「タイが2035年から全車EV化」が与える衝撃とは?【新興国・発展途上国こそEV化したがる?】
こんばんは、@kojisaitojpです。EVのことをある程度理解していると「あぁついに始まった」という感想なのですが、EVに関心のない人から見れば衝撃のニュースなのでしょう。
衝撃的なニュース。自らも自動車生産拠点であるタイが、2035年までに新車販売を全てEV(プラグインハイブリッドを含まない)に切り替える目標を決定した。今後は補助金や充電インフラの整備を急ぐ。タイのような新興国が先進国と同じ目標を掲げるのは初めて。https://t.co/ZcU6cvuMzW
— Kenji Shiraishi (@Knjshiraishi) April 24, 2021
タイが2035年に全ての新車販売をEV(しかもPHEVも除外)と、先日のホンダの2040年(これについては別の機会に記事にします)より更に早く国全体を電気自動車に切り替えるというプランを発表してきました。
これに対する反応は「発展途上国や新興国なんか電気がロクに通ってないのに無理」「どうせ失敗する」的な反応が多くて「随分新興国や発展途上国を見下しているな」とヤフコメなどを見ていると思いました。
でも実際に発展途上国や新興国が電気自動車を中心にやっていくことは不可能なのでしょうか?
以前もアフリカの国を取り上げて「不可能ではない」という記事を書いたことがありますが、今日はその後出てきた情報も合わせて「実は変な既得権益がある先進国より簡単にEV化できるかも」という話をしてみます。
目次
新興国で初の「2035年からEV化」を発表したタイ
これまで「〜年以降はEV以外の新車販売禁止」を打ち出してきたのは2025年からのノルウェー、2030年からのイギリスを筆頭に比較的経済水準の高い国でした。
今回のニュースが衝撃的なのはタイのような新興国でも電気自動車に積極的にコミットしようという姿勢が見られるようになったということです。
新興国・発展途上国での日本車のシェアは非常に高く、市場規模は東南アジアではマレーシアに次ぐ規模であり、販売台数の約 9割を日本車が占めていた時期もあるのがタイの自動車市場です。
実際にトヨタ・日産・ホンダ・いすゞと複数の日本メーカーが現地に工場を持って生産しています。
これは2018年のタイにおける自動車シェアですが上位を日本メーカーが独占しています。
これが「EV以外の新車販売禁止(ハイブリッドもPHEVも不可」となったらどうなるでしょう?
既に電気自動車を販売している日産や最近になって2040年までに全車EV化を発表したホンダであればどうにか対応できるかもしれません(もちろんバッテリーの調達が追いつくか?などの懸念材料はありますが)。
「電動車」というインチキカテゴリー作らせておいてまだ不満言うわけか。こいつ何様のつもりなんだよ?
「脱炭素」と「EVシフト」で崖っぷち…社長が口走った「トヨタが日本から出て行く日」 @moneygendai https://t.co/H5LUukrc82 #マネー現代— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 25, 2021
このように「EVはエコではない」「EV以外にも多様な選択肢が必要だ」と今になっても主張していて(しかも「多様性」という割にEVだけは全然やる気がない)、「国が協力してくれない」など様々な理由をつけてEV化を拒否している企業はどうなるのでしょうか?
日本国内だけなら「電動車」という世界では通用しないガラパゴスカテゴリーにハイブリッド車を押し込むことに成功したので誤魔化せるかもしれませんが、ヨーロッパ・中国のみならずバイデン政権になってEV化に一直線のアメリカ、そして今回のタイのような新興国からも締め出されたらいよいよ日本以外に売る市場がなくなりますが。
今日の本題ではないのでこの話はこの程度にしておきますが、今回のタイのように新興国・発展途上国にもEV化の動きが出てきている事実は見逃せません。
タイなどの東南アジアでは「電動トゥクトゥク」もEV化には必須
東南アジアを旅行したことがある方なら誰もが乗った経験があるでしょうが、向こうでは乗用車タイプのタクシーよりも「トゥクトゥク」と呼ばれる三輪バイクをタクシーとして利用することが一般的です。
三輪で後部座席に座ることになるので安定感もありますし、荷物も持っていても乗れる、しかも四輪より安いということで現地の人々の足代わりとして機能する重要な移動手段です。
そのトゥクトゥクもこのように電動化が進んでいます。
Grab、チェンマイで電動トゥクトゥクの配車サービスを開始 気になる料金は?
