問題があれば電気自動車全体に与える影響は甚大です。
実際に同じLG化学(の傘下であるLGエナジーソリューションズ)のバッテリーを使用したGMブランドのシボレー「ボルトEV」でも複数の発火案件は起きています。
GMが「ボルトEV」をリコール、韓国製バッテリー搭載の火災相次ぐ – コリア・エレクトロニクス
米自動車メーカーGM(ゼネラルモーターズ)が火災発生の危険性を理由に2017~2019年に生産されたシボレー· […]
こちらの件ではバッテリー交換のリコールが既に行われており、LG化学製のバッテリーに問題があったのでは?ということを示唆しています。
世界3位のシェアに成長した企業にしてはちょっとお粗末な事故が続いています。
「IONIQ5」には影響なし?
ちなみに先日ワールドプレミアが開催され、既に先行予約が締め切りとなっているほど大人気を誇るヒュンダイのE-GMPプラットホームを用いた新しい電気自動車である「IONIQ5」についてはバッテリーが同じ韓国の「SKイノベーション」製のバッテリーを採用することが発表されています。
ですのでLG化学のバッテリーそのものの問題であれば今後発売される「IONIQシリーズ」には影響はありません。
ヒュンダイ「Ioniq5」が電気自動車(BEV)戦線に登場【モデルY・ID.4・アリアとガチバトル】
昨日のワールドプレミアにおいてヒュンダイ「Ioniq5」の具体的詳細が明らかになりましたが、電気自動車(BEV)の、それもSUVタイプの市場において「モデルY」「ID.4」「アリア」と互角に戦えるスペックの高い電気自動車を出してきました。特に「リビングルーム」と呼ばれるEVの特性を生かした室内空間は必見です。
ですがもしヒュンダイ・起亜のBMS(バッテリーマネージメントシステム)の問題であればもっと深刻な影響を後に続く車にも残してしまいますので、ヒュンダイ側には原因の究明をきちんとやってもらう必要があります。
電気自動車(BEV)の信頼性を損ねるヒュンダイ・LG化学の責任は重大
ヒュンダイや起亜、LG化学は世界の電気自動車の中でも素早く新技術を市場に投入する日本メーカーとは対照的な姿勢はチャレンジ精神に溢れていて、私は肯定的に捉えていました。
実際に多少の小さなトラブルであれば、市場に実際に出してから修正をしていくことで大きな問題が起きずに進化させていくことは可能です。
ですが「バッテリーから発火」というのは一歩間違えば人間の生死に関わる問題ですから、「お試し」で済まされるレベルの問題ではありません。
などと厳しいことを言っていたら、こんなメーカーも何かやらかしたようです。
ヒュンダイ笑えないんだけど(笑)
米当局、トヨタ「RAV4」調査 190万台、発火の恐れで(時事通信)#Yahooニュースhttps://t.co/C19QNZtGnA— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 1, 2021
もちろんヒュンダイの時と同様にトヨタのBMSに問題があるのか、トヨタにバッテリーを提供しているパナソニックに問題があるのかは今の時点ではわかりません。
ヒュンダイの時は「韓国製の品質なんて」とバカにしていたヤフコメ民が、トヨタの話になると「アメリカにハメられたんだ」と根拠なく言える神経が私には理解不能ですが。
少なくとも何か明確な根拠すらないことに関して憶測で「ヒュンダイはやらかすけど、トヨタがやらかすはずがない」と決めつけるのはバイアスです。韓国メーカーに対する誹謗中傷になってしまいます。
思い込みで冷静さを欠いた軽口を叩くべきではありません。
どこのメーカーだろうが起きたトラブルには適切に対応する必要があります。特に現在のような電気自動車の黎明期は「ヒュンダイだから」とか「トヨタだから」とかいうメーカーの問題ではなく、「これだから電気自動車は」という電気自動車そのものに対する信頼をなくすことにもつながります。
競争が激化しているので1日も早く市場に出したい気持ちはわかりますが、少なくとも人命に関わる部分だけは慎重になるべきです。
事故の件数で見ればガソリン車の方が漏れたガソリンが引火して発火事故という確率が高い、それに比べると電気自動車はリスクが低いというのは事実かもしれませんが、「電気自動車(BEV・PHEV)」に対する信頼を獲得すべき今の時期にそこを強調して誤魔化すことをやるべきではないと思います。
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