「Blade Battery(LFPバッテリー)」を持つBYDが最も怖い中国メーカー?【EVバスはとっくに日本上陸】
こんにちは、@kojisaitojpです。今日はアフリカがテーマではないのですが(月イチくらいは取り上げますがさすがにそこまでネタがないです)、「BYD」「ケニア」という単語に反応してしまったので記事を書くことにしました。
BYDがジンバブエに続いてケニアにもEVを投入。
META Electric Starts Leasing BYD T3 Electric Vans In Kenya – https://t.co/dCQYSpoTit— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 4, 2021
先日「ジンバブエで販売開始」というのは私も記事にしましたが、ジンバブエに続きアフリカで二ヵ国目の上陸です。
以前の記事でも明らかにしたようにケニアは元々「地熱発電」が盛んな国で、総発電量の85%を地熱発電と水力発電などでまかなう再生可能エネルギー大国なのですが、ここにBYDが進出というのが衝撃です。
というのも先日のジンバブエに続きケニアも「右ハンドル」の国です。日本メーカーがEVを本格展開しない間に中国メーカーが…という最近よく見る光景です。
オーストラリアとニュージーランドにも2021年中には輸出すると発表されていますので、右ハンドル車の準備はできています。乗用車で日本市場に乗り込んでくる日も目前でしょう。
今日はそんなBYDの魅力の一つであるバッテリー技術(LFPバッテリーとBladeバッテリー)について解説しながら、「ハイスペック」にこだわる日本メーカーが実は不利という点について説明したいと思います。
目次
乗用車よりもEVバスで世界シェアを拡大中のBYD
中国のEVメーカーというと交換式のバッテリーや「NIOハウス」のサービスで有名なNIOや、私も何度も取り上げている世界最安の格安EVである「宏光MiniEV」などの方がインパクトがあるので注目されやすいですが、BYDも堅実にシェアを伸ばしています。
実際に2021年3月の世界のEV売り上げ台数でも「テスラ・モデル3」「Wuling HongGuang Mini EV」「テスラ・モデルY」についで世界4位の売り上げを誇る「BYD・Han」があります。
以前も取り上げましたが、BYDの場合は乗用車よりも「EVバス」で世界各国に輸出をしていることの方が有名で、少し前で世界50カ国と言っていましたが、今だともっと増えているかもしれません。
「BYD」の電動バスが世界中でシェア拡大中?【バスも日本オワコン?】
乗用車のみならずバスの分野でも電気自動車化は進んでおり、実は中国の「BYD」の電動バスが世界中でシェア拡大しており、日本のバス会社にも導入されています。路線バスだと運行する区間も決まっており、バスを電動化することは乗用車よりも簡単ですし、整備や燃料代がかからなくなることから今後どんどん普及する可能性が高いです。
日本にもEVバスが上陸しているのは上記の記事でも述べた通りです。
また意外なところでも先日名前が出ました。
先日のトヨタ「BZ4X」について書いた記事でも触れましたが、トヨタが中国市場で販売する予定のEVにバッテリーを供給するのもBYD(別にCATLという説もある)です。
サプライヤーに名を連ねている以上、仮に今回の「BZ4X」でバッテリーを供給しない場合でもその後のEVでは必ず顔を出してくると思われます。
車載用バッテリーで世界でトップ5に入る世界シェアを誇ると同時に自社でもEVを生産しているというのがBYDの強みです。
その強みの最大の要因が自社で生産する「LFPバッテリー」と「Bladeバッテリー」で、これが発展途上国にも格安で輸出できる秘密なのですが、これについては次の項で説明します。
レアメタルを使用しない「LFPバッテリー」と欠点を補う「Bladeバッテリー」が武器のBYD
まず「LFPバッテリー」についてですが、これは「正極素材にリン酸鉄リチウムを使用しており、三元系のリチウムイオン電池に比べ、エネルギー密度が少なく低温時に性能が低下しやすい弱点があるものの、低価格で安全性が高く、長寿命でコストパフォーマンスが高い」というのが特徴のバッテリーです。
もちろんBYD以外のメーカーも手掛けており、例えば先日の「Power Day」において今後のEV化戦略について発表したフォルクスワーゲングループでも廉価版の車種には「LFPバッテリー」を使用し、バッテリーの調達価格を50%下げることが可能とアナウンスしています。
またテスラもギガ上海で生産されたモデル3(スタンダードレンジプラス)にもLFPバッテリーを使用(CATL製)していることでも話題になりました。
各社で共通しているのは「レアメタルであるコバルトを使わないゆえにコストダウンが可能」という点です。
