「脱炭素」を追い風に再エネも活用するフォルクスワーゲンのEV以外の戦略とは?【トヨタは逆走】
こんにちは、@kojisaitojpです。先日は「Power Day」におけるフォルクスワーゲンの戦略について「バッテリー生産体制の大幅な増強」と「ヨーロッパ・アメリカ・中国における充電設備の拡充」に注目して記事を書きましたが、実はもう一点重要な戦略を発表しています。
#VWPowerDay | In near future, our electric cars will not only be capable to store but also to PROVIDE energy. 🚘 ↔️ 🏠
Our MEB will offer bidirectional charging in 2022. pic.twitter.com/BP2k9r4qzG
— Volkswagen Group (@VWGroup) March 15, 2021
先日の記事では主にバッテリーと充電インフラの話を中心に話したら字数が多くなってしまい、少ししか触れられなかったV2Hをはじめとする「再生可能エネルギー」と「電気自動車(BEV)」をリンクさせるという壮大なチャレンジです。
重要なポイントは「車メーカーだから主役は車」という考え方をしない点です。あくまでも「脱炭素」「再生可能エネルギー」を普及させるための歯車の一つとして「電気自動車(BEV)」を位置付けるという点です。
今日はこのようなフォルクスワーゲングループの「自動車」という枠組みを超えた試みについて紹介します。
目次
「脱炭素」「V2H」からグリッドの形成まで視野に入れるフォルクスワーゲン
そもそも自動車を保有している人が1日24時間のうち一体何時間運転しているでしょうか?
職業ドライバーの人を除けば毎日運転していてもせいぜい1〜2時間で、残りの20時間以上は駐車場で眠っている状態です。
この運転していない時間帯の電気自動車の使い道を提案してきたのが今回のフォルクスワーゲングループです。
先日の「Power Day」でバッテリー生産能力の大幅な増強とヨーロッパ・アメリカ・中国で充電設備の大幅な増設を発表したフォルクスワーゲングループですが、「再生可能エネルギー」の活用法として「V2H」「V2X」という電気自動車の更なる活用法も提案してきました。
もちろん「V2H」という使用法は以前述べたように既に日本でも「日産リーフ」や「三菱i-MiEV」では可能となっています。
電気自動車を蓄電池代わりに使うというアイディアで、停電などの際に自宅への電力供給が止まった際に車から自宅に電力供給を行ってくれるという機能ですが、設備投資費用がかかるのもありまだそれほど普及していません。
「Vehicle to Home」で災害時・停電時も安心?【日産リーフ・三菱アイミーブの別の用途】
「Vehicle to Home(V2h)」という言葉を知ってますでしょうか? 電気自動車は「蓄電池」として活用することが可能であり、災害時・停電時も車から電気の供給を受けて日常生活を送れるという隠れたメリットがあります。航続距離が少ない初期型のリーフや軽自動車の三菱アイミーブの隠れた活用法を今日は紹介します。
これだけなら特に真新しいものではないのですが、今回の「Power Day」でフォルクスワーゲングループは更に一歩先の使用法、「車から自宅だけではなくグリッドにも接続してしまう」という新しいエネルギーマネージメントシステムを提案してきました。
地域で発電した再生可能エネルギー(太陽光でも風力でも地熱でも何でもです)が余る時間帯(主に昼間)は「蓄電池」としての電気自動車に充電する。反対に夜間の再生可能エネルギーの発電量が足りない時間帯は車から電気を供給するという「電力供給の調整弁」として電気自動車を活用するというシステムです。
「Power Day」の中でも語られていましたが、せっかく発電された再生可能エネルギーのうち6500GWh/年の電力量(270万台のEVの一年分の充電を賄える量)が使われず捨てられてしまうという問題への解決策として「電気自動車(BEV)」の活用を提案してきました。
「発電出力の調整」が難しい再生可能エネルギーの欠点を解消するために電気自動車を「蓄電池」として活用することで無駄なく使うというアイディアです。
このような「無駄を省いて最大限活用する方法」を考えるのは昔からドイツ人のお家芸のようなものです。
そして電力の双方向のやりとりに協力する、グリッドに接続してくれるユーザーに対しては「充電料金が無料」というメリットも提供するようです。
- 電気自動車のユーザーは自宅でグリッドに接続することで街中での充電が無料になる
- グリッドと車の双方向の電力供給により災害へのリスクヘッジが可能(大規模停電がなくなる)
自宅で地域のグリッドに接続するユーザーはフォルクスワーゲングループの提供する充電スポットが無料で利用できるようになるというメリットを提供され、地域の電力供給という面でも電力供給の状況に応じて「グリッド→車」「車→グリッド」と双方向のやりとりが可能になるという誰にとっても「win-win」の関係となります。
フォルクスワーゲングループは既に電力会社や自治体などと協力して実証実験も始めているので「絵に描いた餅」ではありません。
もはやただの自動車メーカーではなく「エネルギーマネージメント会社」のような存在になろうとしているところは、「持続可能な社会を作る」ことを社是としている(決して電気自動車の販売が目的の会社ではない)テスラ社と似てきたように思えます。
ただの車メーカーという枠組みを超えた「未来の社会」の形成に貢献していくというのが、今回の「Power Day」でフォルクスワーゲングループが示した基本方針であると言えます。
現在のテスラは「PowerWall」で対応ですがCybertruckは?
