「宝駿Kiwi EV」や「宏光MiniEV」から感じる中国製格安EVの可能性とは?【若者・女性】
こんばんは、@kojisaitojpです。「激安EV」として「宏光MiniEV」については何度も取り上げてきましたが、それに対抗できる格安のEVがまた中国で登場しました。
GMの合弁が中国で宏光MINI EVより高性能な小型EV「Baojun KiWi EV」を発売、31.9 kWhのLFPバッテリーでNEDC 305kmの航続距離、外部への電力供給も可能。
✅標準:69,800 CNY(約119万円)
✅プレミアム:78,800 CNY(約134万円)China: GM's JV Introduces Baojun KiWi EV https://t.co/1vs8c5wpUt
— 🌸八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) September 13, 2021
これは既に中国で2021年4月から販売している「宝駿(Baojun) E300」の車体を元に更に廉価なEVとして「Kiwi EV」を出してきました。
パッと実の印象で「宏光MiniEV」に近い印象を持つEVですが、後で解説するようにEVとしてのスペックは「宏光MiniEV」からかなりグレードアップしています。
今日はそんな「宝駿(Baojun) 」の「Kiwi EV」の特徴と、日本メーカーでは考えられないその斬新なCMについても取り上げてみたいと思います。
目次
GMとの合弁会社が生産する「宝駿(Baojun) 」ブランドの「Kiwi EV」は「宏光MiniEV」の親戚?
まず最初に「宝駿(Baojun)」についての背景を知らないと日本では「中国メーカーのEVなんて危なくて乗れない」とバカにしそうですので、会社の成り立ちを解説します。
「宝駿(Baojun)」について語る際には上汽通用五菱汽車については英語表記の「SAIC-GM-Wuling Automobile」を持ち出した方が会社の仕組みがわかりやすいかと思います。
上汽通用五菱汽車ゼネラルモーターズ (GM) 、上海汽車 (SAIC) 、五菱集団(現:広西汽車集団 )の3社による合弁会社として2002年11月18日に設立された会社で、創業は1958年とNIOやXpengなどの新興EVメーカーが多い中国では最も歴史のある自動車メーカーの一つです。
このグループの一社である「五菱集団(現:広西汽車集団)」は以前「佐川急便の配送用バン」を製造する会社として紹介したことがあります。
佐川急便が商用車を中国製EVにする衝撃とは?【日産(三菱)以外は終了?】
佐川急便が配送用の軽規格のEVを日本のベンチャーが企画し、中国メーカーが生産したものを導入するという衝撃の発表がありました。しかもこの中国メーカーは「Wuling HongGuang Mini EV」を販売する「広西汽車集団」です。日本市場への中国メーカーの進出が始まったことに日本メーカーは危機感を持つ必要があります。
まぁこれについても「ファブレス方式」を理解できない方々が「佐川のEVは中国製」と騒いでいますが、正確には日本のベンチャーが企画しているので日本メーカーのEVです。
それを言うなら「Appleがカリフォルニアで企画して中国(フォックスコン)が生産しているiPhoneは中国ブランドなの?」とツッコミが入ってしまいます(笑)。
話を戻すと元々は上海汽車と五菱は別の会社ですが、この2社が2001年に合併し、これにGMが参加したのは2002年からということです。
そうです、腐ってもGMとの合弁会社です。
中国で自動車を生産するには現地法人との合弁会社であることが条件(テスラは例外的にテスラ単独で許可)となるのでこのような会社になりますが、これを「所詮中国メーカーだろ?どうせバッテリーが燃えて火事になる」などとバカにしたり否定するならトヨタ・日産・ホンダなどが中国の現地法人と合弁で生産している自動車も「安全性ガー」と否定しないとアンフェアです。
なんて言ってるとそろそろ怒りが頂点に達するアンチEVの方もいるでしょうけど(笑)。
上汽通用五菱は2009年には年間販売台数100万台を突破した最初の中国メーカーとなったように中国でトップクラスの(2020年は国内4位)自動車メーカーです。
そして「上汽通用五菱」が展開するEVのブランドが本日取り上げる「宝駿(Baojun) 」と宏光MiniEVなどに見られる「Wuling」です。
つまり「宝駿(Baojun) 」ブランドの「Kiwi EV」は「宏光MiniEV」の親戚のようなイメージで捉えればいいかと思います。
ちなみに私が名古屋大学に展示されている実物の「宏光MiniEV」を見に行った際の記事はこちらをご覧ください。
宏光MiniEVを見に名古屋まで行ってきた話【日本で必要なのはこういうEV?】
名古屋大学の「C-Tec」で展示されている「宏光MiniEV」を見学しに名古屋まで行ってきました。「価格45万円から」の低価格と日本の軽自動車サイズに近いサイズから中国で最も売れているEVですが、「日本でも日常使いにはこれで十分な人が大半では?」と感じます。実物を見た感想を述べつつ、EVの普及に必要なことを考えます。
「宝駿(Baojun) 」の「Kiwi EV」のスペックや特徴は?