ただしフォルクスワーゲングループでは廉価版の車種のみ、テスラは現時点ではモデル3のスタンダードレンジプラスのみと限定して用いています。
BYDが驚異なのは「全車LFPバッテリーで低コスト化」という方向に舵を切ってきている点です。
冒頭でアフリカへの輸出がスタートしている件に触れましたが、たとえ高性能でも車両価格が高くなるEVであれば発展途上国ではまず売れません。
廉価なLFPバッテリーに特化したBYDが最も強さを発揮するのはアジアやアフリカなどの発展途上国の市場、そして相変わらずデフレマインドから脱却できず「安くしろ安くしろ」とメーカーや販売店に値下げ圧力をかけ続けるユーザーが大半の日本市場かもしれません。
ただしBYDもNMCバッテリーなどと比較して性能的に劣るLFPバッテリーを「安かろう悪かろう」で販売するわけではありません。
それが「Bladeバッテリー」という独自の技術です。
従来型のバッテリーパックはバッテリー単体をバッテリーモジュールに、バッテリーモジュールをバッテリーパックにという工程で製造されますので、大量の構造部品を用いて連結や固定を行う必要があり、その空間利用率は40%に留まると言われています。
いわば「無駄なスペースが多い」のです。
これに対しBYDでは先ほどのLFPバッテリーを長さ2メートルにまで引き延ばし、厚さを13.5ミリに抑えています。そしてバッテリーをモジュール化せずにバッテリーパックにまで仕上げ、結果的に空間利用率を高めているのが特徴です。
利用している空間の堆積を50%増加させることに成功したとBYD側が発表していますが、50%搭載できるバッテリーの容量が増えるということは50%航続距離を伸ばすことが可能になるということですから大きな進歩です。
これまでの三元系リチウムイオンバッテリーの欠点は熱安定性に欠けることであり、発火事件が残念なことに時々起きます。これに対してリン酸鉄リチウムイオンバッテリー(LFPバッテリー)は熱安定性が強みで、安全性(つまり燃えないということ)が高いのもメリットです。
「EVはバッテリーが爆発するんだろ?」的なEVに対して野次を飛ばしてくる人々が叩ける材料がまた一つ解消されます(笑)。
それで「安い」となればいずれ日本市場でBYDの電気自動車が売れる可能性が大いにあります。
「ハイスペック」だったら売れるというのが日本人の勘違い?
BYDは中国メーカーの中では地に足がついた堅実な動きをする会社ですので、EVバスを普及させて受け入れられるとの確信が得られないとすぐには日本市場に投入してくることはないでしょうが、格安の「LFPバッテリー」と欠点を補う「ブレードバッテリー」で来ることは間違いないので価格的に日本勢は太刀打ちできない可能性が高いです。
まぁBYDが進出してきたら「LFPバッテリーなんて技術的には全然大したことない」とエラソーに言うシーンまでは目に浮かぶ(笑)
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) May 2, 2021
この展開は最近の日本での猛烈なEVに対する攻撃を見ていると予想つきますよね。
「LFPなんかよりも全固体の方が全然性能がいい」「LFPくらいの技術だったら日本メーカーなら今すぐでも作れる」のような批判というか相手を格下に見たような驕りのようなコメントがヤフコメなどを埋め尽くす光景が想像できます。
昔、中国や韓国メーカーの格安の液晶テレビなどが上陸した頃も言われてましたよね「日本製の方が全然質が上だ」とか云々。
結果はどうでしたか? 性能で勝る日本メーカーの液晶テレビは中国メーカーや韓国メーカーの格安の液晶テレビに完敗でした。
どんなに性能が良くても世界シェアを取れない商品は負けます。
皮肉にも液晶テレビで世界トップクラスの品質を誇ったシャープは台湾のホンハイに買収され、しかも買収された後は経営が立ち直るという更に皮肉な結果になっています。
「性能が良ければ売れる」ではないという視点が欠けていたようです。「性能が良くても高すぎると売れない」というのが正解だったようです。
同じように考えるとBYDの「LFPバッテリー」とその欠点を埋める「ブレードバッテリー」の組み合わせが安価なEVとして世界中に受け入れられる可能性はそれなりに高いと思います。
テスラ車のような高額のEVをアフリカやアジアの発展途上国に普及させることは困難(ごく一部の富裕層は買うでしょうが)である代わりにBYDや冒頭でも触れた「Wuling HongGuang Mini EV」や「Ora BLACkCAT」のような中国製の格安EVが世界の市場を席巻する可能性は見逃せません。
アフリカの右ハンドル国が典型ですが、これまで日本の中古車が大人気だった市場が中国メーカーに食われた時は、アメリカ・ヨーロッパ・中国のような主要マーケットとはまた違う衝撃が走るかもしれません。
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