電気自動車(BEV)に乗っても二酸化炭素排出量は変わらない?【〇〇論文の弊害】
こんばんは、@kojisaitojpです。最近は「航続距離1000キロ」とか「350kWの急速充電」のようにやたらとハイスペックをEVに求める姿勢を疑問視してみましたが、これはEV好きが陥りやすい問題でした。
今日は方角を変えてEVが嫌いだという方々が陥りやすい罠を取り上げてみます。
CO2排出量の件。EVsmartさんを参照なさったところまでは良かったのだけど、最後まで読まれなかったようです。https://t.co/YHZtvhRiAi
マツダ論文で仮定されている技術やデータは古く、特にバッテリ生産時の排出量が現在の一般的な値より大幅に大きいです。(1/n)— Keiichiro SAKURAI (@kei_sakurai) December 19, 2020
EVのことを少しでもかじったことのある方であれば「マツダ論文」という名前を聞いたことがあるかと思います。
実はEVについて語られる批判の大部分はこの「マツダ論文」に書いてあることそのままだったりもします。
今日は「EVはエコじゃない」と叫んでいる方々の根拠が既に時代遅れで現代には当てはまらなくなっていることについて解説します。
目次
「EVの方が二酸化炭素の排出量が多い」は本当なのか?
EVのことを否定したい方々が必ず出してくる「EVはエコじゃない」という批判はだいたい次の3点に集約されます。
- EVはバッテリーの製造過程で二酸化炭素を大量に出す
- EVのバッテリーはスマホのようにすぐ消耗する
- EVは化石燃料(石炭・天然ガス)を燃やして発電した電力で走るからエコじゃない
試しにヤフーニュースのコメント(ヤフコメ)を見てください。EVの悪口を言っているコメントの大半はこの3つに集約されていると思います。
これ以外だと「脱炭素」の世界的なトレンドにケチをつけて「脱炭素はヨーロッパが仕掛けた陰謀だ」とか「ハイブリッドやエンジン開発で勝てないヨーロッパが日本潰しでEVを広めている」辺りがよく出てくる批判でしょうか。こっちは今日の本題ではないので触れませんが。
話を先ほどの3点に戻しますが、これらの主張は既にエビデンスをあげて否定することができるというのが現実です。
EVはバッテリーの製造過程で二酸化炭素を大量に出すからエコじゃない?
これがEVを批判する人々が最もよく使うロジックで「確かに走行中は二酸化炭素ゼロだけど、バッテリーの製造時や廃棄時に大量の二酸化炭素を放出するからガソリン車よりエコじゃない」という批判が典型的です。
「LCA理論」と呼ばれることが多いこの疑問について参照されることが多いのが冒頭で指摘した「マツダ論文」です。
具体的な内容については「ガソリン車については甘い基準」「EVに対しては厳しい基準」で書かれていることは既に様々なところで指摘されています。
例えばこちらのサイトでも詳しく解説されていますので、よろしければご参照ください。
マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか? | EVsmartブログ
最近よく聞くWell To Wheel (WtW)。油田から車のタイヤまでという意味で、実際にエネルギーのもととなる資源の採掘から、車が走るところまでのエネルギー消費を合計してみても、電気自動車は環境にやさしいのでしょうか?
