電気自動車(BEV)のレイヤーマスターは「バッテリー」?【中国企業を育てたのは日本企業】
こんにちは、@kojisaitojpです。バズるというと大げさですが、昨日の記事はそれなりに読んでいただけたようで良かったです。
なぜ日本メーカーはいつも同じ失敗を繰り返すんだろう?
電気自動車(BEV)でも負けパターンにはまる日本勢?【PC、スマホと同じ】 https://t.co/no8n7wqpRp— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 20, 2021
ですので昨日の話に続く話を今日もしてみようと思います。
「EVを製造すればするほど、二酸化炭素排出量は悪化する」とか「EV化を進めると原発10基必要になる」などと根拠不明確なこと、世界で主流の「再生可能エネルギーの強化」を言わず国民感情的に拒絶感を生みやすい「原発」をわざわざ出すなど「意地でも電気自動車をやりたくないんだな」という違った方向への熱意を感じます(笑)。
世界の流れが電気自動車(BEV)に一直線の中で本気でこのようなことを日本を代表する企業のトップが思っているのであれば本当に見通しが暗いです。
ですがこのようなヒステリックな反応が大企業のトップからヤフコメまで幅広く(?)見られるのも実は典型的な日本の負けパターンです。
今日は「レイヤーマスター」という経営学の用語を使って、このようなヒステリックな反応をする企業のトップや一般大衆が生まれる構図について考えてみます。
目次
「バッテリー」が電気自動車(BEV)ではレイヤーマスターになる
いきなり「レイヤーマスター」という専門用語出してしまいましたが、まず用語の解説を引用すると、
レイヤーマスターとは、ある特定の付加価値活動に集中して、競争優位性を築くプレーヤーのことです。
インテルやマイクロソフト、自転車部品のシマノ、ヒロセ電機のコネクタなどがレイヤーマスターの代表的存在です。
(セーシンブログ「【徹底解説】バリューチェーン分析とは 意味・使い方・事例」より)
さて自動車で最も付加価値があり、競争優位性のある部品はどこかというと「内燃機関車(エンジン搭載車)」であれば「エンジン」、「電気自動車(BEV)」であれば「バッテリー」になります。
日本の自動車メーカーがハイブリッド車を含む「内燃機関車(エンジン搭載車)」において優位な立場にいたのは、この「エンジン」の開発能力があったからです。
特に複雑な技術が必要な「ハイブリッド車」においては日本の自動車メーカーが無敵状態です。
実際に自動車の部品点数は普通のガソリン車で3万点くらい(ハイブリッド車ではそれ以上)ですが、この4割くらいを占めるのがエンジン関連部品です。
エンジンを握っているメーカー(トヨタならトヨタ本体とか豊田自動織機など)が主導権を握って、系列の企業や下請けに自分たちの意に沿った開発ができます。
トヨタの場合は下請けや孫請けまで含めると合計3万社以上の巨大なサプライチェーンがあり、これをトヨタ本体がコントロールします。
これが「トップダウン式(垂直統合)」のビジネスモデルです。
このエンジンという複雑な部位が存在しない電気自動車では部品点数が約1万点くらいで済みます。そして電気自動車の中で最も高い部品が「バッテリー」です。
以前も引用しましたが、バッテリーの世界シェアは「1位CATL(中国)、3位LG化学(韓国)、4位BYD(中国)」と以前であればパナソニックが独走していた分野に中国・韓国のメーカーが食い込んでいます。
電気自動車の航続距離や加速などを左右する超重要部品のシェアを中国が握っているということの意味は大きくて、
電気自動車の覇権を握っている電池メーカーが「別にお宅以外の会社と取引すればうちはやっていけるから」とむしろ自動車メーカーより強い立場になります(実際にCATLなどは100社以上と取引があります)。
つまりサプライチェーンがトップダウン式の垂直統合から部品メーカーであったバッテリーメーカーから逆流する力関係になります(水平統合)。
CATLやBYDの強さの秘密がここにあります。BYDの場合は先日も説明したように自ら乗用車・バス・トラックを生産しています。
しかも現在の電池の主要部品である「レアメタル」の原材料を握っている国は中国です(外交カードに使いたい放題)。
中国の設定した土俵の中で戦わざるを得ない環境を「電気自動車」の世界で作られてしまっていると言えます。
