冬恒例の電気自動車(BEV)は「寒さに弱い」「立ち往生したら凍死」は本当?【ノルウェーを見ろ】
こんばんは、@kojisaitojpです。冬になると、特に「大雪警報」などが出るとEVを巡って必ずと言っていいほどこのネタで賑わいます。
EVの自宅充電、北国ではケーブルが凍るので使えないのでは?とご心配していただく方がいらっしゃり、ご迷惑をお掛けしてあります。テスラの充電ケーブルは−12℃でも、ご覧の通りの屋根のない環境での大雪でも、問題なく快適に利用してきました。ご安心ください😊 pic.twitter.com/NFZMUUn0RQ
— 谷地一博 (@sivadxxx) December 23, 2021
北海道で鍼灸院を経営されている方(実は私の実家のすぐ近所だったりもするのですが)が実例を披露してくれています。
今日は毎年冬になるとネット上で必ず誰かが言い出す「電気自動車(BEV)は寒さに弱いから雪国では使えない」のような批判が真っ赤な嘘であることについて解説したいと思います。
なおこのネタについては去年の冬も取り上げており、「EVが寒さに弱いのは本当か?」については以前も記事にしてますので、こちらも合わせてご参照いただければと思います。
電気自動車(BEV)は本当に寒さに弱いのか?【寒さ対策あり】
雪で身動きが取れなくなるような災害が起きると「電気自動車じゃ凍え死ぬ」ような批判を持ち出してくる人がいますが、実は電気自動車でも長い時間暖まりながら耐えることは可能です。世界で最も電気自動車化が進んでいるノルウェーは日本より北にあり、北海道・東北のような気候でも電気自動車化に成功してるという事実を忘れてはいけません。
また同様に2021年の初頭に本来なら温暖で雪とは無縁のアメリカ・テキサス州に猛烈な寒波が襲った際にもEVと太陽光パネルを備えた住宅が無傷だったという事実に触れた記事もありますので合わせてご参照いただければと思います。
寒さに強いのが「電気自動車」と「再生可能エネルギー」?【日本では逆走中】
2021年2月19日現在、テキサス州でこれまで想定しなかった寒波が襲来し、送電線が凍結するなどの理由で州の大部分が停電に見舞われています。そんな中でテスラの太陽光発電とパワーウォール(蓄電池)を装備した家庭では非常時の電源として機能し、寒さに凍えずに済んでいます。このことが示唆することを日本の文脈でも考えてみます。
目次
「雪国」のノルウェー・スウェーデンでもEV化率は非常に高いのは「寒さに強い」から?
「EVは寒さに弱いから雪国では乗れない」「大雪で立ち往生したら凍死する」などとTwitterやヤフコメなどで叫んでいる人々は「同じく雪国であるノルウェーやスウェーデンなどの北欧が最もEV化の進んだ地域である」ことを知っていて言ってるのでしょうか?
上記のグラフを見ての通り、ノルウェーはヨーロッパの中でも、いや世界でもトップのEV化率ですし、ノルウェーの隣国スウェーデンもヨーロッパでトップクラスの高いEV化率です。
本当に「大雪で立ち往生したら凍死する」「EVは寒いと航続距離が大幅に減るから雪国には不向き」だったらこの数字は絶対に出ないと思います。
「ノルウェーやスウェーデンなんて冬の北海道より暖かいんだから当然だろ!」などと怒り出す人が現れるのですが、北海道・ノルウェー・スウェーデンの現在の気候を比較するとこんな感じです。
これが北海道札幌市の気候です。深夜にスクショしたものなのでこの後アップするノルウェー・スウェーデンはまだ夕方だということも忘れないで見ていただきたいです。
ノルウェーの首都・オスロですが、これでもノルウェーの都市では最も暖かい方です。
こちらは冬季オリンピックを開催(1994年)したこともあるので日本人でも名前だけは知っている方が多いと思われるリレハンメルの気候ですが、リレハンメルでノルウェーの中部です。
リレハンメル辺りで札幌市と大差がないレベルです。これ以上北上すると北極圏が目の前になるので更に寒くなります。
スウェーデンも見てみましょう。
スウェーデンの首都ストックホルムの気候ですが、ストックホルムは南部にあるのでこれでもスウェーデンでも比較的暖かい都市です。
スウェーデン中部の都市ウメオでこの程度です。既に札幌市と大差がない気候ですのでこれより北部へ行くとどうなるかは言うまでもない話です。
まず気候面でノルウェーやスウェーデンと北海道が大差がないことを確認した上で、次に電気自動車(BEV)の性能が低下すると言われる理由を検討します。
冬に電気自動車(BEV)の航続距離が減少する理由は?
「EVは寒さに弱い」などと言われる際に用いられる根拠は以下のような点が挙げられます。
- スタッドレスタイヤ使用による転がり抵抗の増加
- 低温による空気密度の上昇から生じる空気抵抗
- ヒーターの使用
- 寒さによるリチウムイオン電池の性能低下(回生ブレーキが効かない)
- 寒さによるリチウムイオン電池の性能低下(充電性能の低下)
などの理由が挙げられますが「上3つはガソリン車でも同じじゃないの?と思いますよね?
