EV(BEV)とPHEV、PHVとハイブリッド(HV)って何が違うの?【定義を巡る権力闘争?】
おはようございます、@kojisaitojpです。電気自動車の世界的な定義がきちんと確立していないのもありますが、時々疑問を感じることがあります。
でもちょっとした言葉のすり替えとか定義をずらしてくるのって計画的な情報操作の可能性高いからナメちゃいけないんだよ
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 7, 2021
私がTwitterなどを見ていて引っ掛かるのは「プラグインハイブリッド車」のことを「PHEV」と言ってる人と「PHV」と言っている人に分かれてるなという点です。
私の場合はブログのネタ収集には主に英語のメディアを使いますので(中国語は無理です)、プラグインハイブリッド車のことを「PHEV」と呼ぶ習慣がついていたのですが、確かに日本のメディアを見ると「PHEV」と言っているところと「PHV」と言っているところに分かれています。
なんて言ってるとおっさんが細かいことにグダグダけち付けるなとか言われるのか?若者に(笑)
— saito koji@次の海外旅行はいつ? (@kojisaitojp) February 7, 2021
「そんなものどっちでもいいだろ!」と思うくらいの知的水準の方は正直私のブログなんか読まない方がいいと思うのですが(笑)。
今日はこのような電気自動車を巡る用語の定義の不自然さに切り込んで、どの単語がどういう車を指しているのかはっきりさせようと思います。
目次
まず「BEV」と「PHEV(PHV)」、「HV」の違いを明確に
まずは電気自動車を巡る単語としてよく出てくる「BEV」と「PHEV(PHV)」、「HV」の違いをはっきりさせておきます。この部分については世界のどのメディアを見ても異論はないようです。
- 「BEV」→充電された電力のみで走行する車
- 「PHEV(PHV)」→エンジン単独でも充電された電力でも走行可能
- 「ハイブリッド(HV)」→エンジンをアシストするのが電力で充電が不可なもの
簡単に言えば「充電が可能なのかどうか?」という点がまず「BEV」「PHEV」と「HV(ハイブリッド)」を分けます。
次に充電された電力のみで走行するのが「BEV」であり、エンジンによる動力と電力が併用なのが「PHEV(PHV)」になります。
そしてヨーロッパなどのメディアでは「Plug-In(プラグイン)」という単語で完全電気自動車であるBEVとエンジン・電力併用(充電可能)の「PHEV」の両方を指すことが多いです。
要は「Plug-In(プラグイン)という単語をそのままの意味に解して「プラグをイン(差し込んで)させて充電する車」くらいの定義に捉えておけばいいです。
日本だと「プラグイン」という単語だと「プラグインハイブリッド車」だけを指すように捉えられることも多いのでここもややこしいポイントです。
ヨーロッパではこの2つを合わせたものが「EV」と呼ばれていわゆる電気自動車として扱われます。
こちらは先日の記事で引用したドイツの2021年の新車販売台数の内訳ですが、BEV(完全電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)までを合わせて「Total EVs」と称しており、電気自動車として扱っています。
よくマスコミなどで言われる「電動化率」というのはここまでを指します。
電力とエンジンを併用して走るという点では「PHEV」と一緒ですが、外部からの充電が不可能なハイブリッド車は電気自動車に含まれない(だから「ハイブリッド」という別な項目に分かれています)のが世界的な定義です。
トヨタの「プリウス」に至っては「プラグインハイブリッド(トヨタの定義だとPHV)」と「ハイブリッド」の両方があったりもするので更にややこしいです。
となると既に不自然なことに気づきます。
新車全て電動車の実現は2035年に…菅首相がより明確に提示 | レスポンス(Response.jp)
菅義偉首相は1月18日に始まった通常国会での施政方針演説で、国内販売車の電動化について「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明した。これまで「2030年代半ば」とされてきた達成時期をより明確にした。
日本政府の電動化の方針にはなぜか「ハイブリッド車」も入っています。世界各国でこの基準を採用しているのは日本と中国くらいになります。
「中国という巨大マーケットがOKなら別に問題ないだろ?」と思うかもしれませんが、肝心の中国の車メーカーは「NIO」や「BYD」などに見られるようにほとんどが電気自動車(BEV)専業です。
あの中国がいつまでも日本車に有利な定義と制度を採用し続けると思いますか?