テスラはこれまでは「PowerWall」という自社の蓄電池があったためかV2Hを搭載する車種はありませんでしたが、昨年くらいからイーロンマスクが「サイバートラックなら搭載できるかも」的な匂わせ発言をするようになっています。
Forget Battery Range, Tesla Cybertruck Could Charge Your Home And It’ll Be Made In Texas
The Tesla Cybertruck is likely to launch with Vehicle-2-Home charging capabilities and it will be manufactured at the now confirmed Tesla Gigafactory Austin in Texas. Additionally, the Tesla Cybertruck is set for a 2021 launch, despite the Covid-19 attack, the source confirmed.
これまでのモデルSやモデル3などではサイズ的に無理があると思っていたのかもしれませんが、Cybertruckや電動トレーラーの「Semi」にはV2Hや衛星インターネットサービス「スターリンク」を搭載する可能性は高そうです。
そうするとサイバートラックは元々防弾ガラスに装甲車のようなボディ、V2Hのような電源供給機能も搭載し、停電とも無縁なスターリンクも搭載となれば下手をすると自宅より安全なサバイバル環境が手に入るかもしれません。
キャンピングカー仕様にしたサイバートラックの画像がネット上に出回ってたりしますが、いずれここで生活する人も現れる可能性はあります。充電が無くなれば近隣のスーパーチャージャーで行けば住居として使うことも可能です(笑)。
EVと再エネにシフトするテスラやフォルクスワーゲンについていけない日本メーカー
さてこのようにテスラやフォルクスワーゲンがもはや「自動車メーカー」という枠を超えて「ワクワクする未来像」のようなものを提供してくれてる一方で日本メーカーはどうでしょうか?
テスラとかフォルクスワーゲン見てると「車が主役」「車メーカーが主役」という時代が終わりつつあるな。某メーカーは絶対理解できないだろうけど
— saito koji@次の海外旅行の前にEV購入? (@kojisaitojp) March 19, 2021
「電気自動車の主導権はバッテリーメーカーにある」こと、つまり「車メーカーが主役ではなくなる」ところについて以前の記事でも述べましたが、本日述べたようなフォルクスワーゲンのプランだと電気自動車(BEV)が電力の柱として「グリッド」として機能するという、もはや「インフラ」のような役割も兼ねるようになります。
地域で発電した再生可能エネルギー(太陽光でも風力でも地熱でも何でもです)が余る時間帯(主に昼間)は「蓄電池」としての電気自動車に充電する。反対に夜間の再生可能エネルギーの発電量が足りない時間帯は車から電気を供給して回していくことになれば「安定性」という再生可能エネルギーの弱点を解消することができるわけです。
日本でも導入すれば「電力不足」などという問題とは無縁のはずなのですが、なぜかそういう方向には行かず逆走状態です。
- 「移動手段」としての「車」という視点しかない自動車メーカー(「何とかシティ」が典型例)
- 「再エネは日本に向かない」とネガキャンを続けて原発再稼働に持っていこうとする電力会社
残念ながら自動車メーカーと電力会社が手を組んでインフラを構築しようという流れには全く程遠い状態です。資源のない日本こそエネルギーをどう確保していくのかが死活問題なのですが、相変わらず「電力不足なのにEVなんてもっての他」的な電気自動車があたかも電力をもらうだけの立場のような狭いものの見方しかできていないのが現状です。
「自動車は自動車業界」「電力は電力業界」と全く別個の世界のことのように捉えられてしまうのが残念なところです。ガソリン車ではなく「電気自動車(BEV)」という存在が、「脱炭素」という新しい世界の流れがこの二つの業界の垣根を無くす方向に世界は向かってるのにと思ってしまいます。
「再エネVS原発」のような議論にもそういう傾向は見られるのですが、それはまたの機会にお話しします。
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