中国が「中国製造2025」という国家目標において定められた「世界トップ10に入る自動車部品企業集団を複数形成する」という計画に沿って年々存在感を増しています。
パナソニックや東芝などの日本の電池メーカーは何やってたの?という話になるところです。
実際パナソニックはBYDと共同事業を行なっていますし、世界ナンバーワンのCATL社の前身の会社はTDKの子会社でしたので、むしろ日本企業が中国の電池メーカーを育成していたという残念な事実が残ります。
既に日本メーカーは電気自動車という市場の「レイヤーマスター」、つまりゲームを左右できる立場からは滑り落ちていると言えます。
パソコンの「レイヤーマスター」は「WINTEL」
イメージしやすいようにもう一個パソコンの例を出してみます。
パソコンの世界で「レイヤーマスター」の座につくのが「WINTEL」の略語でも知られる「WINDOWS(OS)」と「INTEL(CPU)」になります。
「この部品がないと絶対に成り立たない上に最も高価な部品」である「レイヤーマスター」を握っている企業がどのくらい強くなるのかはパソコンにおけるWindowsとIntelの方がわかりやすいかもしれません。
ちなみに私はこの2社に支配されるのが嫌(だけが理由でもないですが)なので、iMacとMacBookを10年以上使っていますが、CPUが自社製品に変わったモデルはまだ手にしていません。
アップル、脱インテルへ 自社開発のCPU「M1」搭載した新型Mac
米アップルは米国時間2020年11月10日(日本時間11月11日)、ノートPC「MacBook Air」「13インチMacBook Pro」、デスクトップPC「Mac mini」の新製品を発表した。11月17日発売する。CPU(中央演算処理装置)に自社開発の「M1」を搭載した。今後は全てのMac製品のCPUをインテル製から自社製に切り替える。
今このブログを書いているiMacは2014年のものですので、正直重すぎて買い替えたいところなのですが、せっかくならこの「M1」に変わったiMacを買おうと我慢しています。
というのは私のように会社に所属しないフリーの立場だからこそできることであって、自分の会社のパソコンがWindowsだったら簡単に変更できないですよね。そのくらい支配力が強いということです。
Appleくらいの規模の企業にならないと「レイヤーマスター」の支配から脱出するのは困難であるともいえます。
テスラでさえ電気自動車(BEV)の肝であるバッテリーに苦戦?
バッテリーさえ何とかなればって軽々しく言うけど中国の影響力排除したいならレアメタルなしでやる必要があるのわかってるのかな
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 21, 2021
実際に中国産で日本に上陸した「テスラ・モデル3」のスタンダードレンジプラスに使われているLFPバッテリー(レアメタルのコバルトを使用しないバッテリー)も、先日の記事でも触れたように現在トラブルを抱えていて、はっきりするまで買うべきではないと私が言った状態です。
ちなみにスタンダードレンジプラスの「LFPバッテリー」は中国のCATL製、ロングレンジはLG化学製のバッテリーなのですが、別に「中国製だからダメ」というわけではありません、念のために言っておきます。
現在世界ナンバーワンのシェアを誇る中国CATL社でさえ、レアメタルを使用しないバッテリーの開発には苦戦しているという風に見た方が良いと思います。
というかテスラ社は「バッテリーの開発はさせてもBMS(バッテリーマネージメントシステム)の方には一切関わらせない」という方針ですので、もしかしたらBMSの方が問題という可能性もあります。
この場合は後日のソフトウェアアップデートで改善される可能性もありますが、現時点ではわかりません。
テスラ社は電池の世界シェア上位のCATL、パナソニック(最近干され気味)、LG化学と上位の会社を全て自社バッテリーの開発に参加させるという強力なネットワークを築いているからこそバッテリーの調達が十分にできるのですが、そのテスラをもってしてもレアメタルを使わないバッテリーを使いこなせていないと事実の方が重要です。
そのくらい難しいバッテリー開発がこの程度で解決するのでしょうか?