ある日突然(そういう国ですから)「アメリカ・ヨーロッパの基準に合わせてハイブリッド車は販売禁止」とやられても文句は言えないというのを日本の自動車メーカーは自覚しているのでしょうか?
「PHV」と「PHEV」は同じもの?
次に「PHEV」と「PHV」は同じ「プラグインハイブリッド車」を指してはいるのですが、実は自動車メーカーによって呼び方が若干違います。
例えば日本の自動車メーカーを見ても、
- トヨタ→「PHV」と呼ぶ
- 日産・三菱・ホンダ→「PHEV」と呼ぶ
有名な車種だと三菱アウトランダー「PHEV」などであれば誰もが分かるかと思いますが、三菱は「PHEV」と呼んでいます。同じグループなので日産やフランスのルノーも同様です。
逆にいえばトヨタだけが「プリウスPHV」などとプラグインハイブリッド車のことを「PHV」と称しているとも言えます。
今日は別にノルウェーを褒め称える目的ではありませんのでご安心(?)ください。
このように英語のメディアなどもプラグインハイブリッド車のことを「PHEV」と称しているという具体例です。
他にもこのようにフォルクスワーゲン社、ヒュンダイグループなども「PHEV」と称しています。
私が見た限りだと「PHV」と称しているのはトヨタ一社だけなのですが。。。
プラグインハイブリッドを「PHV」と称してるのはトヨタだけ?
正式名称が国際的に決まっているわけではないとのご指摘を受けましたが、ざっと見た限りだとプラグインハイブリッド車のことを「PHV」と称しているのはトヨタくらいです。
ただ何故か日本ではマスコミや役所関係はトヨタが名乗った名称を正式名称と決める傾向があるので、日本では何故かプラグインハイブリッドのことを「PHV」と呼ぶ人が結構多いです。
名称までガラパゴスかよと思ってしまいますよね(笑)。
ここから先は私の邪推ですが「PHEV」と称すると「EV」という名称が出てしまう。でも「PHV」と称すると自社が世界のトップクラスの技術を誇る「ハイブリッド車(HV)」の側面を強調できる。
トヨタの「EVなんかやりたくない」という意思表示なのかなと邪推できます。
もちろん根拠はありません、私の推理ですので悪しからず。
「そこまで深読みしなくても」とツッコミが入るかもしれませんが、マーケティング戦略上「名前」というのは商品のイメージを左右する、企業が最も神経を使うところです。
そこにわざわざ「PHEV」から「E」を取って「PHV」と自称することに何か意図を感じずにはいられないのは私だけでしょうか?
「e-Power」というのも謎の規格です
ガラパゴスな名称を使っているのは何もトヨタに限ったことではありません。
「リーフ」を始めとして電気自動車(BEV)を世に大量に送り出している日産でさえ「e-Power」という電気自動車(BEV)なのか、プラグインハイブリッドなのか、ハイブリッドなのかよくわからない名称で新型ノートなどを売り出しています。
日産のホームページを見てもこれがBEVなのかPHEVなのかHVなのかはっきり書いていません。
ですが「e-POWERの特徴は、電気自動車の駆動用電池をエンジンと燃料タンクに置き換えたメカニズムと考えれば分かりやすい。エンジンは発電機の作動に使われ、ホイールを直接駆動することはない」とありますので、分かる人であれば「あぁレンジエクステンダーか」と反応できます。
要はエンジンは発電用に存在しているだけで、動力はガソリンとエンジンによって発電した電気で走るということです。
ただ残念ながらこの規格だと「内燃機関車(エンジン搭載車)」の新車販売を禁止する予定のノルウェー(2025年以降)、イギリス(2030年以降)には対応できません。
同様に現在のところ国レベルでは決まっていないものの2030年からパリ市内(フランス)やアムステルダム市内(オランダ)に内燃機関車の乗り入れを禁止する予定の国でも大幅に売り上げがダウンすることでしょう。
せっかく現在でもヨーロッパで上位の売り上げを誇る「リーフ」や2021年発売予定の「アリア」のような電気自動車(BEV)を用意している日産が取るにしては残念な行動です。
むしろこの「e-Power」が電気自動車であると錯覚して買ってしまうユーザーが現れて混乱するだけではないでしょうか?