確かにバッテリーを工場で生産する時点で二酸化炭素が排出されるのは事実ですが、それであれば「工場で使われる電力が再エネ100%であれば問題ないよね?」という話になります。
そして生産時に二酸化炭素排出量をゼロにする、工場の電力を100%再エネ由来の電力に切り替えるというのも現在であれば「ESG投資」という観点から求められるようになっています。
ポルシェ、部品サプライヤーに100%再生エネルギー利用を要求–対応不可なら「契約なし」
Volkswagen(VW)傘下の自動車メーカーPorsche(ポルシェ)は、自動車用の部品を納める供給業者に対して、部品製造時に再生可能エネルギーを使うよう求めた。エネルギー源の切り替えができない場合は、将来的に契約を結べなくなる、とした。
これはポルシェの例ですが、車メーカーに限ったことではなく例えばAppleやGoogleなどでも下請けのサプライヤーも含めた全ての関連会社で「脱炭素」「100%再生可能エネルギー」を使用することを求めてくるのが最近の流れです。
これが守れないのであればサプライヤーから外されてしまうわけで、生産時の二酸化炭素排出量は右肩下がりに減っていきます。
これに対しガソリン車やハイブリッド車が排出する二酸化炭素の量は新車時からずっと同じ量になり減ることはありません。
となると「ゼロエミッション」の工場で生産されたEVは公道を走るようになっても二酸化炭素排出量がゼロ、反対にガソリン車やハイブリッド車は走っている間ずっと二酸化炭素を排出し続けることになります。
「LCA理論」なるライフサイクル全体での二酸化炭素排出量で見てもEVが優位に立てることが既に判明しているのに相変わらず用済みになった「マツダ論文」を根拠にEVを否定しようとする人が多いのには呆れます。
EVもスマホ同様にバッテリーがダメになる?
「バッテリーが数年で消耗して交換になるから費用もかかるしエコじゃない」というのもEVを知らない人がEVを否定する根拠として出してくることが多いです。
私のクルマは今8万6千キロで元気ですよ!https://t.co/i262s817nQ
通常、電気自動車は25万キロくらいは十分寿命があると考えられています。 ^安川— evsmart (@evsmartnet) July 7, 2021
テスラの場合は「BMS(バッテリーマネージメントシステム)」が搭載されており、バッテリーが加熱し過ぎないように、常に適切な温度で充電できるように調整する機能があります。
これにより常にベストのコンディションで充電できますので、スーパーチャージャーなどで急速充電を繰り返してもほとんど消耗しないことが実証されています。
この「BMS」とこのシステム自体を制御する「オクトバルブ」については以前の記事で紹介してますのでご参照ください。
オクトバルブとBMS(バッテリーマネージメントシステム)を用いるテスラのイノベーションとは?
テスラがモデルYから投入した「オクトバルブ」という独自の温度管理システムについて解説します。「BMS(バッテリーマネージメントシステム)」によってバッテリーの温度調整の成否が電気自動車の航続距離やバッテリーの寿命も左右する電気自動車の要のシステムにイノベーションをもたらすことで、テスラが更に進化したことがわかります。
ちなみにテスラのようなBMSを持たない空冷式であるゆえにバッテリーが発熱して消耗すると言われている日産・リーフも年々バッテリー性能が向上しています。
年式別のリーフのバッテリー消耗率ですが、確かに初期(2013年くらいまで)はバッテリーがかなり消耗していました。
ですが2016年(30kWhのモデルが追加された初代後期型)以降は5年乗っても10%くらいしか消耗してません。
EVの技術が毎年進化しており、EVの中心となるパーツであるバッテリーも当然ですが進化しています。
消耗が激しく数年で航続距離が半分以下になるEVが続出した2010-2012年くらいのリーフを取り上げて「EVはバッテリーがすぐダメになる」などと言っている人は最新のデータにアップデートすることをお勧めします。
スマホのように2年くらいでバッテリーがダメになるようでは車としての性能を発揮できないことは各メーカーも心得ているわけで、それゆえにバッテリーマネージメントシステムでの温度管理などをすることによりバッテリーのダメージを最小限に抑えようとしています。
EVは化石燃料(石炭・天然ガス)を燃やして発電した電力で走るからエコじゃない?