トヨタとパナの車載電池に「血税1兆円」投下!中韓に劣勢のEVで挽回なるか【スクープ】(ダイヤモンド・オンライン)
おお、素晴らしい決断。少なくとも「非常に遅れている」認識ができたことは評価。 ^安川https://t.co/DyNF87dwVB— evsmart (@evsmartnet) February 1, 2021
そもそも国を挙げてバッテリー開発に協力するのであれば(私はこれ自体についても批判的ですが)「何でトヨタとパナソニックだけなの?」と疑問を感じます。日産は?三菱は?東芝は?と思いませんか?
特定の企業だけをえこ贔屓するような税金投入をするのであれば、全社にとってプラスとなる「充電インフラの整備」とか「まだ未開発の洋上風力発電などの再生エネルギーに投資」のような、「儲けを出さなければならない営利企業には難しいけど、今後絶対に必要なもの」に投資してこそ税金を注ぎ込む意味があると思うのは私だけでしょうか?
バッテリーで中国依存から脱出するのは困難?
「じゃあどうすればいいんだよ!」と怒る人が出るのはわかりますが、「レイヤーマスター」を中国のCATLやBYDに握られてしまったということはそのくらいの一大事なのです。
何で「バッテリー搭載容量が少ないのは単に調達出来なかった為」と正直に書かないのかなあ。Honda eもだけど。
真価は2022年に分かる!?マツダ「MX-30EVモデル」はEVらしくない乗り味が個性(&GP)#Yahooニュースhttps://t.co/o7eyfpNIBH
— おじさん (@ojisan4648) February 21, 2021
実際に日産以外の日本メーカーは、マツダにせよホンダにせよ、トヨタ(EVは今のところレクサスブランドのみですが)にせよ搭載バッテリー容量が小さくて航続距離が短いです。
「あえて街乗りに特化しているから問題ない」と日本の自動車メーカーとズブズブの関係にある自動車ジャーナリストなどは都合の良いように解釈してくれるでしょうが、海外のメディアは誤魔化せません。
実際「ホンダ e」や「マツダ MX-30」は内装やインフォテイメントシステムこそ個性的で評価されてはいますが、肝心の電気自動車としての性能は搭載バッテリー容量から叩かれています。
思うようにバッテリー調達ができないことを知られたくないから「あえて街乗りに特化した」と言い訳をしてみたり、更に悪化すると「電気自動車が普及すると原発10基再稼働になるけど(実際はしなくても可能なのですが)いいのか?」と国民を脅して、ホームページには「EV出すけどPHEVの方が優秀だからな」的な嫌味を書き込んだりと見苦しい対応をすメーカーだらけで呆れてしまいます。
「日本産の電池のクオリティをEVで使えるレベルまで引き上げる」という国家プロジェクト自体はそこまで悪いものではありませんが、お役所仕事特有の「時間がかかる」という問題ゆえトヨタ・パナソニックがまだ本格的に取り組んでいる間にテスラや中国メーカー、フォルクスワーゲンなどははるかに先を行っていることを忘れると致命傷になります。
「バッテリーの調達さえできればEVなんていつでも作れる」と軽口を叩けるような甘い状況ではありません。
バッテリー事業に国家が投資するのは適切なの?<他にやることあるだろ?>
トヨタとパナソニックのバッテリー開発に日本政府が税金を投入して支援することが表明されました。これ自体は遅れている日本のバッテリー開発を進めるという意味ではプラスなのですが、国家が介入することのデメリットもあります。今日はそんな中途半端さ、チグハグさを感じる日本メーカーのいくつかの試みについて触れてみます。
「国が税金を投入してくれないとEVの開発なんかやらないぞ」的な開き直りすら感じてしまいますが、「さっさと自社で開発しないとテスラとか中国メーカーに絶対に勝てないよ」と私なら思ってしまいます。
冒頭の話に戻すと、この絶望的な状況にイライラしているからこそ「電気自動車よりハイブリッドの方が優秀だ」という開き直り発言(ただのヒステリー?)が出るのかもしれませんが、いくらへそを曲げても「電気自動車(BEV)が世界の標準になってハイブリッドが排除されてしまった状況では負け犬の遠吠えにしかなりません。
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