で、ようやく「Kiwi EV」の紹介になるのですが、グレードが「スタンダード」と「プレミア」に分かれており、価格がそれぞれ69800元(約120万)と78800元(約135万)です。
搭載バッテリー容量はそれぞれ31.9kWhで、航続距離はNEDCサイクルで305キロと、低めに見積もっても200キロ以上は走れるEVです。
この時点で100キロくらいの航続距離しかない「宏光MiniEV」と比べるとグレードが上なことはお分かりかと思いますが、普通充電専用だった「宏光MiniEV」と違い急速充電にも対応しており、電力の外部出力も可能になっています。
また「Baojun’s latest telematics 2.0 system」という最新のインフォテイメントシステムを搭載しており、ナビのなかった「宏光MiniEV」とは違い音声案内や最新の道路状況、音声対応でWeChatにも対応しています。
しかしこのEVを語る際に最も強調されるのはそんなスペック面よりも「デザイン」です。
正面には「凹型のデザイン」が2つあり、車の「ゴールデンフォトスポット(日本だと「インスタ映えスポット」と言うべき?)」になっており、寄りかかることでインスタ映えする写真を簡単に撮影できます。
実際に上海ファッションウィークでは多くのモデルがこのアングルを利用しています。
カラーリングにも特徴があり、ヤオエ、クリーム、エメラルド、クリアスカイ、ミント、ルージュの6色を組み合わせて発売しており、これらの配色はそれぞれ2つ以上の色を取り入れています。
単調な色調ではなく、従来の自動車とは違うイメージのおしゃれなデザインとカラーリングを全面に出してくるのが「Kiwi EV」の最大の特徴です。
実は私が「Kiwi EV」で強調したいのはこのデザイン、カラーと次に紹介するCMです。
車そのものよりライフスタイルに訴えかける「宝駿(Baojun) Kiwi EV」のCM
「Kiwi EV」のCMには、韓国で活動するアイドルグループf(x)のリーダーであり、中国でも女優ビクトリア(ソン・チエン)が起用されています。
中国で「ファッショニスタ」と呼ばれるソン・チエンが宝駿「Kiwi EV」のグローバルスポークスマンになり、ファッション性の高い車であることが全面に押し出されているのは、実は「宏光MiniEV」と全く同じマーケティング戦略です。
なお以前から「宏光MiniEV」の斬新なCMについては解説していますのでそれについてはこちらの記事をご覧ください。
「インスタ映え」する中国メーカーのEVマーケティング?【若い女性もターゲット】
中国で売れているEVの主な購買層が若い女性であることは日本では知られていません。ファッションや化粧品を彷彿とさせるおしゃれな広告を用いて「宏光MINIEV」や「Ora R1 BlackCat(黒猫)」などが大ヒットにつながっている秘密と旧態依然のおじさん層にしかアプローチできない日本メーカーとの違いを考えます。
日本人の目線だと「車=年齢層の高い男性のもの」のようなイメージがあるのでこのように若い女性が起用されることは珍しいのですが、中国メーカーや韓国・ヒュンダイ(ヒョンデ)などのCMを見ているとファッションブランドや化粧品などのCMと同様に若い女性を積極的に起用してきます。
「若い女性が気軽に使えるEV」というのを全面に出すという意味では韓国・ヒュンダイ(ヒョンデ)の最新のEVである「IONIQ5」についてもこのようなCMが放映されています。
これから結婚式を迎える若い女性が中心にいるだけでも驚きなのですが、よく見ると車内でドライヤーを使うなど結婚式の控室のようにIONIQ5を使っていたり(IONIQ5は車内を「リビング」と称するほど広い車内空間が売りです)、IONIQ5から給電された電力で結婚式の映像をビデオプロジェクターで再生したりとIONIQ5のEVとしての走り以外の性能をさりげなくアピールしています。
実際に韓国でのCMを見ても「IONIQ5でグランピングに行けば家電製品も使い放題」のような側面もヒュンダイ(ヒョンデ)が強くアピールしている部分ですのでさりげなくEVの持つ長所を伝えることに成功しています。
「EVなら電力が供給されるから電気の来ない人里離れた山奥へ行っても安心」と見ることもできます。バッテリー容量が小さい(24kWh)の初代初期型リーフのイメージを今も引きずっている日本人だと「EVなんて電欠が怖くて走れない」「キャンプで電力を使ったら帰れなくなる」とか騒ぎそうですが、
一応言っておきますが、IONIQ5は58kWhと72.6kWhとバッテリー容量もテスラ「モデル3」と同等クラスですので、キャンプに行って一晩電気を使ったところで電欠など絶対に起きないレベルのバッテリー容量です。
この辺りはEVに対する偏見が消えない、いつまで経っても初代初期型リーフのイメージでしかEVを捉えられない日本人とはもう別世界ですが。
しかもそれが「若い女性」の視点で語られているというのがこれまでの自動車メーカーとは一味違うところです。
「若者」「女性」をターゲットにできない日本の自動車メーカーはオワコン?