まぁ「ヒーターの使用による燃費(電費)の悪化」はガソリン車の場合はある程度の低温までは「エンジンを回したことによる排熱」で暖めますので燃費に影響は出ませんが。
ですがこれもマイナス10度などかなりの低温になった場合は排熱だけでは十分暖めることができなくなるので燃費にも悪影響が出るのは、雪国でガソリン車に乗られている方にもご納得いただけると思います。
「スタッドレスタイヤによる転がり抵抗の増加」や「低温による空気密度の上昇による空気抵抗の増加」については当然ですがEVだろうがガソリン車だろうが全く同じように発生します。
例えば日産リーフの場合は冬になると航続距離が3割くらい減ると言われていますが、ガソリン車でも同じように燃費は悪化します。
そうなんです、実は「寒さで航続距離が短くなる」というのはEVだろうがハイブリッド車だろうがガソリン車だろうが一緒なのです。
だから「EVが寒さに弱い」というのは不正確な言い方で「EVもガソリン車もハイブリッド車も寒さに弱い」のが本当の姿です。
次にEV固有の「寒さに弱い」部分について触れますが、「寒さによるリチウムイオン電池の性能低下」から来る「回生ブレーキが効かない」ことと「充電性能の低下」ですが、実はこれについては克服されつつあります。
オクトバルブとBMS(バッテリーマネージメントシステム)を用いるテスラのイノベーションとは?
テスラがモデルYから投入した「オクトバルブ」という独自の温度管理システムについて解説します。「BMS(バッテリーマネージメントシステム)」によってバッテリーの温度調整の成否が電気自動車の航続距離やバッテリーの寿命も左右する電気自動車の要のシステムにイノベーションをもたらすことで、テスラが更に進化したことがわかります。
このような「BMS」や「オクトバルブ」を用いた「熱管理」の優秀さが実はテスラの大きな武器であることは意外に知られていませんが、温度管理次第で「リチウムイオン電池」の性能悪化は食い止めることができます。
ですので「EVは冬になると性能が低下して走れない」のようなことを言う方々は、BMSが搭載されていない(自然空冷式)上に電費が著しく悪化するPTCヒーターを搭載した初代初期型リーフ(ZE0)のことしか頭にないのかな?と思うところです。
なお、低温下でも使える車載ヒートポンプは、デンソー&豊田自動織機が2017年に開発しています。https://t.co/vkgMisqpeN
昨今は家庭用でも、寒冷地用エアコンがありますね。— Keiichiro SAKURAI (@kei_sakurai) September 11, 2021
低温下でも問題なく使えるヒートポンプ式のヒーターを開発していたのがデンソーと豊田自動織機というのが私個人としては笑ってしまうところなのですが、EVの悪口を言っている方々はこの事実を知っているのでしょうか?
ちなみにハイブリッド車でもこの高性能なヒートポンプは2018年以降発売のプリウスPHVにも搭載されています。
>また、ずっとエアコンの消費電力はこうではなく、暖まってきたら(?)出力を落としてくれたりしているようです。
先代リーフでもオートエアコンで設定温度に達したら消費電力は減って航続距離への影響も最小限で済むと言うのに……
EVは豪雪時の立ち往生で凍死するとか“未だに”宣ってる奴何なん? https://t.co/Eg73fO5nzf— takuya.82@日本人の島国根性に闇堕ち (@takuya8212) December 22, 2021
このような技術の進化を調べもしないで「EVは寒さに弱いから雪国では乗れない」などと言ってしまうのは、EVに対する批判を超えた誹謗中傷になってしまいます。
実は「寒さで凍死」「立ち往生して凍死」する確率が高いのは電気自動車(BEV)よりガソリン車?
このように「EVでもガソリン車でも同じように寒さに弱いよ」という指摘をしても必ず現れるのが「でも大雪で立ち往生した時にガソリン車はいつでも給油できるけど、充電できないEVだと凍死するだろ!」と怒り出す人々です。
このような方々は「一酸化炭素中毒」という言葉を知らないのでしょうか?
一酸化炭素中毒ってことはガソリン車だろ?