「EVの電力が火力発電で二酸化炭素排出して発電した電力なら意味がない」という批判も必ず出てきます。
ですがこれも「今の統計」を見て言っているだけの話であって世界各国が「再生可能エネルギー」中心にシフトしてくるに従って二酸化炭素の排出量は勝手に減っていきます。
世界の電源構成における各種電源シェアのグラフ。昨年度の時点で再エネ(水力除く)の比率が原子力をわずかに上回ったというニュースが駆け巡りましたが、今年はさらにその傾向がはっきりと現れています。ちなみに、kWでなくkWhの話ですよ。 pic.twitter.com/bUTZBFDDoj
— 安田 陽 (@YohYasuda) July 9, 2021
このように世界中の発電比率が徐々に再生可能エネルギーが中心にシフトしており、石炭火力などの二酸化炭素を排出する発電方法は主流ではなくなりつつあります。
などというと「アフリカとかの発展途上国では無理だろ」のような批判が飛んでくるのもお決まりのパターンなのですが、私のブログでも以前から解説しているようにアフリカや東南アジアなどの新興国・発展途上国でも再生可能エネルギーとEVの導入が進んでいます。
実は日本より先進国?アフリカでEVが広まる理由とは?【スマホと同じ】
以前から再生可能エネルギーに適した大自然のあるアフリカ諸国では電力を自給自足できて、その電力でEVを走らせればガソリン代もかからないという、国家支出の大部分を占める燃料代が節約できると積極的に取り入れようとしています。今日は古いガソリン車をEVに改造する会社の例を出しながらアフリカのEVと再エネ事情について触れます。
「再エネ」「マイクログリッド」「EV」で格差を埋めるアフリカ【日本の方が後進国?】
先日紹介した南アフリカ共和国ほど裕福ではないアフリカ諸国にもXpengやBYDを始めとする中国のEVメーカーがどんどん進出しています。再生可能エネルギーとマイクログリッドによって電力供給を可能にし、EVによって移動手段を手にすることで先進国と発展途上国の格差がどんどん埋まっていく未来の可能性について解説します。
ものすごく簡単に言ってしまえば「送電網を整備しなくても太陽光パネルさえあればどこでも発電できる」「ガソリンスタンドなどのインフラを整備するよりコンセントから充電する方が費用もかからなくて簡単」ということです。
むしろ日本のように国内全体に送電網が行き渡っており、数が減っているとはいえどこにでもガソリンスタンドがある日本のような先進国の方が抵抗勢力になりやすいと言えるかもしれません。
EVという技術革新に背を向ける「加齢臭ジャパン」になりつつある?
「脱炭素」に関する議論でよく見かけるパターンが「それいつの時代の話なの?」という位古臭い理屈が持ち出されることが多いです。
古いマツダ論文よりもこちらをお勧め。
車体やバッテリーを製造する際の排出はEVの方が多いが、走行用の電力調達に伴う排出は概して少なく、ある程度以上の距離を走るとEVが全体的に排出削減になる。また購入後に電力の脱炭素化が進むと、その分さらに排出削減幅が拡大する。https://t.co/yYW0lZKtiP https://t.co/orJLvb5snp pic.twitter.com/seBQgZxcbd
— Kazuyoshi Gamada, PhD, PT (@kazgamada) April 12, 2021
アンチEVのバイブル(?)のような存在として今でもEVを攻撃する人が頻繁に利用する「マツダ論文」を思考停止で受け入れるような態度自体が私が日々主張する「加齢臭マインド」だとも言えます。
繰り返し言ってますがこの「加齢臭」は実年齢ではありません。80代のお爺さんでも新しいものを積極的に取り入れようとする頭がフレッシュな人はいますし、反対に20代の若者でもどっかで植え付けられた固定観念に囚われて思考停止状態で生きている人もいます。
この「固定観念に囚われ思考停止状態」であれば年齢が何歳だろうが私は「加齢臭」と呼ぶことにしてます。
先日も取り上げたようにEUが「ゼロエミッション車」以外の販売禁止、つまりハイブリッド車も含めた内燃機関車(ガソリン車、ディーゼル車、PHEVも)の新車販売を2035年から禁止する方向に動いています。
このための主役としてEVの開発、技術革新に世界の自動車メーカーが競っている今の状況に背を向ける姿勢が日本の将来にプラスになるとは全く思えないというのが私の見解です。
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