Grab(グラブ)は、タイのチェンマイでトゥクトゥクをアプリで配車することのできるサービスを開始しています。 アプリを使って呼ぶことのできるのは電動トゥクトゥクのみで一般的なトゥクトゥクは対象外。 現時点での料金体系は基本料金80バーツに距離運賃が1kmあたり12~15バーツかかるため、料金的には決して安くは
私はまだGrabで電動トゥクトゥクに当たったことはありませんが、このようなサービスも始まっています。
タイ政府の方針ではトゥクトゥクの電動化は2035年より早く推進する予定のようです。
まぁ経済水準が東南アジアの中では高いタイなので先行してできる話で、例えば私がコロナ前には毎年遊びに行っていたインドネシアならどうなんだろう?というのはありますが。
日本でも「電動トゥクトゥク」が買えます
気になったので調べてみましたが、実は日本でも電動トゥクトゥクを購入できます。
EV-LAND
EV-LAND の公式サイト。電気自動車(EV)、電動キックボード、三輪、トライクの正規販売店。世界的な電動化に対応し、最新情報や、EV車で走行体験等を随時更新予定。
こちらの「EV-LAND」という会社では電動トゥクトゥクの販売を行っており、日本国内でも購入可能です。
ユーザーにメリットなのは「二輪免許」が不要という点です。
道路運送車両法上【側車付軽二輪】トライク登録になりますので、車検・車庫証明不要で、普通免許があればヘルメット無しで運転できるのは私も調べるまで知りませんでした。
航続距離が80-100キロくらい走れるようですし、家庭用の100Vコンセントで充電できるのであれば「EV欲しいけどお金ないしなぁ」という人でもチャレンジできます。
実際に車両価格が66万からと、先日取り上げた中国の激安EVである「Wuling Hongguang Mini EV」には敵いませんが、車庫証明不要で自転車置き場くらいのスペースがあれば誰でも持てますので非常に使い勝手がいいです。
私も「テスラ・モデルS」を買うと宣言してはいますが、サイズ的にかなり大きい車で狭いスペースでは神経を使うことは否定できませんので、「自宅近辺の移動や買い物くらいなら電動トゥクトゥクでもいいかな」と真剣に購入を検討したくなりました。
将来的にはサイバートラックの荷台に積んで、サイバートラックが入れないところには電動トゥクトゥクでという使い方もいいなと思ったりしました。
サイバートラックなら以前出てきた「Cyberquad(サイバークワッド)でいいのでは?」と思うところですが、これだと電動バイクになるのでおそらく二輪免許もヘルメットも必須になります。
そこまで二輪に関心がないのであればサイバートラックの荷台に積むのは電動トゥクトゥクでもいいのでは?と思います。
別にトゥクトゥクを使うのは東南アジアなどの新興国・発展途上国でなければならないという理由はありません。
新興国や発展途上国こそ積極的にEV化するメリットが大きい?
途中から電動トゥクトゥクの話になり少し話がそれましたが、新興国や発展途上国でもEVを導入しようという動きが活発になってきています。
アフリカに輸出される中古車も電気自動車化?【想像以上のペースです】
日本では売れないような多走行・低年式の中古車がアジアやアフリカの発展途上国に輸出されるのは昔からの流れですが、その中古車にも電気自動車化の波が押し寄せているようです。ですが日本から輸出できる電気自動車が日産リーフのみなのもあり、韓国のヒュンダイなどもアフリカ市場に参入してきて、日本の独壇場だった世界にも変化が見えます。
例えば私が以前の記事で「古い日産リーフでも欲しがる」と取り上げたことのあるジンバブエではこんな動きがあります。
You Can Now Buy The New BYD E6 With Blade Battery In Zimbabwe
BYD Zimbabwe recently launched the T3 electric van in the Zimbabwean market. This made it the first company to introduce brand new electric vehicles in Zimbabwe. Previously, EV enthusiasts and early adopters had been importing some EVs directly from the United Kingdom and Japan, but these were mostly used vehicles and were predominantly preowned Nissan […]
ジンバブエは「左車線・右ハンドル」の国なのでこれまでは日本の中古車、それも燃費のいいハイブリッドのプリウスやEVなら日産リーフが人気でした。
そこに中国のBYDが「E6」というEVをひっさげて参入です。現地にディーラーを設けるようなので本気の参戦です。
価格は記事には書いていませんがバッテリーメーカーでもあるBYDお得意の「Blade Battery」を使うので高くはないでしょう。
「Blade Battery」は元々低コストであるLFPバッテリーをモジュールではなく直接埋め込むことで容量を拡大し航続距離を増やすという、安価ゆえに発展途上国でも受け入れられやすいと思います。
技術的には「Cell-to-Pack」と呼ばれますが、モジュールを廃し、セルの組み合わせをそのままパックとして車両に搭載する新たな方式になります。
BYDは世界各国にEVバスを輸出している(日本にも入ってるのは以前記事にした通りです)ので既に輸出のノウハウはあるのでしょうが、日本メーカーがEVを作らないでいる間に中国メーカーが…という構図です。
アフリカでも電気自動車(BEV)に市場を奪われる日本勢?【「ORA BLACKCAT」の脅威】
電気自動車化に向けて舵を切っているのは先進国だけではない、実は再生可能エネルギーの発電に適した自然があるアフリカも同様だということは前に話しましたが、ついにアフリカで「BlackCat」と呼ばれる中国の格安EVが販売され始めました。電気自動車で普及しないゆえに輸出する中古車もロクにない日本勢はいよいよピンチです。
日本の「低年式・多走行」の中古車の行き先といえばこれまでは東南アジアやアフリカだったのですが、ここに中国メーカーが格安のEVを投入されれば中古車市場でも日本がオワコンになる可能性が出てきました。
中国から太陽光パネルとEV持ってアフリカに行って「もうガソリン代かからなくなるよ」とセールスすればかなりウケるはず。
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) April 25, 2021
日本のような先進国以上に新興国・発展途上国では燃料代、特に移動手段となる車のガソリン代が国家財政を圧迫していることが多いです(産油国を除く)。
「送電網もロクにないくせに?」と言う人はいるのでしょうが、極端に言えば「空き地と太陽光パネル」があれば発電はどこでもできます。ローカルな電力供給であれば送電網も不要です。
「太陽光で電気代もタダ、ガソリン代もかからなくなる」というのは日本以上に新興国・発展途上国の人々には魅力的に映ることでしょう。
先ほど引用した私の以前の記事で「実は日本のEVが欲しいんだけど日産リーフだけじゃ球数が少なくて」というジンバブエの車屋の話がありましたが、こういう領域を今後中国メーカーに乗っ取られるようでは日本の自動車業界の先行きは更に暗くなることは間違いありません。
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