米テキサス州で続く寒波と停電、物資の不足や一酸化炭素中毒も 全米で37人死亡 https://t.co/NMvnunCA3N @cnn_co_jpより— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) February 19, 2021
立ち往生するほどの大雪でエンジンを回してヒーターをつけていると、ガソリン車の場合はマフラーが雪で埋もれます。仮眠を取ろうと眠ってしまおうものなら一酸化炭素中毒で永眠してしまうリスクがあります。
つまりマフラーが雪で埋まらないように常に外に出て除雪をする必要に迫られるので寝る暇がない(複数人乗ってる時は最低1人は起きてる必要がある)です。
帰り吹雪いてたけどモデル3は安心感ある。テスラは雪道も似合うな😄 pic.twitter.com/FFb4WNdUeX
— ティモj (@timoSgt) December 23, 2021
車内で待機していてこのくらい雪に埋もれるとガソリン車・ハイブリッド車ではマフラーが雪で埋もれてしまい、除雪をしないとほぼ間違いなく一酸化炭素中毒になります。
ですが排気ガスの存在しない電気自動車(BEV)であればそんな心配は一切不要、少なめに見積もっても24時間くらいはヒーターとシートヒーターを併用すれば車内に閉じこもっていても凍死の心配も一酸化炭素中毒の心配もありません。
JAFより:ガソリン車とEVが立ち往生した場合の実験
ガソリン車は僅か1分24秒で一酸化炭素濃度が危険な水準に達した一方、EVは60分経っても(一酸化炭素はもちろん)二酸化炭素濃度も安全な範囲内で推移。
そして最新のEVならエアコンもガソリン車より長く使用可能。
さて安全なのはどちらでしょう? pic.twitter.com/tBhjno0kjh
— 🌸八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) December 23, 2021
このようにJAFの実験でも電気自動車(BEV)の方が安全だということが証明されています。
既にガソリン車同様にEVも「給電」が可能に?
それでも納得がいかないアンチEVの方々は次に「ガソリンはいつでも給油できるけどEVは〜」という批判をしてきますが、実はこの批判も徐々に当てはまらなくなってきています。
NEXCO中日本が今冬の新たな取り組みとして打ち出したもののひとつが、EV(電気自動車)への充電対応です。可搬式のEV充電器28台のほか、トラックに発電機と蓄電池、充電器を搭載した「電気自動車急速充電車」を1台配備。後者については特許も出願しています。 https://t.co/ANgUyDVfHW
— Konan (@konantower) December 15, 2021
また最近のEVではこのようなことも可能になっています。
Ford F-150 Lightning can charge other EVs – Drive Tesla https://t.co/7kkOd0ZlBD
— Sawyer Merritt (@SawyerMerritt) December 21, 2021
現在アメリカで予約が20万台を超え、ガソリン車のF-150に迫る勢いのフォードのEVピックアップトラック「F-150Lightning」ですが、EVからEVへの充電が可能な仕様になっているようです。
他にも「外部給電」という意味で評判のヒュンダイ「IONIQ5」も「EVからEVへの給電」が可能であることが指摘されています。
やはりIONIQ5はEV間の充電が可能なようだな。https://t.co/4lOcpsVuUF
— saito koji@2022はぴあアリーナ→バルセロナへ (@kojisaitojp) December 25, 2021
給電機能があるEVでも現時点では「EVからEVへの給電」が可能な車種はまだ少数ですが、今後「V2H」「V2G」などが広まって「EVを蓄電池として活用する」という側面が広がってくると他のEVへの給電すら可能な車種は間違いなく増えると思われます。
給電機能のあるレッカー車が増えて、EV同士の給電が可能になれば「ガソリンはいつでも給油できるけどEVは」という批判が当てはまらなくなります。
「電気自動車(BEV)の方がガソリン車より寒さに弱い」「立ち往生したら凍死」は真っ赤な嘘?
それにそもそも「ガソリンを携行缶」に入れること自体が徐々に不可能になってきています。
携行缶へのガソリン販売中止 栄月スタンド(福井県)(FBC 福井放送)#Yahooニュースhttps://t.co/YUJiA5meSY
— マイクー (@uuzin9MAkLtddUF) December 21, 2021
これは先日の大阪のビルでの放火(偶然すぐ近くのホテルに私が宿泊してたことは先日記事にしました)を受けてこれまで以上に「ガソリンを携行缶に入れて販売する」ことにガソリンスタンド側が慎重になっている、お店によってはどんな理由があろうとも禁止する方向に進んでいるようです。
そもそそガソリンは非常に揮発性が高いので素人が携行缶から給油しようとすると、ちょっとしたミスで簡単に引火して火事になってしまう危険な物質です。
実は犯罪に悪用されるされない以前にガソリンスタンド側が携行缶への給油を断る動きが以前から見られます。
つまり以前であればガソリン車の側にアドバンテージがあったことも徐々に消滅してきています。
それにガソリン車であろうとEVであろうと大雪の中でドライブする際には事前にしっかりとした準備をして出かけることはリスクマネージメントという意味で必須です。
冬の車内閉じ込めのケース、EVだろうとガソリン車だろうと、命の危険があるのですから、食糧の補給などで救助が車まで辿り着ける状態なら、籠城ではなく出来るだけ早く救助してもらうべきですし、コンビニやトイレまで自分で歩けるなら車は置いて避難、北欧の人はそれが鉄則だと言います。 https://t.co/6HaU4fRSa1
— HIRO MIZUNO (@hiromichimizuno) December 22, 2021
「命の危険があるのですから、食糧の補給などで救助が車まで辿り着ける状態なら、籠城ではなく出来るだけ早く救助してもらうべきですし、コンビニやトイレまで自分で歩けるなら車は置いて避難」という当たり前の危機管理をすることが「大雪で立ち往生して凍死」を避けるためには必須なのではないでしょうか?
そこに「ガソリン車だから」「電気自動車(BEV)だから」というのは関係ないことだと思います。
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