「トヨタ ミライ」と「フォルクスワーゲンId3」に見える電気自動車に対する姿勢の違いとは?
こんばんは、@kojisaitojpです。やはりこの会社はいわゆる「電気自動車」以外のものを出さないと気が済まないようです。
トヨタ、FCV「ミライ」をフルモデルチェンジ FRへ変更して車格アップ 航続距離850km実現 710万円から|自動車メーカー|紙面記事
新型ミライ
トヨタ自動車は9日、燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を全面改良して発売した。プラットフォームや駆動方式、FC関連部品を刷新して走行性能を高め、車格も向上させた。日本を皮切りに北米や欧州で…
水素燃料電池車については「電気自動車化が進む世界の流れの中では普及しない」というのが私の見解なのですが、メディアの報道を見ると予想通り絶賛する記事ばかりです。
トヨタの2代目FCV新型ミライは、走れば走るほど空気がきれいになる!? | clicccar.com
■自動運転支援システムの「Advanced Drive」、自動駐車支援システムの「Advanced Park」も設定 2020年12月9日に発表された、FCV(Fuel Cell Vehicle/燃料電池自動車)の新型トヨタMIRAI(ミライ)。
電気自動車にしろ、水素燃料電池車にしろ、それを作るための環境への負荷、電力や水素を作るための環境への負荷を考えるとあれこれ言っても仕方ないと思うのですが、とりあえず「トヨタのやることは褒めとけ」状態です。
そもそも「710万円」という車両価格自体が高すぎる、これでは普及しないと指摘する評論家すらロクにいないという状況に呆れてしまいますが、これも以前から述べている「車メーカーからの広告料に収入を依存するマスコミ」「車メーカーから新車の試乗や情報提供などの便宜を受けている自動車評論家」の影響でしょうか。
もちろん補助金などを駆使すればここから200万(東京都の場合更に100万)くらいは割引で買えるのですが、これでも400〜500万ですので、まだまだ高級車です。
今日は新しい技術を高級車として売り出そうとしているトヨタと、日本導入は2022年予定ですがヨーロッパでは来年「ID3」という廉価版の電気自動車を発売する予定のフォルクスワーゲンを比較してみます。
この前の記事ではいわゆる「電気自動車(BEV)」と水素燃料を使って発電する「水素燃料電池車」を分けて説明しましたが、今回はどちらも電気のみで走行するという意味で「電気自動車」という一つの枠の中で扱います。
目次
「フォルクスワーゲン=大衆化」「トヨタ=高級化」の電気自動車
電気自動車化をものすごいスピードで推し進めている、世界最大の自動車販売台数を誇るフォルクスワーゲンでは、「ID.3」と「ID.4」という電気自動車専用のネーミング「IDシリーズ」のリリースを発表しています。
まだ日本では「e-ゴルフ」しか電気自動車が発売されていないのでピンと来ないかもしれませんが、「e-ゴルフ」があくまでもガソリン車のゴルフの車体をベースに作られていたのに対し、「ID.3」「ID.4」は電気自動車専用のプラットフォームで作られています。
エンジン車で前輪駆動(FWD)を主体としてきたフォルクスワーゲンですが、合理的な車両構成を追求するに際して、EVでは後輪駆動に変化しています。
またモジュールと呼ばれる電気自動車においてバッテリーを積むスペースが、電気自動車専用の設計ゆえに確保するのが容易であり、ユーザーの必要に応じてバッテリーの小さいモデルから大きいモデルまで選べるようになっているのも特徴です。
長距離を走ることが多い人は大きいバッテリーのモデルを、短距離が多い人は小さいバッテリーのモデルを購入することでコスパも良くなります。
まぁバッテリーに関しては大きければ良いというものでもなく、充電設備次第では小型のバッテリーでも急速充電が充実すれば問題なく使えるのですが、バッテリーと充電の問題はまたの機会にお話しします。
フォルクスワーゲン社では2021年から年間最大33万台、2028年までに全世界でおよそ2200万台のEVを販売する方針を打ち出していますが、最初のモデルが「ID.3」となっているように「3」という数字に意味を持たせているのが特徴です。
「3回目の幕開け」という意味のようです。
これはドイツにおける車の歴史と関連していて、一度目の幕開けとは、ヒトラーの国民車構想によってに生み出されたVWタイプI(ビートル)のこと、二度目は1974年に生まれたVWゴルフのことを指します。
車に詳しくない人でも「ビートル」「ゴルフ」が車の名前なのはわかりますよね?