先日の「2035年までに電気自動車化」の発表にも日本以外の国では電気自動車に含まれないハイブリッド車も含まれていたりと、ちょっと何をやりたいのかわからない日産の行動も謎です。
「言葉」から意図を読み取るのも「メディア・リテラシー」
以前「メディアリテラシー」という単語を使って説明したことがありますが、
テレビ番組や新聞記事などメディアからのメッセージを主体的・批判的に読み解く能力。リテラシーというのは「読み書き能力」のことで、読む力と同時に書く力も含む。情報をうのみにせず、どんな意図で作られ、送りだされているかを自分の頭で判断する。そしてそれを通じて自ら情報発信する力を身につける。(略)背景には放送と青少年に関する委員会の設置に至るような、子供や若者への放送メディアの影響に対する関心の高まりがある。
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」
「情報を発信する側がどのような意図で情報を加工し、どのような手法で発信しているか」を把握した上で、情報を受け取る能力が「メディアリテラシー」です。
「トランプvsバイデン」から学ぶ「メディアリテラシー」と「ファクトチェック」
アメリカの大統領選挙もようやく結果(まだ係争中)が出ましたが、今回はSNSやYouTubeなどで様々なデマを流す人も多く、大手マスメディア自体も中立とは言えない報道をしていたので、何が真実なのかわかりにくかったかと思います。ネット社会になって自分で情報を吟味するメディアリテラシーとファクトチェックが必須になっています。
電気自動車の話をする時もなぜ定義がこんなに混乱しているのか?を考える必要があります。
日本の技術が世界トップクラスである「ハイブリッド車」を「電気自動車」のカテゴリーに含めれば最も得をするのが日本企業になりますよね?
反対にハイブリッド技術の弱いヨーロッパ勢やアメリカ勢、例えばフォルクスワーゲンやクライスラー、GMなどからすると「ハイブリッド車」が入ってくることは望まないはずです。
彼らからすれば「日本車を排除するのならハイブリッド車は除外した方が自分たちに有利」だと思いますよね。
そうなんです、実は電気自動車という新しい技術を巡って世界が「権力闘争」をしているとも言えます。「権力」という言葉が不適切なら「覇権争い」とでも言っておけばいいでしょうか。
ただ残念ながら日本勢は、以前お話ししたこともありますがイギリスなどで「ハイブリッド車を加えてくれ」と圧力をかけたものの失敗し、世界各国が「電気自動車(それもPHEVすら除外)」のみを認める方向に一直線です。
既にヨーロッパ市場は抑えられてしまい、アメリカもバイデン政権の誕生により全面的に電気自動車化にシフトしている、大国で唯一ハイブリッドOKと言っている中国も国の自動車メーカーのほとんどが電気自動車専業でいつ梯子を外されるかわからない。
規格争いで既に日本のハイブリッド規格は負けたと言えます。
「実は電気自動車はエコじゃない」とか「ハイブリッドこそがエコだ」とか日本国内でいくら騒いでも世界の流れには何の影響も与えません。
実際にどうなのか?ではなく「世界でスタンダードと認められているのはどっちなの?」という話です。
ネット上で電気自動車の悪口を拡散している方々は、英語か中国語で世界に向けて発信しないとただの日本人の内輪の愚痴で終わってしまいます。
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