「木村拓哉も既にいい歳だよ」とツッコミが入りそうですが、日産もリーフのCMに木村拓哉さんを起用したのは日産なりには斬新なのかもしれませんが。。。
もし10年前、発売直後のリーフに起用されていれば日本のEVに対するイメージに大きな影響を与えることができたのでは?と思うとちょっと残念なところですが。
「若者」や「女性」、つまりこれから長い間自動車に乗るであろう世代を対象にEVを売り込んでいく中国メーカーと比較するといかにも「おじさん」しか見ていないような日本メーカーは「これから長い間自動車を使ってくれる世代のことを何も考えてないな」と思ってしまうところです。
EVというとなぜか「航続距離」だとか「急速充電の速度」だとか車のスペックにばかり焦点を当ててしまいがちですが、世の中の大半はそんなスペックよりも「手軽に使える車」を求めていることを忘れてそうです。
だから「安くてそこそこ使える」レベルになったら家電やスマホと一緒で売れると前から言ってるわけで。
「イメージは悪くない」欧州で聞いた中国製EVへの意外な反応(JBpress)#Yahooニュースhttps://t.co/FHwZcGbMv8— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) September 14, 2021
このようなことを言うと「スマホや家電と車を一緒にするな!」とか「スマホと違って車は人の命がかかってるんだ!」と烈火の如く怒る人があちこちからわいてくるのですが、そんなことを言っている間に最先端のハイテクEVではテスラに、本日解説してきたような格安EVの分野では中国メーカーにどんどん市場を奪われています。
「車は人の命ガー」と叫びたくなる気持ちはわからないでもないですが、「宏光MiniEV」のようにヨーロッパの安全基準に対応し「FreZe Nikrob EV」という名で販売がスタートしているのは以前の記事でも解説しました。
「宏光MiniEV」改め「FreZe Nikrob EV」ヨーロッパ上陸の衝撃とは?【激安EV】
超激安のEVとして紹介している中国の「Hongguang Mini EV(宏光MiniEV)」がラトビアのメーカーにプラットホームを提供して 「FreZe Nikrob EV」という名前でヨーロッパ市場にデビューします。ヨーロッパの安全基準を満たせばいずれ日本市場にも上陸できますので日本メーカーの脅威になります。
とはいえ以前から解説しているように日産・三菱が共同開発の軽自動車規格EV(日産「Sakura」と三菱「ek-MiEV」?)も予定を前倒しして2022年前半にも日本市場に投入されます。
日産・三菱の軽自動車EVが日本のEV事情を変える?【2022年上半期に発売】
当初2023年では?と言われていた予定をかなり早めて日産・三菱が共同開発の軽自動車規格のEVを2022年初頭に発売すると発表しました。200万円を切る低価格、航続距離も150-200キロで日常の買い物や通勤がメインの使用であれば全く問題なし、V2Hも搭載されて蓄電池としても活用できる期待のEVについて解説します。
こちらは日本の軽自動車規格に合わせてないがゆえに軽自動車のサイズから若干外れてしまっている「宏光MiniEV」などとは違い日本独自の規格である軽自動車サイズです(当たり前ですが)。
まだ中国メーカーが「日本の軽自動車市場」に照準を合わせたEVを発売していない段階ですので日本メーカーが付け入る隙は(軽自動車なので日本市場限定ですが)あるとは言えます。
「若者の車離れ」だとか言われていますが、今でも地方都市などではそのように車に興味ないと思われる「若者」や「女性」でも生活の足として自動車が必須なことは何も変わっていません。
本来であればこの層に訴えかけるCMを用意して、「若者や女性が興味を持つEV」というのも販売すべきなのになぜやらないのだろう?というのは日々疑問に感じるところです。
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