ドイツの「国民車」としてのみならず、世界の車社会をリードしてきた「ビートル」や「ゴルフ」を受け継ぐというのが、ID.3というわけです。
実際に車両のサイズは現行のゴルフ8とほぼ同じです。
トヨタも「カローラ」を電気自動車にするくらいのことをすれば対抗できるでしょうが。
2019年11月に、ID.3の生産開始を祝う式典で演説したドイツ首相メルケル氏はこう演説しました。
「いま私たちは、まさにモビリティの新しい未来の途上にあります。EVがビートルやゴルフのように誰もが手に入れられるような存在になる。まさしく“国民車”(ドイツ語でフォルクスワーゲン)になるのです」
電気自動車の「大衆化」、要は一般市民にも十分購入可能な水準に価格が下がってこそ普及率は爆発的に上がります。
現に中国では、我々の感覚ではあり得ないような格安の電気自動車が次から次へと発売されています。
45万円で9.3kWh〜中国の電気自動車『宏光MINI EV』が発売早々大ヒット中 | EVsmartブログ
中国の上汽通用五菱汽車が2020年7月末に発売した電気自動車『宏光MINI EV』が中国で7348台の大ヒット、初登場でテスラモデル3に次ぐ2位となりました。ベースグレードの価格は約45万円で9.3kWhのバッテリー容量です。
実際どのくらいアテになる車なのかはわかりませんが、誰もが気軽に買えるという点では間違いなく普及率の向上に貢献します。
これに対し冒頭でも述べたようにトヨタが新しく発表した「ミライ」の新モデルは高級車価格。他にもレクサスのEVも発表していますが、これも高級車。
電気なのか水素なのかはおいておいても、「価格」という面で両社は逆の方向を向いています。
中古価格は「激安」の高級車「ミライ」
高級車並みの価格で売り出しているトヨタの水素燃料電池車「ミライ」ですが、実は初代の「ミライ」は中古車市場で暴落しています。
このように新車で700万くらいした車がわずか数年で100万円代に落ちています。まぁ肝心の水素ステーションが電気自動車の充電施設より更に普及していないので当然といえば当然ですが…。
電気自動車のはるか上を行く航続距離800キロを誇るとはいえ、この前お話ししたような水素ステーションの状況だと誰も買う気にならないのが現実です。
「電気自動車(EV)VS水素燃料電池車(FCV)」で日本勢に勝ち目はあるのか?【結局ガラパゴス】
トヨタを中心に電気自動車に対抗できる車として「水素燃料電池車」の開発が行われています。確かに日本の技術力を生かした革新的なものになりそうではあるのですが、世界の流れが電気自動車にシフトしている中で対抗する勢力になれるのでしょうか?失敗するとガラパゴス化することが目に見えている水素燃料電池車について解説します。
これに対し先ほど例に出したフォルクスワーゲンのID.3のドイツでの価格は、ベースモデルのピュア(45kWh、航続距離330km)で3万ユーロ(約358万円)以下となっており、これは日産リーフS(40kWh、航続距離322km)に近い価格です。
この価格にドイツでは約110万円の補助金が出ますので、250万くらいまで新車価格が下がります。この水準になると普通のガソリン車と大差がない水準になりますので誰でも気軽に電気自動車を買おうという意欲が出てきます。
(そういう意味ではリーフの価格が徐々に誰もが手の届く価格に近づいている日産は、現実が見えているかもしれません)
まぁフォルクスワーゲン社は日本市場では謎に強気な販売価格で来ることが多いので、この「ID.3」も500万とか意味不明に高い価格で販売しようとする可能性も否定できませんが(笑)。
水素ステーションの設置も進んでいない、しかも高級車並みの高額の価格で将来の主力と位置付けている「ミライ」を出してくるトヨタの姿勢を見る感じだと「本気で普及させたいの?」と思ってしまいます。
なぜ電気自動車を日本の車メーカーは嫌がるのか?【既得権益?】
世界の自動車の流れが電気自動車にシフトしている中で、なぜ日本の自動車業界だけはハイブリッドを中心とした「エンジン」のある車にこだわるのでしょうか?実は「エンジン」から生まれる数多くの部品メーカーや整備工場、ディーラーなどのネットワークがあり、これらが自動車メーカにとって「既得権益」となっている背景があります。
やはりこの前の記事でもお話ししたように、今の自動車産業のネットワークをなるべくなら破壊したくないと腰が引けているような印象です。
「昔はよかった」では済まない日本の自動車産業の危機
新しいものが出てくる時、「あれが足りない」「これも足りない」と半ば揚げ足取りにも近いような批判をして、新しいものを受け入れようとしない姿勢で来る人が必ず一定数います。
ヤフコメで電気自動車がボロクソだからこれからは電気自動車の時代だと確信した(笑)
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) December 10, 2020
わざとヤフコメを揶揄するような言い方をしていますが、実際にYahooニュースについているコメントを読むと「これいつの時代の話なんだろう?」「それは昭和の頃の話じゃないの?」という時代錯誤、時代遅れのコメントをたくさん見ることができます。
日本の最大の産業である自動車産業の、部品メーカーも含めた産業構造を根本からひっくり返し、多くの会社の倒産と雇用が失われることがほぼ間違いないくらいの革命をもたらすのが電気自動車ですから、それだけ「抵抗勢力」も強力なのがわかります。
ですが繰り返し繰り返し言っているように、先ほどのフォルクスワーゲン社を筆頭としたヨーロッパ、自国の自動車産業がほぼ全て電気自動車の中国、テスラの母国でありバイデン政権の誕生により今以上に電気自動車に舵を切ることが濃厚なアメリカと世界の流れが「電気自動車」にシフトしている中で、日本だけ「内燃機関(エンジン)」のある自動車にしがみつくことはできません。
日本の自動車メーカーの車が海外で一切売れなくなれば、自動車産業自体の終了を意味します。
「充電設備が足りない」などの電気自動車に対するお決まりの批判も乗る人が増えれば自然と今あるガソリンスタンドの数くらいに整備されます。
「充電設備探すより、ガソリンスタンド探す方が大変」という時代がすぐそばまできているかもしれません。
というかそのくらいの変化を受け入れないと日本が世界から孤立した「ガラパゴス」になって没落してしまいます。
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